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「句潤&DJ Watarai/Allwell」感想

本日ALLWELLの2nd AnniversaryにてDJ Wataraiと句潤が同じステージに立つと聞いて、このアルバムの感想を書くことにした。

アルバムジャケットは実際にALLWELLの店舗で撮った写真が使われており、もし店に行く機会があるなら、ジャケットと比べてみるのも面白いかもしれない。

店の紹介をしておくと、クラフトビール・アウトドア用品・アパレルを取り扱っている店だ。神奈川県にある日ノ出町駅のすぐ目の前にあるので、気になった人は是非行ってみてもらいたい。

アルバムを見てみると全13曲総時間40分となっており、かなりボリュームがある作品となっている。それでは、以下から感想となる。

INTROLL

まず初めは落ち着いた曲が耳に届く。直感的に"日常"という単語が頭に浮かび上がった。だが聴いていると、次第に鬼気迫るような圧迫感に似た雰囲気も仄かに感じる。穏やかな日常の中に名状し難い気迫が襲ってくるような、そんな曲で幕が開けたこのアルバムが楽しみだ。

Profile

風のようで心地良い軽やかさを感じる音だが、その上には曖昧模糊なモヤのようなものがオーバーレイされ、『INTROLL』同様名状し難いビートである。Profileというタイトルからも自己紹介メインの曲にはなっているが、この曲から見えてきたのは句潤"個人"だけで無く、「生きた奇跡あるダチ誇るこの名」などから"人との繋がり"や"仲間"が強く感じられた。

「街をWalk to Walk 何を持ってこう」から、風のような軽やかさが言葉によってより鮮明になったような感覚がある。軽やかさがあると述べたが、追い風のような単純な足取りではなく、いくつもの困難が立ちはだかっている向かい風のような雰囲気を感じた。

ダイヤモンドは砕けない

まず曲名からジョジョが想起されたが、何か関連するのか。ビートはメロディアスな中で、一定に高く跳ねる音の輝きがとても心地よい。

hookの「光もあれば影もあるな」がワードとフロウどちらも含めて、非常に魅力的な一節に思える。これは真ADRENALINEの対RAWAXXX戦と、UMB2020 THE CHOICE IS YOURSの対早雲戦にて出てきたフレーズだ。「36回目の春夏秋冬」「36息輝くのさ」というリリックから、36歳の年に書いたと考えると、この二つの試合の間に書き始めたのか。(※感想の最後にバトルの動画を貼っておく。)

そして、「光と影」「やな事(苦)と楽」のような相反する単語を連ねているところに、古き良きHIPHOPの味を感じた。そして、「きっと俺死ぬまでかけるラブソング」が最も印象的で、この"かける"は、書ける、駆ける、賭ける、色々考えてみるとどれも当てはまるように感じた。

ラブソングと来ているので、歌詞を書く"書ける"を想定して書いたのだと思う。だが、ラブソングとは誰か特定の相手に届ける前提であり、それが届くまで奔走する情景が浮かんだ。言わば、『時を駆ける』といった言葉がその情景に近いと感じる。

また、"賭ける"に関しては、ラブソングの相手が"音楽"と仮定した場合、身一つでHIPHOPの世界に飛び込むという、ある種ギャンブルに似た行為を代償に、自身の"愛"を貫くその生き様を表しているように思えた。以上の考えから、「かけるラブソング」の"かける"だけで様々な解釈が出来て、聴いていて楽しい一曲である。

8145

滑らかで流動的な音から始まった。全体的に美しいビートが多かったが、これまた雰囲気が異なり、これまでとはジャンルの違う美しさが際立つビートだ。澄みきったビートに一点の濁りを落としたことで、より親しみ深くなったような感覚がある。

気付いたら過ぎ去ってしまう疾走感のある曲だが、一層力強く唄っていることが、ビートと同様に変化を感じる良いスパイスとなっている。また、句潤は3文字程度のポイントで軽く区切り数を踏むイメージが強く、冒頭の「センチメートル」「センチメンタル」という比較的長めの7文字での韻踏が珍しく思えた。

