クラバート

突然のおすすめ本の紹介。。

クラバートという題名で、大どろぼうホッツェンプロッツを書いたプロイスラーによる魔法使いの弟子のお話。主人公の名前はクラバート、舞台はドイツ。

このお話は、ドイツ東部ラウジッツ地方に伝わる、魔女や魔法使いの伝説をもとにして描かれたものだそう。

ちょうど去年の5月頃のこと、ジブリ美術館を訪れその中にある本屋さんで、宮崎駿さんが「自信を持っておすすめできます。」と書いたポップを見て手に取った。

(わたしの地元の小学校はジブリのすぐそばだったので、なんだかんだと20回は軽く行ってると思う。ジブリ美術館の中のカフェで食べるごはんもとーってもおいしい。 チケットは前もって予約しなきゃいけないけれど大人1000円と、ふつうに映画を見るよりも安い、! 行くのは初めてというジブリ好きな友達とは、午後だけじゃ時間が足りないほどだった。)

クラバートはハウルの動く城の土台になったお話なんだそう。

手に取り2、3ページめくるといつも好んで読む文体とはちがって、言い回しも少し固さのある時代を感じさせるものだった。

しかしそんなことが気にならないほど、舞台であるドイツの骨にしみるような空気の冷たさ、新年に振る舞われるハムやベーコンをすそ分けてもらう少年たちの生活、そして、クラバートが真夜中に向かうコーゼル湿地のほとりの水車場、その土のぬかるんだ様子なんかがありありと伝わってきて、ぐいぐいと惹き込まれて行った。


それにジブリで本を買うと、オリジナルのかわいい包装紙から色を選ばせてくれて本にカバーをかけてくれるのも、うれしい。(ジブリ美術館内で上映される短編映画「星を買った少年」の舞台をスケッチしたものかな?)

家に帰って一息に読んだ、のが去年のこと。

そしてついさっき、2度目を読み終えた。

一度読んだから、結末を知っているはずなのに最後までドキドキして、何度も文字を確かめるようにページをめくった。

わたしは「大どろぼうホッツェンプロッツ」もゆかいであかるくて大好きなのだけど、このお話は全く真逆であやしさと疑心と巧妙なしかけに、主人公クラバートの勇気が絡み合って運命が回りだす。

そういう厚み、重み、がずっしり詰まった物語だ。

ドイツの湿った寒い冬、泥炭掘り、職人たちの食べるオートミール、年に2度ほどの宴、ものすごく緻密な描写で、行ったことも無いのにドイツの空気を知ってるような気になってしまう。


フランスで暮らすことになったとき、選びに選んだ20冊ほどの本を、スーツケースの服のすき間にぎゅうぎゅうに詰め込んで、はるばる運んで来た。

この本もそう。

なんていうか今思えば、ちゃんと郵便は届くし、そんな2個のスーツケースが合わせて50キロ(!)なんて運ぼうとしなくてもよかったんじゃない?ってばかばかしくも思うけど、なんだかんだビビリのわたしにとって、この本たちがそばに置けるということが心の支えになったんだな、と思う。

ページをめくれば存在する世界というのにどれだけ心を躍らせてきただろう、すくわれて来ただろう。

本を開くだけで。


なぜだか唐突に、ものすごく、この本をおすすめしたくなったのです。

ああ、まだ見ぬ物語はわたしになにを見せてくれるのでしょう。

2016.05.16

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