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山崎菊乃氏 2024年5月7日参議院法務委員会(民法改正の参考人聴取)

特定非営利活動法人 女のスペース・おんの山崎菊乃氏の参考人聴取を文字起こししました。

山崎菊乃氏
山崎菊乃です。本日は私のお話を聞いていいただける機会をいただき、本当にありがとうございます。私はDV防止法が施行される前の1997年に3人の子どもと共にシェルターに避難した経験があります。その後20年以上DV被害者支援現場で、シェルター活動や自立支援活動を行っております。
現在、全国女性シェルターネットの共同代表であり、普段は北海道でシェルターの運営をしています。
まず、私の被害者としての経験談をお話しさせていただきます。

大学時代に知り合い、対等に付き合っていたはずの夫は、結婚式の日から変わり始めました。私の行動が自分の思い通りでないと機嫌が悪くなるようになったのです。
また、私の実家に対しては非常に攻撃的になりました。私の両親が遊びに来ると不機嫌になりました。初めてのお産は里帰り出産でした。自宅に帰るとき、実家の母がお米を10キロ私に持たせてくれました。これに対し夫は「俺を馬鹿にしている。」と実家に米を送り返したうえ、新生児のそばで寝ている私の顔を殴りました。掛け布団が鼻血で真っ赤になりました。翌日私は夫に「暴力を振るうのであれば離婚する。」と言いました。すると彼は土下座をして涙を流し、「離婚するくらいなら死んだほうがいい。」などというので、私はこれほど反省しているなら、と離婚を思いとどまりました。
しかし、1度暴力を振るわれてしまうと、夫婦の関係がまったく変わるのです。夫の顔色を見て、怒らせないようにと振舞う癖が私についてしまいました。彼が暴力を振るうのは自分のせいと感じ、努力しましたが、何をしても収まることはありませんでした。人格を否定され、人間扱いされないような言動が絶えずある生活は身体的暴力よりつらく、私はいつも落ち込んでいました。子どもたちはいつもピリピリしていました。
多くの人は、D V被害者に、なぜ逃げないの?と言いますが、これまで生活してきたすべてを捨てて、将来的な保証も住む場所もない未知の世界に人は簡単には飛び込んでいけません
ところがある日、怒鳴り、馬乗りになって私の首を絞める夫に向かって、長女が泣き叫びながら「父さんやめて!」と包丁を持って向かっていったのです。
子どもたちのためにと思っていた私の我慢が、子どもたちを大きく傷つけていたことを思い知らされ、避難するしかないと決断し、DV防止法がまだない中、民間団体が運営しているシェルターに避難しました。
先日、私は勇気を出して、当時中学3年生だった娘に、包丁を持ち出したことを憶えているか聴きました。娘は「はっきり憶えている。いつもカッターを持っていて、何かあったらお母さんを助けようと思っていた。朝は泣きながら登校していた。」と話してくれました。何十年も経っていたんですがショックでした。

お手元の資料1、2022年に「シングルマザーサポート団体全国協議会」が行ったアンケート調査の結果、1ページをご覧ください。離婚を決断した理由で一番多いのが、「子どもに良くない影響があった」というものです。次のページ、その「子どもへの悪影響」とは何か、の具体的内容では、「夫婦が対立・口論したり、自分が馬鹿にされている様子をこれ以上子どもに見せたくない」が最多です。司法統計で「性格の不一致」とされてきた中身がこれらです。

大きな決断をして避難した先に何があるのか。
シングルマザーの平均年収は200万円くらいと言われています。ダブルワーク、トリプルワークをして自分の健康を顧みずに働いているお母さんがたくさんいます。子どもに1日3食食べさせても自分は2食で我慢している人もたくさんいます。
私も、3人の子どもを抱えて生活に困窮し、生活保護を受給しました。そのような大変な生活を強いられるのに、逃げざるを得ないことを、どうか皆様にご理解していただきたいと思います。

日本社会のDV被害に対する認識はまだまだ薄く、暴力から逃れることも難しく、相談機関からさえ理解のない対応を受け続けています。この状況を改善することなく共同親権にすることは、逃げることしか許されない日本の被害者がさらに逃げられなくなることが目に見えています
配布資料2、「ここがおかしい日本の被害者支援」を見ていただくと、現状がわかっていただけると思いますが、DV被害者が相談や支援を求めた時にどんな対応があるかを時系列的に挙げてみたいと思います。

まず、一番初めの相談は実家や友達が多いのですが、「そのくらい我慢しなさい、子どもがいるんだから離婚なんかしちゃダメ」といった反応は全く珍しくありません。身近な人から否定されたことで、逃げられない・DV被害を受けた自覚が持てない状況になっているわけです。

そして次、勇気を出して相談機関に行くと、「アザがないから、殴られていないからDVじゃないですよね」「身体的暴力に比べるとたいしたことないよね」と言われるのは、本当に「あるある」です。日本のDV法ではDVを身体的暴力だけではないとしています、しかし、日本中で「身体的暴力以外はDVじゃない」とする運用が残念ながら行われてきました

相談の次は「一時保護」になります。シェルターに避難することです。全国の都道府県に公営のシェルターがあり、DV被害者を保護することになっていますが、資料の3を見ていただくと婦人相談所、今は「女性相談支援センター」となっていますけれども、なかなか一時保護してくれないというのが、全国共通の悩みです。
「身体的暴力がないからシェルターは入れない」「集団生活ができなければ無理」「タバコ、お酒、携帯使用はダメ」こうしたチェックに合格して、初めてシェルターに入れます
「D V被害者」一時保護は十分に機能しているものではないということも知っていただきたいと思います。

