ニンジャタワー

ニンジャタワー

(ナレーション)
忍者発祥の地
滋賀県甲賀市にほど近い
琵琶湖のほとり

ワンボックスカーから腕章巻いたイギリスBBCの取材クルーが5,6人降りてくる。(車にもBBCと書かれている)

女レポーター「ここがニンジャタワー?」
クルーリーダー「住人全員がニンジャの末裔なんだそうだ」
ふたり湖畔にそびえたつタワーマンションを見上げる。

(女レポーターとクルーリーダー以外のクルーのセリフは特に発言者の指定なし。女レポーターは常にマイクを持っている)

撮影機材を車からおろすクルーたち。
クルーリーダー「BBCでーす。イギリスからニンジャの取材にきましたー」
インターフォンに向かって。
インターフォンの相手「50階の自治会長室に来てください。」
はるか上方からスルスルスルーッと縄ばしごが降りてくる。
クルーがカメラ担いで登り始めるがあっというまに転落。

クルー「機材が重くて無理でーす。上がれませーん」
インターフォンの相手「しょーがねーなー」ぷちっ。
一方的にインターフォン切られる。

ランドセル背負った小学生数人が(首から下はふつうの格好だけど頭にだけ忍者の頭巾かぶっている)目にもとまらぬ速さで縄ばしこをのぼっていく。
クルー全員「ひえーーっ!」と腰抜かす。

(ニンジャタワーの住人は子どもも大人も頭に頭巾被って首から下は現代人の格好で。)

クルー「あれはなんだ?」
上空を指差す。
クルー「だれかおりてくる!」
女レポーター「メリーポピンズかしら?」
ムササビの術で空から旋回しながら自治会長おりてくる。

ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!

クルーたちの持つ機材ケースやワンボックスカーに手裏剣のように名刺がつぎつぎに10数枚突き刺さる。

「ニンジャタワー自治会長
Ninja Chairman
多羅尾多羅三
Tarazo Tarao 」

自治会長ワンボックスカーの上に着地。
タラゾー「まったく世話やけるな、外人さんは」
クルーリーダー「メンボクないでーす」
タラゾー「こっち来な」
タラゾーワンボックスカーから体操選手みたいに回転しながら飛び降りる。
クルー一同「イエスでーすタラゾーさん」

タラゾーがタワー横のゴミコンテナを開ける。中は地下につながる長い階段。
一同地下に降りる。
ドドドドドドーーっ!
地下は吹き抜けの上から水が流れ落ちる滝つぼになっている。
クルー「漫画かよ」
タラゾーを先頭に全員が乗ったゴムボートで滝の裏側にまわる。
女レポーター「わーい、パリディズニーみたーい!」
上陸。
クルー重い機材を置いて疲れ果てて苔に覆われた岩壁にもたれる。
岩壁がどんでん返しになって
くるっと半回転。
そこはエレベーターの中。
タラゾー「さっさと乗って」
クルー一同「イエスでーす!」
エレベーターのボタンは50階がひとつあるだけ。
女リポーター「50階まで直通ですか?」
タラゾー「うちのもんはエレベーターなんか使わんよ。」
滝の回りを螺旋階段がはるか上まで伸びているさまがシースルーのエレベーターの中から見える。
住人が螺旋階段を駆け上がったり駆け下りたり。
ツタにぶら下がってるターザン忍者もいる。
タラゾー「使うのはあんたらみたいなお客さんが来た時だけ。」
あっというまに50階着。
ドアが開くと天井にミラーボールが回っている。
廊下がガールズバーになっている。
廊下の壁に沿ったカウンターの中にビキニ着て頭に頭巾かぶったナイスバディの女忍者が5,6人。
タラゾー「あんたまだおったんか?」
カウンターにひどく酔っ払った中年男。
クルーリーダー「どなたですか?」
タラゾー「ウーバーイーツジャパンの社長」
酔ったウーバー社長BBCの女レポーターにセクハラをはじめる。
タラゾー「うちの若い衆300人ほどと契約したいってんだよ」
グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!
女レポーターの悲鳴を聞いてカウンターの中の女忍者が一斉にアイスピックを投げる。
ウーバー社長を壁に磔にする。
BBCカメラマンさっそくカメラをまわし始める。
磔にされたウーバー社長「撮らんでくれー」半泣き。

ガールズバーの女忍者たちBBCクルーたちに飲みものを配る。

タラゾー「ふつうの配達員が3件配達する間にうちの若い衆なら10件配達するからさ」
女レポーターがタラゾーの話をマイクで拾おうとマイクを突きつける。
タラゾー「報酬2倍払ってもメリットあるんだってよ」
クルー「すごい身体能力ですね」
忍者の顔の飾り物がついた観音開きのドアを開けて
一同会長室にイン。
タラゾー「見てみ」
タラゾー窓に。一同窓にかけ寄る。
タラゾー「今日はヨットの日本選手権やってるんだけど」
一同窓から琵琶湖を見下ろす。
ヨットの群れの間を別次元の速さで忍者たちが水クモの術でジェットスキーのように滑走している。
クルー一同「すごーい」

