見出し画像

観たモノ聴いたモノ~『兎、波を走る』

2023年8月8日
新歌舞伎座 1階19列

実は自分が観る前に少しのネタバレを踏んでしまったので(新聞で)、この作品が何を題材にしているのかは分かっていたのだけど、野田さんがあの事をどう描いているのか気になっており。

終盤でアリスがお母さんを呼ぶ場面、私も母を亡くして、苦しい時寂しい時に彼女を呼ぶことがあるので他人事とは思えず、胸がギュッと痛くなる。
アリスはきっともう会えないことを知っている。
知っているけどお母さんを呼ぶ。
呼ぶことで彼女を近くに感じるから。

しかし、フェイクスピアといいこれといい、野田さん色々斬り込むなあ。それと設定的に大阪でやるのが適しているかもしれない作品。劇場がなくなるという設定に、かつてこの場所にあった近鉄劇場/小劇場のことを思い出す。

高橋一生さんの姿に既視感。
若い頃の野田さんっぽかった。
私が初めて観た『贋作 桜の森の満開の下』(92年 中座)で舞台を駆け回っていた野田さんの姿が重なった。
野田さんはもしかして彼に自分の何かを託したのではないか、そんな風に思った。

いつか、彼が演じる耳男を観てみたい。
そんな風にも思った。

しかし、とても残念だったのは松さんと一生さんが2人で話す場面(物語の核心に触れる場面)で高鼾をかいて寝ている男性がいたこと。斜め後ろぐらいから時折聞こえていたのだけど、大事な場面でピークに達してしまって芝居に集中できず。隣の席だったら小突いてやりたかった。
それと、たまたまこの回の客層がそうだったのかもしれないけど、やたら笑う。ちょっとした言葉遊びでもよく笑う。正直あれ?野田さんの作品ってこんなんだったっけ?という戸惑いも残ってモヤモヤしていたのだけど、帰りの地下鉄のホームで後ろに並んでいた女性たちが「どうだ、俺はまだこんなに笑いがとれるんだぞと言いたいような作品だった」と言っていて、それそれ!と握手したい気分になりました(勿論そんなことはしないけど)。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?