アルバム・レビュー #4  星野源 『POP VIRUS』

4人の音楽好きが1枚のアルバムで交差するXレビュー。今回のお題は、星野源の『POP VIRUS』です。

星野源 『POP VIRUS』  
                                                                                                         浅井直樹
 2018年にリリースされた星野源の14曲入りスタジオ・アルバム。今回初めて聴いたアーチストなのだが、まずその卓越したリズム・センスに圧倒される。
 ファンクやソウルといった黒人音楽を基調としながらも、クラブ・ミュージックやエレクトロニカ風のリズムをも含めた数多のパターンを縦横無尽に行き来するそのフットワークが素晴らしい。しかもそれらは巧みにミックスされ、また緻密な引き算によって必要最小限のところまで最適化され、結果として実にシンプルなリズム・パターンになっているところがなんとも秀逸。
 リズム感というのはもちろん訓練によって上達する面もあろうが、それは背が高いとか低いといったことと同じように、よりバイオロジカルに規定されている資質だと思う(この辺りはボーカルもそう)。本作を聴いていると、作者が本能的にリズムを編み出している印象があり、その並外れた身体能力に感服するばかりである。
 楽曲の方もテンション・コードが多用され、いわゆるお洒落で都会的なテイストがあり、歌メロはもちろん、ストリングスやホーンのアレンジも実に洗練されているので70~80年代の国内シティ・ポップも背景にある作品だろう。
 シティ・ポップやJポップ、渋谷系といった言葉は、音楽の内容のみならず、日本人特有の器用さ、学習能力の高さ、再現技術の巧みさをも示していると思うのだが、本作はまさにそうした日本人が生んだ安心の高品質ポップスという感じがする。
 歌詞の随所からは、作者の生に対する肯定的な意志、芯の強さが伝わってくる。冒頭のM1から、「刻む一拍の永遠を」「始まりは炎や棒切れではなく音楽だった」「渡す一粒の永遠を」と高らかに歌われているが、ここには音楽への絶対的な信頼と、自分たちの生を力強く肯定する旨が宣言されているようにも聴こえる。かといって無邪気な楽天主義に陥っているわけではなく、例えばM7において「心をそのまま伝える言の葉、見つからない」「いつまでも落ちないな、あの枝で枯れた葉」などと歌われるところに、人と人との距離感やコミュニケーションの困難さについて慎重に吟味しようとする作者のデリカシーが表れている。
 個人的にとても面白いと思ったのはM8だ。青年が自室でアコースティックギターを弾き、作曲しているかのようなアンビエンスで曲が始まり、そこにスタジオでのサウンドが重なっていく。やがてまた青年の部屋で鳴る音だけになり、ギターの練習やチューニングまで行われてしまうという演出。楽曲自身や、音楽制作という行為自体をその曲中においてメタレベルから対象化しようとする入れ子構造はそう簡単に成功させられるものではない。こうした自己言及的な視点をもつミュージシャンの将来には無条件で期待してしまう。

Xレビュー
https://www.mybackpages-jmx.com/pop-virus-gen-hoshino-2457


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