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連載企画②日本の難民受け入れ状況とその問題点

以下のグラフからもわかるとおり、日本は難民条約加入国であるにも関わらず、難民として庇護を求める申請をする人(以下、「難民申請者」という。)の数に対して、難民として正式に国から認められる人の数が異常に少ない状況が続いています。2016年以降は毎年1万人以上の人々が難民として庇護を求める申請をしていますが、日本で難民と認められる人々は毎年わずか数十人で、2019年においても認定率はわずか約0.4%です。

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図1 日本における難民申請者数、認定数、及び認定率の推移
(出入国在留管理庁の統計より作成)

認定率0.4%が高いのか、低いのか。日本と同様に難民条約に加入している諸外国と比べると、圧倒的に低い値であることがよくわかります。以下は少し古いですが、2016年におけるG7+韓国・オーストラリアの難民認定数等の比です。

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図2 G7+韓国の難民認定数及び認定率の比較
(出典:https://www.refugee.or.jp/jar/report/2017/09/14-0002.shtml)

なぜここまで日本は難民に冷たいのか?

まず根本的な問題として、出入国管理行政に従属した難民受入れが行われていることがあります。

日本における難申請受け付けや難民であるかどうかの審査・認定は、不法入国者や不法滞在者の摘発、排除・強制退去など出入国管理行政を行う出入国在留管理庁(以下、「入管」という。)が行います。

しかしながら、出入国管理の観点からみれば、ほとんどの難民は不法入国者/不法滞在者であるため、入管が難民申請の受付、難民であるかどうかの審査・判断過程においても「お前は不法入国者、不法滞在者だ。悪い奴だ。」という予断と偏見が深く入り込みます。

この構造が、日本の難民申請者数及び難民認定数が少ない根本的な原因となっています。

実際これまで支援者や国連難民高等弁務官日本韓国事務所(UNHCR)などは、不法入国者等の摘発、排除・強制退去などを行う入管が難民かどうかの審査・判断も行うことの問題点を度々指摘し、「難民審査の公正性を確保するためには、入管とは別の独立した第三者機関が難民申請の受付、難民調査、難民審査・認定をするよう法改正をすべきである、また難民申請中は退去強制手続き停止すべきである。」という要求をしてきましたが、まだ実現していません。 

また、この上記の問題から派生して以下の問題も生まれています。
(1)難民であることを自ら立証することが難しい
(2)難民認定基準が不当に厳しい
(3)灰色の利益が認められない

(1)難民であることを自ら立証することが難しい

日本の難民認定手続きについて、入管は「難民の認定は,申請者から提出された資料に基づいて行われます。したがって,申請者は,難民であることの証拠又は関係者の証言により自ら立証することが求められます。」と定めています。つまり、本人が自力で自らの難民性を立証しろ(民事訴訟レベルの資料を自分で用意しろ)ということです。これは、難民申請者にとって相当ハードルの高い要求です。なぜなら、彼らが命からがら逃げる過程で、自分が難民であることを証明する資料を集めて持ってくるということは極めて困難であるからです。(資料を持ち出そうとして警察や治安部隊に見つかれば、その場で殺されてしまうかもしれません)

(2)難民認定基準が不当に厳しい

日本の難民認定基準は厳しいと国内外から批判されています。様々な事例を見ると、基準が厳しいと言われる原因には以下のようなことがあると考えています。

①軍・警察等による迫害のみを迫害として解釈する。
②過渡期にある国・地域の状況を過度にそして意図的に楽観視する。
③日本語訳のない証拠を受け付けないことにより、立証を重大な障壁を設け、立証努力自体をなかったことにする。

以下の文書の一部は、①②に該当する例です。この文書からは、キリスト教徒であるためイスラム教のテロリストグループに命を狙われていると訴えた難民に対し、入管が難民認定基準を意図的に厳しくして難民不認定としていることが伺えます。

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具体的には、上記の文書では迫害主体であるボコ・ハラムについて「関係資料によれば,ナイジエリア政府が同組織による違法行為を放置,助長している状況にあるとは認められない」としています。一方で、ヒューマン・ライツ・ウォッチの2018年10月の報告書は「ボコ・ハラムがカノ市で警察署などを襲撃し、警官29人を含む185を殺害した」と報告しています。つまり、入管は自らの判断を正当化する根拠のみを示すことで難民認定の門を狭め、庇護が必要な人々を難民不認定としているのです。

また③は、入管が紛争や迫害にから逃れてきた人々に対し、自分が難民であることを証明する書類を日本語で作成し提出するよう求めているために生じています。(提出期限は入国から6か月以内)しかしながら、難民として来日する人々に対し日本語の読み書きができると期待するのはまったく現実的ではありません。誰かに資料の翻訳をしてもらおうにも、その費用を準備することが難しいことも多々あります。

(3)灰色の利益を認めない:UNHCR基準との相違

UNHCRの「難民申請における立証責任と立証基準について」では、難民の立証基準について以下のとおり述べています。

証拠に関するかぎり、難民としての地位の申請は刑事事件とも民事上の 訴えとも異なるものである。主観的な要素は立証が特に困難であり、通常、信憑性についての判断は「確かな」事実(“hard” facts)に拠るものではない。審判官は、申請者の供述に全面的に依存し、出身国の客観的状況に照らして評価を行わなければならない場合が多い。(21. (20.) )
申請者の話が全体的に一貫しており、自然かつ合理的(plausible)であると審判官が判断した場合には、疑念の要素があっても申請者の主張内容に不利益に扱われるべきではない。つまり、申請者は「灰色の利益」を与えられるべきである。(13. (12.)の最後の一文)

難民不認定による結果の重大性を考慮すれば、申請者に「疑わしきは申請者の利益に」の原則(=灰色の利益)が与えられるのは当然、というのが国際的なスタンダードです。しかしながら、入管は以前から「難民該当性の判断は、難民認定手続及びその後の訴訟手続においても通常の民事訴訟における一般原則と同様に解されることから、申請者である原告は、自分が難民であることについて、「合理的な疑いを容れない程度の証明」をしなければならない。」と主張し、訴訟外の行政処分にUNHCR基準とは相容れないより厳格な民訴立証基準を用いています。

上記からわかるとおり、「先進国である日本に逃れれば助かる」と希望をもって命からがら祖国から逃げてきた難民を待ち構えているのは、難民として認めてもらえない、庇護を受けられないという苦しみと、祖国に送り返されるかもしれないという恐怖であるのが現状です。


次回は「日本の外国人労働者受け入れ状況」を扱います!