「壊れてる頭のネジ」から始まるラインでは、小節の頭で発せられる声がまるで楽器のようだ。この壊れてる頭とは、よく句潤の音源で聴く"頭がバグ"のことと同一だろうか。同じ表現だとしても、言葉を変え角度も変えた表し方をすることで、新鮮さを魅せているのかもしれない。

4 Hands

人数が多めだが時間は3:41と綺麗にまとまっているという印象を一番に抱いた。少し固めだがテンポ良くスネアが入るビートで、鬱々としたドープな雰囲気を感じられる。

しかし、ただ暗いだけでなくある種危険な予感を警告するような緊張感の走る、この先巻き起こされる旋風を期待させるビートでもある。そして、その上に荒めな息遣いが乗り、人から発せられる音によって、ビートをより深い味を込められる相乗効果があるようだ。

「偶発的な必然をWataraiと呼ぶのさ」が率直にイカしたバースだなと思う。fookでの句潤による被せによって生じる、声の高低差が非常に心地良い。各個人の声色が合わさり、鬱々としたビートに色が乗るように思える。

また、これまで重厚な言葉の連続に海底まで沈んでいた心地良さが、句潤のバースに入ると「ロンリーロンリー」「ローリーローリー」によって生み出される少しの爽やかさが、声と併せて清涼感を覚えるアクセントになっている。

「遊んで働き濃口ウイスキー今日は持たない宵越しの銭」から、いくつもの曲で出てくる"ウイスキー"と人生を楽しみ散財する生き様が伝わってくる。句潤ひとりの曲では無いが、こうした分かりやすい個人を表すキーワードが散りばめられていて、そうした言葉を探すのもひとつの楽しみとなっている。

祝杯

リズミカルなスネアを導入として、一つ前の曲とは全く異なり、軽快で親しみやすいビートに思える。弦の弾けるような音がループされているが、音階が変わり飽きさせない工夫がされている。

軽快な音と『祝杯』という楽しげなタイトルである一方、ラップでは歩んだ軌跡とこれからの覚悟が詰まっているように見受けられた。特に気になったのが、fook前にある「皆に普通の今日でも 俺ら違う色が映る街のシャドウ」だ。一体どんな色なのか、きっと句潤が形成された過去を持たなければ知る由もない色と考えれば、とても素晴らしい色なのだろう。

そして、fookの「祝福の祝杯はより高く上げ」が特に好きだ。幸せな場での乾杯は誰よりも頂上にいるような心持ちでいるのだろうか。その次の「誰もいなくなるなよ」に胸を打たれた。仲間を人一倍大切にする人生観を持つ人間から放たれる言葉は重さも一層重く、信じたいと思わせるような内容だ。

64 Bars

再度深く重さを感じるビートだが、同じ"重いビート"の中でいくつもの変化があり、これまたWataraiビートの手腕が発揮されている。『祝杯』では人との交流をメインに作られた外面的な曲であるが、今度は奥まった心情にフォーカスを当てた内面的な曲に思える。それらの曲を繋げることで、句潤の人間性のより知れる構成になっていると感じた。

繋がっていることで、「口は災いでダチは消えた また逢えたらな」や「ファミリー仲間は絶対愛す」というリリックが、『祝杯』で胸を打たれた「誰もいなくなるなよ」という言葉がさらに際立つように感じた。

また、「道中で去るほど素直じゃないよ」からこの道から絶対に外れないといった、執念のようなものを感じた。こうした内面の奥深くにある感情の吐露は、この深く重いビートにとても合っている。だが、最後の「いつでも遊びに来な」というリリックで、やはりオープンで人との繋がりを大切にする人間性という点を感じ取れた。

