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命をはって

先日捌いた雌鹿の話し。

わたしは主に解体された四肢を骨抜きしてパックするという精肉作業をすることが多い。

そのため記録には残してあるけど、
この鹿がどんな状況で獲れたのかまで見えないことが多い。

それはあきらかに肉質が違った。

柔らかすぎる。

それは子鹿の柔らかさなどではなく。

脆い。

という表現が的確のような。

部位ごとに分けるのに、手にしたところから裂けていくような感覚。

脚なのに、脂肪のかたまりかのような柔さ。

なんだこれ。
記録をチェックすると、

“出産中”

の文字。

あぁ、そうか。
腑に落ちた。

まだサイズも小さい子だし初産だったんだろうか。

野生の動物としては有り得ない状態の筋肉の質感。

これだけ自身を文字のごとく消耗して命を繋げるんだ。

帝王切開などできない動物たちは
まさに自分の力で産み落とさなければならない。

それにはそれなりの力がやはり必要。

この子は撃たれてなくても、これだけ小さくて、こんなにも弱った状態で母になって生き延びれたのだろうか。

野生の動物であれだけ自身を消耗して産み落とすんだ。
ダイエットなんてしてる場合じゃない。

いつから人間は自身を痩せ細らすことを美とし、その力不足の部分を技術で補うようになってしまったのだろう。

そんなストーリーが渦巻いた、一匹の雌鹿のお話し。

手にした感触があまりに世の女の子たちの柔らかい二の腕の感触に近かったというのもひとつある。笑

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