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『カーネーション』第三週「熱い思い」

13)糸子は「働きとうて働くんや」と女学校のみんなに挨拶をすませ、安岡のおばちゃんに「なんちゃらいう外国のごちそう」であるカレーを食べさせてもらう。初めての物でも美味しそう!と飛びつく糸子と、ご飯だけでええ、と怖気づくヘタレの勘助の態度に性格が現れる。「朝や!」の爽やかな目覚めは「8時!?」とはえらい違いで、勢い込んで行った桝谷パッチ店は、お茶の順番やら縦縦横横やら、知らないことがいっぱいあって、遊びに来るんと働くんは全然違う、と思い知らされた上にミシンまでは10年、と聞き、糸子は呆然とする。

14)おばあちゃんとお母ちゃんは愛情全開で糸子を待ち、善作も実は心配でたまらず、全員がから元気も見破って、でもそこには触れないで、おばあちゃんはおにぎり、お母ちゃんは金平糖を持たせてくれる。「叱られた時に食べ」と言われた金平糖はすぐになくなる。窓を拭きながら「奈津でいいから会いたいなあ」と思ったところに奈津が現れる。糸子は奈津の泰蔵への思いを聞く。翌朝、糸子は風邪を押してやっとの思いでパッチ屋まで行ったのに、風邪をうつされたら迷惑とか、お前なんかおってもおらんでも一緒とか、「ほんまのこと」をさんざん言われ、川べりの道でつらい思いが爆発する。

15)糸子が寝ていると、下で妹とお母ちゃんの話が聞こえる。いつも新しい着物を買ってもらえて羨ましい、という静子に、「そない羨ましいんやったらあんたも姉ちゃん見習うたらよろし。こないなとこでお母ちゃんにグジャグジャ言わんと、自分でお父ちゃんに着物買うてくださいって言うといで。」「姉ちゃんは偉いやんか。」「好きなことするっちゅうんはな、見てるほど楽とちゃうんやで。女は余計大変なんや。」「全部自分でどないかしやる。どんだけしんどうても音上げへん。真似できんと文句だけ言うんはあきません。」糸子は「えらい、やて。姉ちゃんはえらい、やて。」と繰り返す。晴れやかに起きてきた糸子に善作はまたもや「勉強やで、勉強しに行くと思え」と繰り返し、糸子は今さら「そやなあ。勉強や思て行ったらええんやな」と答え、善作は「何初めて聞いたような顔して言うとんねん」と呆れる。糸子はいよいよ「勉強」するために働き出す。「怖い人が飴くれることもあるんやな。縦に拭いてから横に拭いたら汚れが残れへん。お茶は少し待って、ちょっとずつ淹れたら美味しなる。その気になったら勉強できることは山ほどあるんや。うちにはもうこんだけ知恵ついた。知恵っちゅうのは増えて行くばっかりのもんやし、10年っちゅうのは減って行くばっかりのもんや」寝る前に帳面を閉じて、「大丈夫や、うちはちゃんとミシンに近づいてる」と糸子は満足する。ある日、ミシンを磨く糸子に大将が「そない嬉しいんけ」と寄ってくる。「そらミシン大好きですさかい」と答えると、大将は「そいつはな、夜になったら遊んでんで」と教えてくれる。ミシンが触れるようになるまで、山口さんは一年、糸子は二か月。「おおきにな、待っててくれて。そやけど案外早かったわ」ミシンと糸子の、初めての夜の逢引だ。

16)糸子は裁ちも山口さんより早く教えてもらい、ボンクラなりに努力してる、と認められる。そこへおじいちゃんが来てホットケーキにアイスクリームをご馳走してくれた上に、うちへけえへんか、と提案してくれるが、糸子は「勉強になる方がええねん」と断る。アホの両親には似ず、おじいちゃんに似た見事な孫娘である。

17)昭和5年(1930)、木之元のおっちゃんのお店にやっとラジオが入る。皆でラジオ体操。張り切って仕事に行く糸子は、しみったれた顔で工場に行く勘助に会い、「仕事は学校とちゃうねん」と言う。修行2年の成果は、パッチを一人で作れるようになったことだが、気持ちばっかり先走って縫い直すことも多く、「目打ちの小原」と呼ばれている。おばちゃんに頼まれて糸子は勘助に会いに行く。仕事をやめたくてたまらない勘助に「うちかて色々あったで」と糸子は喝を入れる。「そこまで嫌なんやったらやめさせっちゃった方がええんちゃうやろか」と言うおばちゃんの言葉を、糸子は即座に打ち消す。泰蔵兄ちゃんが祝言をあげ、お嫁さんは「ぱっと見ぃは普通やけど、よう見たらおしゃれな人」で、糸子は八重子さんと服の話をするのがとても楽しみだ。八重子さんが雑誌の流行りの服を見せながら糸子に「洋服縫うたらええのに」と言い、糸子は「そやった」と自分の夢を思い出す。「ミシンもパッチも洋服を作りたくて始めたことでした。」「忘れちゃあた。あんなに洋服作りたいと思てたのになあ。」毎日の仕事に追われて夢を忘れていたことに気づき、糸子は二階でおばあちゃんから贈られたドレスを取り出して「うちの夢、冷えてしもたんかなあ。」と呟いたところに洋服の奈津があらわれる。ラジオ、洋服、靴は新しい時代の象徴だ。「うちの夢やったのに。」「奈津の方が洋服に近づいてしまいよった。」糸子はあてどない焦燥感に手足をバタバタさせ、「作らな、早よ洋服作らな」とつぶやく。その壁になるのが「日本人の魂」と言うお父ちゃんで、八重子さんはそんな糸子を「女が初めてのことしよ思たら勇気がいる」と励ます。

18)糸子は、パッチ屋の先輩の助言から、善作にアッパッパを作ることを思いつく。おかみさんは「あんたは洋服作れるようにならんとあかん」と布をくれる。デザイン画を描き、工夫を凝らして「我ながら惚れ惚れするほどの出来栄えです」と糸子が策を巡らす一方で、善作は「靴アリマス」の看板を見て怒り「時流に乗ってたまるか!」と吠える。木岡のおばちゃんが堂々と「日本人の誇りやら言うて、時代は変わっていってる」と言う。木岡のおっちゃんは「女のくせに」と言い、「とうとうわしを怒らしたな」と帰る善作のところに、糸子がタイミング悪くアッパッパを差し出す。善作は一言「ほかせ」というが、糸子はたくましく「負けへんで。うちは次の手考えたる。」と思う。しかし糸子が考えるまでもなく、アッパッパが売れ、糸子は2日にいっぺんの割合でアッパッパを作ることになる。それが洋服作りを許す善作の条件だった。そして善作も、今では機嫌よくアッパッパを着ている。ある日、仕事の後、遊んでいるミシンでアッパッパを縫う糸子の元に現れた大将が告げたのは「店辞めてくれへんか」だった。

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