その次のハードルは生活保護受給です。着の身着のままで避難した方も多く、生活保護を希望することは少なくないです。しかし同居中に受けた精神的DVの後遺症であるP T S D等が理解されず就労を強要される、扶養照会で加害者である配偶者に照会されてしまった例もあります。
そのような中、心ある行政担当者と民間の支援者とで力を合わせてやっとの思いで被害者の安全を守ってきました。民間の支援者は、手弁当で、持ち出しで、全国で何千、何万件と支援してきました。DV被害については私たちが専門家です。共同親権が導入されたら何が起こるのか知っているのは、当事者と私たちです。

共同親権が導入されたら、何が起こるのか懸念していることをお話しします。
2001年にDV防止法ができるまでは、家庭の中の暴力は社会に容認されていました。DV防止法は、私たち当事者が「このままでは私たちは殺されてしまう」と議員の皆様に実情を訴え、議員立法で制定された法律です。
共同親権制度は、私たちDV被害者が命懸けで勝ち取ったDV防止法を無力化するものです。
この法律が成立してしまったら、現場はどうなるのでしょうか。

まず、たくさんある事例なんですけれども、加害者の行動の予測についてお話しします。
加害者の中には、加害意識は全くなく、自分を被害者だと心から思っていて、自分のもとから逃げ出したパートナーに対する報復感情を強く抱く人が多いことを皆さんに知っていただきたいです。
彼らはこう考えます。    

自分は何も悪いことをしていないのに、妻が子どもを連れて出て行ってしまった。
自分に逆らわなかった妻がなぜ出て行ったのか本当に理解できない。
支援者や弁護士がそそのかしたのではないか。
自分こそ妻からの精神的暴力を受けた被害者だ。
これではメンツが立たない。絶対に妻の思い通りにはさせない。
自分をこんな目に遭わせた妻に報復してやる。
たとえ離婚しても共同親権を取って、妻の思い通りにならないことを思い知らせてやる。

と考える人も多くいると思います。
この法案は加害者に加勢する法律です。

次に、現場の最大の懸念をお話しします。
被害者を支援したら加害者からの大量の訴訟が起こされ、敗訴するかもしれません。「急迫の事情」という条文は婚姻中の共同親権にも適用される規定だからです。

被害者の相談に乗って、「それはDVですね。避難する必要があります」と言ったら、加害者の「共同親権行使の侵害だ」という損害賠償の訴訟が相談員や支援団体をターゲットに起こされるかもしれない
被害者の一時保護を都道府県が決定したら、同様の訴訟が都道府県・市町村に起こされるかもしれない。
訴訟対応で支援機関はストップするだろうし、訴訟というリスクを負ってまで、行政は被害者を支援してくれるでしょうか。賠償金の支払いを命じる判決が出たら、地方自治体はそれでも被害者を守り続けるでしょうか。発言力の小さい被害者が我慢を強いられるのは目に見えています

法案では、双方の合意で親権が決まらない場合、裁判所が親権者を決める際に、DVや虐待がある場合は単独親権と決めるとありますが、DVや虐待の証明をどのようにしたらよいのでしょうか。
今年4月1日に改正DV防止法が施行され、精神的暴力、性的暴力も接近禁止命令の対象となりました。内閣府のパンフレットでは、次のようなことをDVですと広報しています。資料4になります。

大声でどなる、「誰のおかげで生活できるんだ」などと言う、実家や友人とつきあうのを制限したり、電話や手紙を細かくチェックしたりする、何を言っても無視して口をきかない、大切にしているものを壊したり、捨てたりする、土下座を強制する、悪評をネットに流して攻撃すると告げる、キャッシュカードや通帳を取り上げると告げる、ということが挙げられています。

こういうことが本当によく相談されます。精神的・性的暴力はDV関係では必ず起きています
内閣府が精神的DVとみているものを、被害者が主張しただけで単独親権になるのでしょうか。相手が争ってきたら、どのような証拠で立証しなければならないのでしょうか。例えば、長時間の説教、通帳とりあげ、ということを家裁がどのように認定するというのでしょうか。

以上、当事者・支援現場からの様々な懸念をお話しさせていただきました。
これから考えられるのは、もしもこの法案が成立したとしても、施行までの2年間で、必要な制度が整うとはとても考えられません。
国会におかれましては、拙速な判断をしないように、切にお願いしたいと思います。

最後に、被害当事者からのメールをご紹介します。

衆議院、通過してしまいましたね。
なんでそんなに共同親権にしたいんでしょう。
「既に離婚している父母も申請すれば共同親権にできる」との一文を見ました。
きっと私の元夫は申請してくるでしょう。
政治家はようやく立ち直りかけた私達にまた戦えというのですね。
平穏を手に入れたと思っていた沢山の被害者達を、また崖から突き落とすのですね。
私のように身体的暴力の証拠は残っていなく、既に何年も経過しているものはどうすれば被害者だと認めてくれるんですかね。非常に落胆しています。

私と娘と息子は、元夫と一緒にいる間は常にびくびくと機嫌を伺いながら生活し、逃げてからはこれまでの生活のほぼすべてを捨て、生きていかなければならない現実を受け入れることに必死で、心身のバランスを崩しました。
長い時間をかけて、それでもまだ全員が回復したとは言えないまでも、日々笑って過ごせるようになった一因に「私が親権を持っているから」があるのは間違いありません。
どうか本当に子どもが幸せになる道を見極めてください。子どもが心から愛され護られて穏やかに安心して暮らすために法律を使ってください。
ほかの国がどうかとかは関係ありません。
解決しなければならない日本の家族の問題は、決してそこではないことに、本当は皆さん気づいているのではないでしょうか。
「問題のすりかえ」で命を脅かさないでください。

以上が、うちにきた被害者からのメールです。
これで終わらせていただきます。ありがとうございました。


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