アルバム・レヴュー #02 再生ハイパーべるーヴ 「ぱんださんようちえん」

4人の音楽好きが1枚のアルバムで交差する【Xレビュー】。
第2回は、再生ハイパーべるーヴ の 「ぱんださんようちえん」です。

再生ハイパーべるーヴ 「ぱんださんようちえん」

主にゲームやアニメなどの音楽を手掛けるbermei.inazawa氏、みらゐ氏、そしてTox2RO氏の3人が中心となって制作された、2002年リリースの作品。   
本作をめぐるキーワードのひとつは「同人音楽」であるようだ。そのような言葉があることを今回初めて知った。同人音楽ということであるならば、本作の背景にはゲームやアニメ、漫画やライトノベルなどとリンクする音楽の作法や、それを愛好する同人サークルの趣味的な志向がまずある、ということなのかもしれない。しかし今回はそうした文脈は保留し、これを純然たる音楽アルバムとして聴いてみたい。
 オープニングだが、「やっほー、ぱんださんだよお」という幼児の無邪気な語りかけから始まり、パンダを愛でるキャッチ―なダンスナンバーが主題として掲げられる。そして小ネタをはさんだ後に、「右手がパーで、左手がチョキで」という手遊びか音ゲーなどを思わせる楽曲がやはりダンスビートで続く。
 ここまでの流れは、ゲーム音楽クリエイター集団の面目躍如といったところだろう。しかし彼らがその底知れぬ音楽的素養をみせ始めるのは、続くM5からではないだろうか。
 可憐なウィスパーボイスによる歌メロが大変美しく、転調のさせ方も見事なM5。ノーブルな旋律の一方で、性急かつ繊細なリズムが刻まれているところにも職人肌を感じる。周到。
 白眉はM8~M11の流れだろうか。夏休みをめぐっての思春期的な原風景が描かれるM9は矢野顕子が歌っても良さそうだし、美しくもどこか虚ろなメロディーのM11は大貫妙子に歌ってもらいたくなるほどの佳曲。
 幼児番組的な喧噪が散りばめられつつも、本作は散漫な企画モノや色モノに陥ってはいない。それは取りも直さずM5以降に配された数多の高性能ポップスによることと思う。実に音楽的なアルバムなのだ。
 さて、随所に配された道化について。道化であるのだからただ味わえばよく、深追いは無用と思いつつも、M12『もう限界』にだけ触れておきたい。
 ゲームに興じる青年の依存症めいたモノローグなのだが、彼はいつまでもピコピコいって終わらないゲーム音の中、「もう限界」と最後に観念したようにつぶやく。その疲弊した様子から、ゲームに耽溺する青年自身の限界、またそうした息子の姿を蔑みながらいらつく母親の我慢の限界をも連想する。ゲーム音楽クリエイターのアイロニカルな自嘲。ここに本作の痛烈な批評性を感じた。こういうのがなければ道化は苦味を失い、当てはずれの客寄せパンダになってしまう。 

Ⅹレビュー  (Mozaic Magazine)
https://mozaicmagazine.jp/2020/12/13/138/


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