夏産まれ

音の切り替わりにひと癖あるが、爽やかでなだらかなビートだ。誰もが分かる"夏"というテーマの曲なのか。"夏は嫌いだが夏が好き"というメッセージを受け取れる、共感性の高い内容となっている。冒頭に「あっちい」と言っているところから、本当に夏の暑い時期に書いたと思わせる面白さがある。

それぞれの人間が生きてきた"夏"があるように、この曲では句潤の生きた"夏"だけが詰め込まれている、そんな一曲に感じた。そんなところから、夏に対するプラスとマイナスの意見に、句潤の人生をより深く知れたと錯覚させられる。

hookの「お前が悪い訳じゃない でも俺もリリック嘘つけない」の"お前"とはきっと"夏"のことだろう。夏を二人称のお前と呼ぶことで、少し近い関係のようで、言葉の使いようによって普段とは違った視点から聴ける不思議な曲だ。

「緑は生い茂気持ちが良いね 食いモンは一瞬日持ち悪りぃね」が夏らしく、特に聴き心地の良い踏み方だ。その少し後にある「そんな時に口ずさむ こんな曲がやけに耳に残る」は、まさにそうだと共感した。かなり耳に残り脳内で再生したくなるような、明るさ全開の楽しい曲だ。

現世豪快

初めに鮮やかという言葉が浮かび、自然体なビートという印象を受けた。激しくはないが太陽の光で少し眩しいと思えた。鎮座DOPENESSのハスキーで色気のある声が"自然体"なビートと非常にマッチしている。

タイトルの『現世豪快』は、来世に期待して現世を味気なく過ごすのではなく、現世だからこそ出来ることを豪快にやってしまおうといった意味で解釈した。

別の解釈として、「例えば今日 俺の言葉で救われたヤツが明日誰か救えばいい」というリリックから、自分が生きる(現行の)世代で終わらせずに、次世代に繋げていく、自分の背中を見せつける程の目立った豪快さを表現しているように感じた。

解釈は人の数以上にあると思うが、"今の人生をガムシャラに生きろ"というメッセージが込められた曲だと考えている。タイトルとリリックから、こうした解釈ができるのはとても面白い経験だった。

カレンダー

真っ先にモヤがかかったような『Profile』と近しいビートだと感じた。やはり、Wataraiビートのスネアは力強く、正体の掴めなさとのギャップが心地が良いと感じてしまう。

正直、タイトルと「仲間とエクソダス」のリリックの結びつきがイマイチ分からなかったが、カレンダーの1日経つ度に数字がひとつひとつ着実に増えていくところから、一人一人着実に仲間が増えていくような情景が浮かび上がってきた。「時は止まらず捲るカレンダー」は不可逆的な行動であり、仲間と共に進むためにも活動を止めることない意志のようなものを感じた。

Supermoon

スーパームーンについて調べると、年に一度月が普段より近くに見える現象らしい。ビートの入りには少しの神秘さと神々しさを感じ、ドラムが入ってからは疾走感を覚える面白いビートだ。

また、Wataraiビートでは他のビートメイカーが使わないような、特徴ある音が細かく使われているように見受けられた。ビートの途中には元ネタの声が入っており、句潤の楽曲にはあまり無いもので珍しいと思える。

hookでは裏拍の隙間をも埋めることで、よりアップテンポで、楽器の音に加えて声との相乗効果で聴き心地がかなり良い。そして、「俺はティンバーよりもジョーダンで飛ぶ」のリリックで、特に句潤の自分らしさを感じられて、聴いていてだけで非常に楽しい気持ちにさせられる。

その次の「デカく浮いてる月へいつ届く」は、先ほど冒頭に書いたスーパームーンの説明通り、いつもより近い月になら飛んで近づけるかといった、素朴で壮大な夢を感じられてとても良い。

「短冊」「感覚」の分かりやすく区切った韻の踏み方はやはり好きだと、改めて認識させられる。そして、曲の終わりに置かれたシンバルの波音を切らないのも非常に好みである。

