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玖磨問わず語り 第9話

ヤムヤムのつぶやき

ちぃちぃ、食いもんに釣られたんやねぇ。
ほいで、やっぱ昔からイリコが好きだったんやな。
わーはイリコも好きやけど、刺身もなまりも焼いたんも、魚はなんでも好きやよ~。
鯛の刺身、食べへんなんてありえんわ。

ほやけど5年後の事件って、なんなん?
はよ、知りたいわ~。

そうや、ミンさんのことも氣ぃになってたんよ。
ミンさんもショーガイホショーとかいうので、来た猫なんやろ?
なんで来たん?
ほいで、ミンさん、ちぃちぃの上納フードを食べられたんかの?
そこ、けっこう氣になるとこやよ、なんか知らんけど……。

和歌山産ヤムヤム

ちぃちぃ発散


「あらまぁ、派手に障子破りをしましたねぇ、昨夜はさぞ楽しかったでしょう? ハハハ」
ベランダに面したサッシ戸手前の障子が、ベリベリに破られて穴だらけだす。

サッシ戸と障子の細い隙間に入り込み、こちらを睨んで「う~う~」と低く唸るちぃちぃさん。
「いくら唸ったって平氣よ。この際、この障子全部の穴をあけたらいいわ。そしたら、まとめて張り替えるから。ずっと事務室にいてエネルギーが有り余っているんでしょ? もう戸を閉め切ってないんだから、自由に他の部屋にも行ってみたら?」
「う~う~、う~う~」
「唸るのもいい運動、はいはい、どうぞ好きなだけ唸って、唸って、唸ってくださいな~それ、それ♬」
「う~う~、う~う~……」
 「ね? 唸るだけじゃ飽きるでしょ? ここは唸ったり、障子破り以外にも面白いことがいっぱいあるのよ。こっちにはズズさん、ミンちゃん、玖磨ちゃん、月ちゃんがいるし。まぁ、みんな、あなたよりずいぶん年上だけどね」
 

しかし、若い彼はどうしようか、まだ決めかねているようだした。
実はオラも、ちぃちぃにどう接したらいいのか、ちょっと迷うところがあったんだす。
月子さんのときはそんなことはなかったのに、不思議だすな。
 

窓辺の玖磨ちゃん

突破口


ところがある日、シッティングから戻ったスタッフのトラコさんが、リビングにいたオラの腰をパンパンと軽く叩き始めんだだす。
「うちの猫、こんなふうにするとヨダレ垂らして喜ぶんですよ。玖磨ちゃん、どう?」
パンパン、タタタン、パンパン、タタンタン♬

オラの背中から腰にかけて、トラコさんの指先が跳ねるだす。
パンパン、タタタン、タタタンタン、
パンパン、タタタン、タタタンタン~
お、こりゃ、なんともここちよいリズムだすなぁ。
 
パンパン、タタタン、タタタンタン、
パンパン、タタタン、タタタンタン~
ほどよい刺激が、全身に波紋のように広がっていくだす~。

パンパン、タタタン、タタタンタン、
パンパン、タタタン、タタタンタン~
「あ、玖磨ちゃん、好きでしね、やっぱり、うふふ」
トラコさんのリズムは激しさを増し、スピードアップしてきただす。
パンパン、パパン、パパパパーン、
タンタン、タタタン、タタンタン♬

「玖磨ちゃんはからだが大きいから、腰パンしやすいです」
「玖磨ちゃんは文句なく腰パン好きね。腰パンが筋トレになって、うまくすると玖磨ちゃんのおしっこ漏れ予防になるかもね」 
ナンリさん、そこまで考えるだすか?

パンパン、パパン、パパパパーン、
タンタン、タタタン、タタンタン♬
パンパン、パンパン、パンパン、パンパン、パパンがパン、パン♬

オラは床にすっかり腹這い状態になって、トラコさんの腰パンに身を任せただす。
「玖磨ちゃんスフィンクス~」
 



「あら、ちぃちぃが……」
「ホントだ、ちぃちゃんもトラコにパンパンしてもらえば?」

いつの間にか、ちぃちぃが事務室の戸の陰からじっとオラたちを見ていたんだす。
「ちぃちぃ、おいで、おいで」
トラコさんが誘うと、なんとちぃちぃ、するすると近づいてきて、オラの横で腹這いになったですよ。
(お~、お~)
声にならないどよめきの中、トラコさんがすかさず右手でちぃちぃ、左手でオラの腰を、同時パンパンし始めただす。
パンパン、パンパン、パンパン、パンパン♬
 パンパン、パパン、パパパパーン、
タンタン、タタタン、タタンタン♬

「ダブル腰パン、玖磨ちゃんとちぃちぃのしっぽがぴーん~」
「ちぃちぃも腰パン好きだったんですね」
トラコさんは汗だくになって、腰パンを続けるだす。
パンパン、パンパン、パンパン、パンパン♬
 パンパン、パパン、パパパパーン、
タンタン、タタタン、タタンタン♬

オラのとなりで、ちぃちぃが目を細めていただす。 
「はぁ~、さすがに両手使いだと、疲れますねぇ」
「お疲れさま。おかげで、ちぃちぃが念願のリビングデビューできたわ。トラコの腰パンが突破口になったくれた、ありがとうね」
「なんの、お役に立ててよかったです」

トラコさんからバトンタッチして、ナンリさんに腰パンしてもらっているちぃちぃはしっぽを高く上げているだす。
オラも、からだの芯がジンワリあったかくなって、いい氣持ちだす。

ちぃちぃさん、ナンリさんが手を止めると、
「なぜ、止めるの? もっと続けてよ」
と後ろを振り返るんだす。
もう、大丈夫だすな。
よかっただすなぁ、ちぃちぃさん、これならおばちゃんも安心するだすよ。


ん、この音は?
ゴロゴロ、ゴロゴロ、ゴォロゴォロ、ルルル~
それは、ちぃちぃさんのからだが奏でる音だした。

続く


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