職場のアンミカ

私が今の部署に来たのは去年の4月
前の部署も長くなってきたし、
最終的に目指している部署へ異動する為の足がけとして、今の部署への異動願いを出した。

以前の部署は人事異動が激しく、
毎年全国から人がやってきては出ていった。

北は北海道から南は沖縄まで
いろんな土地から色んな経歴を持った人が来たが
みんなとても優しく、
良い意味でクレバーだった

それもそのはず、私の勤める会社は入社の段階でキャリア組に入るかどうかが決まる。
入社時の転勤するしないの選択の時点で将来の最終役職はほぼ確定している。(余談だが私は中途入社なので関係のない話)

この部署に異動してくる人はキャリア組なので、
すぐに異動することは双方が分かっていた。
なので余計な人間関係を作らずドライで効率的に
働く人しかおらず
どれだけ人が入れ替わろうとなんのストレスもなかった。

そして私はそんな環境に慣れ
そんな環境があたりまえだと思うようになっていた。


そして職場のアンミカと出会った。


フレアの効いたスカートをひる返し、
ハーフアップにしたミディアムボブの毛先を肩で揺らしながらまつ毛をバサバサと上下させるその様は
まさにアンミカであった。
そう、異動先にアンミカがいた。


まず声がでかい。
めっちゃでかい。
5メートル離れていても聞こえる。
口調は丁寧だがアクセントは大阪弁で
アンミカの中の人なのではないかと本気で思った。


怖い。
すんげぇ怖い。
声がでかいという事は、自分に自信がある兆し(偏見)
私の最も苦手とするタイプだ。
5メートル先から圧を感じる。
「今日忙しいですね」とかその声のボリュームで言わないで欲しい。

往々にしてこのタイプは
人のことをペラペラ喋る傾向にある。(偏見)
最寄駅など教えたら終わり、
2時間後にはみんなに知れ渡る事になる。(偏見)

まずい。
めちゃくちゃ関わりたくない。
てかなんで職場にアンミカがいるんだ。
アンミカは関西テレビにでて芸人さんと話していればいいではないか。
関西のテレビでアンミカを見ない日はない。
朝昼晩、とにかくいる。
通版番組だけでなくコマーシャルにもいる、バラエティにもいる、情報番組にもいる。
なんなんだ、苦手なものはないのか?いや、苦手なものがないと言う事実がまた私の恐怖心を煽るからやめて欲しい。
これまではテレビで見かけるだけで特段なんの感情もなかったけれど
これからはそう言うわけにはいかない。
会社に行かないわけにはいかないのだ。

アンミカに話しかけられたら最後
なんとしてでも接点を最小限にしなくては!


…………



2時間後、私はアンミカと会議室にいた。
何故だかアンミカが主導するプロジェクトメンバーに選ばれていた。

オワタ。
いや、終わってはいけない、
始まってもいないのに終わるものか。
終わらせてなるものか。


暑いのか寒いのか分からない感覚の中で
私はある事を思いついた。
根掘り葉掘り聞かれる前に聞いてやろう。
プライベートな事を聞かれたら
「いやぁ~話せるような面白いことはなくて~」
とかなんとか言って、同じ質問を返そうではないか。
そう、私は今でこそ、この会社にいるが、
前職はコールセンターのお客様相談窓口(いわゆる苦情処理)担当者だ。
(仕事においての)傾聴力には定評がある。

会話はキャッチボールを楽しむのもだと言われるが
みんながみんなそうではない。
ボールを受け取るのが好きな人もいれば苦手な人もいる。
私はボールを受け取るくらいならずっと投げていたい。(酒の席除く)
そしてアンミカはきっとボールを打つのが好きなはずだ。

ならば何球か外野に届くヒットを打たせてみる。
その後、空振りにはならないチップ程度の変化球を混ぜ、快進撃に至らない状況を二、三回作ってみた後、最後に甘い玉で満塁逆転ホームランを打たせればもう勝ったも同然だ。
よしよし。一定の攻略法は完成した。

そう思うと俄然アンミカと話したくなった(ワクワク)


「あっ、、あっ、あの今日から配属になりました、○○で『『ああ!!堅苦しいのやめましょ?ね!アンミカです〜○○さんは手上げ(異動希望)したんでしょ?なんでこんな所に?ウフフ慣れるまで大変だけど頑張ってくださいねぇ〜ウフフ〜」
と言いながらアンミカは去っていった。



アンミカは去っていった(リピート)


完全なる敗北。
なにも、出来なかった。
勝つと思うな思うが負けよ。
そうか、攻略法を見つけた時点で私の負けなのか。

一人取り残された会議室で
支給されたばかりのノートパソコンの電源をおとし
LANを引っこ抜き
会議室の蛍光灯のスイッチがどれなのかわからず
そのまま煌々と光る部屋を後にして
自席に戻ったのであった。


おわり。



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