タラゾー「こっちも見てみ」
タラゾー別の方向に話をふる。
頭巾にランニングウェア姿の男が木陰のベンチで昼寝している。
タラゾー「あいつは今日の琵琶湖マラソンのペースメーカーのバイトやってんだけど」
クルー「サボってて怒られないんですか?」
タラゾー「ポケモンGOやりながらテキトーに走ってんのに誰もついてこられないから時間調整中」

(ピカチュウげっとお!リザードンげっとお!ウインディげっとお!スマホでポケモンGOしながら蛇行しまくって走ってるのに後続をぶっちぎってるイメージ挿入)

タラゾー「最近はアフリカの選手もだらしねーんだよ」
タラゾー快活に笑う。
向こうの方から琵琶湖マラソンの選手の群れが近づいてくる。
「そろそろ起こさんといかんな」
ピーーーッ‼︎
タラゾーが指笛で合図すると女忍者がひとりダダダダーっと走って来て50階の窓から勢いよくダイブ‼︎
昼寝してる若い衆めがけて鷹のように一直線に滑空していく。
若い衆の真上を通過した瞬間にジリリリリリリリッと鳴りまくってるめざまし時計を空爆のように大量投下。
ひとつが顔に当たって若い衆あわててとび起きる。
女レポーター「ワオッ!ラブリー!なんて斬新な起こし方!」
クルー「めざまし時計の存在意義が崩壊した瞬間を目撃しました」
タラゾー「で、どんな話聞きたい?先週もイギリスから取材に来たけどね、The Sun って新聞」
クルー一同「イギリスの東スポと呼ばれてる新聞でーす」
タラゾー「琵琶湖にネッシーみたいな恐竜はいませんか?ってしつこいんだよ」
クルー一同笑い転げる。
タラゾー「そんなのいないっていってんのに」

タラゾー「あのミシガンって遊覧船の写真を黒くぼかしたら恐竜に見えなくもないぞ特大スクープだ!」

(遊覧船ミシガンをぼかして恐竜のように加工したイメージ挿入)

タラゾー「とかぶつぶついいながらロンドンに帰ってった」
クルー一同さらに激しく笑い転げる。

クルーリーダー咳払いひとつ。「私ども格調高いBBCは」
いきなりタキシード姿になったり薔薇の花を口にくわえたりクルー一同それぞれ気取った場違い決めポーズで格調高いアピール。
クルーリーダー「タラゾーさんたちニンジャのビジネスについて興味を抱きました」
女レポーター「登記簿謄本調べさせていただきました。このタワーマンションも丸ごと自社ビルですね、しかも無借金」
クルーリーダー「その収益システムを知りたいのです」

ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!
ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!

クルー「ひゃーーっ!」
クルー「また来たこれ来た!」
クルーたちの衣服や機材にまた10数枚名刺が突き刺さる。

「株式会社ニンジャカンパニー
人材派遣、映像制作、グッズ製造販売、ゲーム制作、町おこし、被災地ボランティア、行政代行

代表取締役社長
多羅尾多羅三

Ninja President
Tarazo Tarao 」
クルーリーダー名刺に見入る「ずいぶん手広くやってますね」
タラゾー「近江商人の末裔も兼ねてるもんでね」

スマホの着信音が上から聞こえる。両耳にスマホを1台ずつあてた10代後半の女忍者が天井裏から顔をのぞかせている。(正方形1枚分の天井のパネルが外れてる感じ)
「おじいちゃん、IOCのバッハ会長から」
JK忍者が片方のスマホをタラゾーに向ける。
「ロシアオリンピック委員会の枠が空いたのでニンジャオリンピック委員会としてパリ大会に選手を派遣して盛り上げてくれないかって」
タラゾー「考えとく」
JK忍者「前向きに検討すると申しております」
タラゾーひとりごとふうに「前向きとはいっとらんが」
JK忍者反対耳側のスマホをタラゾーに向ける。
「おじいちゃん、ロシアのプーチン大統領から」
「傭兵として100人ほどニンジャをウクライナに派遣してくれないかって。将校待遇は保証するそうです」
タラゾー「断れ!」
JK忍者「われら現代ハイブリッド忍者は戦争などにはいっさい関わらん。勝ち馬にも負け馬にも乗らん。2度とかけてくるな。おまえのかーさんでーべーそと申しております」
タラゾーうなずきながら「ようゆうたようゆうた」満足げ。
タラゾー「お客さんに挨拶しなさい」
JK忍者天井の穴から回転して飛び降りながら

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!
シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

カチン!カチン!カチン!カチン!
カチン!カチン!カチン!カチン!

