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連載企画⑤在留資格を持たない人々を取り巻く状況 – 退去強制・収容

 
 難民を含む外国人が入管法に違反(不法入国、不法滞在、刑事事件を起こす等)すると、退去強制の対象となり、全国の入管センターもしくは地方入管(例:茨城の牛久、東京の品川、長崎の大村)にある外国人収容施設に収容され、退去を迫られます。ここで帰国できる外国人は帰国しますが、難民、家族が日本にいる、長年日本に住んでいる等の帰国できない事情のある外国人は、事実上無期限で収容されます。また、入管の業務のひとつは、この退去強制令書が発付された外国人を速やかに送還することであるため、特に難民申請が不許可となった直後に強制送還を実行しようとします。チャーター機による集団強制送還(2013年7月:フィリピン国籍75名、同年12月:タイ国籍46名、2014年12月:スリランカ国籍26名及びベトナム国籍6名、2016年9月:スリランカ国籍30名、2020年3月:スリランカ国籍44名)を行うこともあります。

被収容者が置かれている現状

 収容施設に収容されている外国人(以下、「被収容者」という。)は、以下のグラフのと、2019年5月時点でおり500人弱います。入管は、入管法第5条により、入管法違反者・容疑者の外国人を収容する権限を与えられています。BONDは、入管の収容権を全否定するものではありませんが、現状の入管の収容権の使われ方に反対しています。この収容権は、本来被収容者の人権を尊重し、彼らの健康と生命を守るという管理責任・義務を果たすことが前提にあり付与されているのであって、彼らを監禁して心身ともに苦しめるために付与されているものではありません。入管がこの管理責任・義務を果たすことができないならば、収容権は成立しません。

BOND note 連載企画五

 実際、収容施設の中で被収容者は外の世界との関係を遮断され、人間の正常な心身状態を保つために必要不可欠な時間感覚と空間感覚を奪われています。そのため、共通して収容3~6ヶ月前後頃から頭痛、目眩、吐き気、食欲不振、不眠等の拘禁症状が現れます。これらの症状は、体重減や持病の悪化、罹病を引き起こします。また、難民、家族が日本にいる、長年日本に住んでいる等の自国に変えるに帰れない被収容者は、1年を超える収容(長期収容)を指します。いつ解放されるか、いつ送還されるかわからない、先が見えないという不安と恐怖は、被収容者の心身を蝕んでいきます。入管の収容施設において体調を崩した被収容者に提供される医療は、彼らが収容に耐えられる程度の健康状態を維持するためのものであって、根本的に病を治癒するためのものではありません。そのため、収容施設内では、医療放置や救急搬送の遅れなどにより被収容者が死亡する事件が多数起きています。以下の表は、入管施設で亡くなった方々の一覧です。2019年6月にはナイジェリア人の方が入管に放置された結果餓死した事件は報道でも大きく取り上げられました。

BOND note 連載企画五.

BOND note 連載企画五。

 上記のような痛ましい事件の数々を見ると、入管が被収容者の健康と生命を守る責任・義務を果たそうとしているとは到底言えません。むしろ、入管は前述の収容権を使って、積極的に被収容者の人命を軽視し、彼らを非人間的に扱い、被収容者の外国人の心身を痛めつけ、帰国を強要しようとしているように見えます。「入管は外国人の人権や生命を軽視しており、これは外国人差別である」批判されても、「そのとおりです」と認めざるを得ない状態にあります。このような入管の収容のあり方や入管内の医療体制の不備、それによって引き起こされた多数の死亡事件は、本来であれば社会的に大問題となるべきであり、国内的にも国際的にも到底容認されません。

 また、収容施設内は医療体制が不十分なだけでなく、他にも以下のような多数の問題を抱えています。

・異議申し立てや強制送還時に受ける入管職員からの暴行、その暴行による負傷/死亡
・食事の選択権の剥奪(外部からの食品の差し入れは不可)
・被収容者の家族や支援者による面会の制限(時間、人数、回数)
・施設内の行動の自由の制限(1日数時間の自由時間以外、各自の居室に閉じ込められる)
・プライバシーの欠如(居室は4~5人の相部屋)

 上記のような耐えがたい苦痛を伴う長期無期限収容は、日本も加入している拷問禁止条約 には「『拷問』とは、身体的なものであるか精神的なものであるかを問わず人に重い苦痛を故意に与える行為」に当たるとBONDは考えています。

入管法違反者個人の責任なのか?

 また、ここでのポイントは、外国人収容施設に収容される理由は「退去強制」という行政処分(スピード違反、駐車違反に伴う処分も行政処分)を受けたからであり、刑事犯罪者として刑罰を受けて収容されているのではない、ということです。被害者のいる刑事犯は刑期があり、いつ刑務所を出られるか決まっているのに対し、加害者のいない行政犯である入管法違反者が無期限に収容されるというのは、全く筋が通りません。(「連載企画③日本の外国人労働者受け入れ状況とその問題点」の記事でご紹介したとおり、一部の不法滞在者はむしろ貴重な労働力として日本社会に貢献すらしています。)ただし一方で、入管法に違反には加害者がいないとしても、「法律に違反であることは事実であり、行政犯であっても法律違反をしていいとは思わない」と大半の日本人は思うでしょう。確かに非正規滞在者は入管法違反者であり、法律違反者です。BONDは、前述の入管法違反者が提供する労働力等の有益性及び彼らが他人に危害を加えていないという有害性の過少性をもって、入管法違反を正当化する意図は全くありませんし、まして入管法違反を奨励するものでもありません。ただ、BONDは、「入管法違反は、入管法違反者個人の責任である」とするべきではないと考えています。なぜなら、入管法違反者が増大した責任・原因は、「連載企画②日本の難民受け入れ状況とその問題点」「連載企画③日本の外国人労働者受け入れ状況とその問題点」で示しましたとおり、そもそも政府(の外国人政策)の失策にあるからです。多くの入管法違反者を生み出している根本的な問題=政府の外国人政策の問題を放置したまま、単に入管法違反者を摘発・収容・送還したところで、同じことが永遠に繰り返されるだけです。したがって、BONDは、どうしても日本にとどまる事情がある人々については速やかに正規の日本在留を認めるべきだと考えています。