Platinum

天気で言えば曇天のようなビートだが、高い連打音とそれに続くシンバルの爽快感で、深く暗い雲のイメージから少し陽が差したように思える。「くたばる前に残したい音楽」のように、自身の死生観が存分に現れるリリックが好みである。

簡単にまとめると『祝杯』は外面的表現で『64 Bars』は内面的表現だという解釈を先述したが、この曲はそのどちらも含まれた曲のように感じた。人との繋がりや自身が生み出す物について等、様々な気持ちが内包されたメッセージがこの一曲に刻まれていると感じた。

そして、『ダイヤモンドは砕けない』のように、MCバトルな好きな人なら聞き覚えのあるバースがあったことだろう。「行けば運命誰が有名 そうじゃねえだろ落ち着けブルーベリー」のリリックは、真ADRENALINEの対CHEHON戦でブルーベリーを変えたバースを聞いたことがある。その時のものを音源化したのだろうか。(※感想の最後にバトルの動画を貼っておく。)

持ち曲をバトルで言うのも良いが、バトルから楽曲に昇華させるのも、音楽の消費者としては利でしか無いのでたくさん作ってほしいものだ。

Walk alone?「N.Y.J.P」

初っ端からスネアとキックのコンビネーションが炸裂しており、これまでに無い新鮮さを感じた。ループではキックの数がかなり多さと、安定したスネアの力強さによって弾けるようなビートが完成しているようだ。

タイトルにあるN.Y.J.Pとは、DAG FORCEの拠点とするニューヨークと句潤が活動しているジャパンを指すのだろう。実際に句潤が「異国でもFeelして曲も作れる」と言っているところから、遥かに遠い距離を通じて、一つの曲を作成していることに新時代を感じてしまうのも無理も無い。

そして、「マスクの奥から叫んでる〜」「叫んだとしても現実は〜」等、コロナが流行していた時に書かれたリリックだと推測した。fookの歌詞も声の重なりも全てがとにかく綺麗で、このアルバムの中で最も印象に残った。

他には、「この時代の不条理」「人の数だけストーリー」の踏み方がとても良かった。どの国でも同じ問題を抱えている背景があるとしても、それだけで終わらせない人間の強さを感じ取れた。

また、「この時代だからこそ愛に溢れた」は、会いたいの"会い"でも通じる時代ではないだろうか。数々の規制によって、多くの人に会えない家族、友人、恋人がきっといたことだろう。そうした情景にどちらの"あい"も合致するように思えた。

最後に

Wataraiビートは全体的に仄暗い印象があるが、力強いスネアできっちり締めているものが多いと感じた。このアルバムでは、流行病の大打撃が終わった後の二次的な問題があったことで、人との繋がりがさらに深まったというメッセージを受け取った。

月と人と同じくらい離れてしまい、会うことが叶わないといった、物理的にも心理的にも離れてしまった過去を忘れないように、心が疲れない程度に、心に刻む必要があると感じた。

今でこそ前を向かなければ置いていかれてしまう現代において、こうした過去の問題は少なからず風化してしまう側面はあるが、個人的にはこのアルバムはそうした想いを忘れずに大切に聴いていたい。

本日のイベントに間に合うように感想を書いたので粗い部分はあるが、とりあえずはしっかり書き終えたので一安心である。では、ALLWELLに行ってイベントを楽しんで来ようと思う。

https://linkco.re/gX6zm4qm?lang=ja

以下、バトル動画である。
感想で述べた該当箇所の再生時間も併せて書いておく。

真ADRENALINE 対RAWAXXX戦(4:13~)

https://youtu.be/ZNalEWS6M7E?si=hmXGlfRe2_bLHcWg

UMB2020 THE CHOICE IS YOURS 対早雲戦(5:50~)

https://youtu.be/ZJBj0ycdNwY?si=tgd4cIPUEOo3Uq5x

真ADRENALINE 対CHEHON戦(2:30~)

https://youtu.be/4Vow5XPFGdw?si=AHfTCLI2E6AeirAi


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