甲子園

仙台育英が準優勝を決めてからほんの数時間後だったけれど、仙台のアーケード街にはすでに祝・育英準優勝のムードが立っていた。「祝準優勝 感動をありがとう」と書かれた垂れ幕が、アーケードを覆う天井近くや、飲食店の入口横なんかに下がっていた。
目線と同じくらいの高さに下がっている垂れ幕に目が止まって(ほとんどの垂れ幕はとても高くから下がっているので、人間の目線の高さくらいというのは、なかなかめずらしい気がした)じっと見ていると、垂れ幕にもともと印字されていたのは「祝優勝」の文字であることに気がついた。その上から、「祝準優勝」と書かれた布が貼り合わせられているのだった。
そうか、仙台育英の優勝を祝いたい気持ちがあったから、このお店のひとは、垂れ幕は優勝したときのものを作って用意していたんだな……
それは小さな祈りみたいなもので、ささやかだけど、きっと力があるはずだ。

しばらく歩いてから、はっ!と気がついて、「去年仙台育英が甲子園優勝したときの垂れ幕を取っていて、それをリユースしたのではないか……?」と思いあたった。祈りというよりも、あの蕎麦屋の方は物持ちがよい、という話である可能性も出てきた。いやでも、その垂れ幕を取っておくことも、祈りではないか……

とにかくわたしは、あの垂れ幕を見た瞬間に「なんと素敵な祈りか」と思える自分でいられてよかったな、と思うのである。

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