クルーたちアメフトのヘルメットをかぶり機動隊のジュラルミンの盾で各自防御して孫娘の名刺手裏剣を跳ね返す。
クルーリーダー得意げに。「イギリス人さすがに学習するでーす」

「株式会社ニンジャカンパニー
人材派遣、映像制作、グッズ製造販売、ゲーム制作、町おこし、被災地ボランティア、行政代行

社長秘書
多羅尾多羅美

Ninja Secretary
Tarami Tarao 」

アメフトのヘルメットかぶったままで女リポーター「人材派遣についてはゲップがでるほど理解しましたが」アメフトのヘルメットかぶったままでクルーリーダー「映像制作とは何ですか?グッズ製造販売とは何ですか?」
タラゾー指でクイックイッと非常口のサインが出てる扉に皆を誘導する。(このコマからクルーたち元の姿に戻る)
クルー「不吉な予感」
クルー「またなんか仕掛けがあるぞ」
クルー「油断するなよ」
クルーリーダー「扉開けたら断崖絶壁になってるかもしれんぞ」
女レポーター「私たちタブーに深入りしすぎたんじゃないの?」

ギギギギギギギーーーッ。

タラゾーがボタンを押すとゆっくり意味ありげに扉が開く。(ここはホラー映画のような不気味な間と暗さを表現してちょ)
クルー一同ごくりと生つば飲み込む。緊張マックス。

しかし扉の向こうはふつうに下のフロアへの階段になっているだけ。
タラミ「へいへいBBC、ビビってるうーーっ‼︎」
タラミけらけら笑いながら階段を駆け下りていく。
クルーリーダー安堵してへたりこんで「緊張と緩和はんぱねー」

49階は広大なスタジオになっている。それがついたてでいくつかのスタジオに分けられている。49.5階はそのスタジオを取り囲む通路になっている。すべてのスタジオを上から覗きこめる。(体育館の2階席の最前列前の通路みたいなイメージ)

タラゾー「ジャパネットさんは1スタ使ってるのか?」
タラミ「もうすぐ終わる予定」
一行49.5階からジャパネットの中継に見入る。

ジャパネットたかた男MC「佐世保のスタジオが台風で水没しましたので」
ジャパネットたかた女MC「今日の全国10局同時生放送チャレンジデーは甲賀忍者様のご厚意で」
男MC「琵琶湖のスタジオからお送りしてまいりましたがいよいよ次が最後の商品!」
女MC「なんと早くも電話が鳴りっぱなし!」
男MC「まだ商品名もいってないんですよ」
女MC「すごい反響ですねー」

タラミ「2スタから6スタまではうちのオリジナル番組をyoutube や tiktok や telegram で世界に向けてネット配信してます」
どのスタジオもジャパネットを模して男女ペアのMC

タラミ「 2スタは英語」
カウボーイハットかぶった忍者MCが商品説明中。

タラミ「 3スタはスペイン語」
闘牛士の格好した忍者MC が商品説明中。

タラミ「 4スタは中国語」
人民服着た忍者MC が商品説明中。

タラミ「 5スタはヒンディー語」
インド人の格好した忍者MC が商品説明中。

タラミ「そして6スタは日本国内向け」
和服着た忍者MC が商品説明中。

タラミ「忍者の世界的知名度を活かしてグローバル展開させていただいてます」

(BBCカメラマンと女レポーター49階に降りて各スタジオをちょこまか回って熱心に取材と撮影しているカットを3コマぐらい。)

49.5階の壁はグッズのショーウィンドウがはめ込まれている。
クルーリーダー「今までいちばん売れたグッズは何ですか?」
タラゾー「これだよ、分身の術をゲーム化したんだけど」
タラゾーショーウィンドウからもぐら叩きみたいなゲームを取り出す。
スイッチを入れるともぐらの代わりに忍者が猛スピードで顔を出したり引っ込めたり。
タラゾー「やってみな」
クルーリーダー忍者叩きにトライするもまるでスピードについていけずはーはーぜーぜー息を切らせて汗まみれ。
タラゾー「動体視力を向上させると大バズりしちゃってさ」
タラミ「直販価格1セット35ドル。全世界で500万セット売れました。ぼろ儲けです」
クルーリーダー「オーマイガッ!近江商人おそるべし!」

(ナレーション)
2時間後。

タラゾーとタラミとガールズバーの女忍者たちがエレベーターまでお見送り。
クルーリーダー「お世話になりましたでーす」
女レポーター「ダニエル・クレイグの次は初のアジア人ジェームス・ボンドとして」
クルー「ニンジャタワーの人が最適とBBCから全力推薦しておきますからね」
タラゾー「今度来る時は手ぶらで来なよー」
クルーリーダー「イエスでーす助かりまーすタラゾーさん」
タラミ「スタジオ使用料と機材レンタル料はいただきますけど」
ちらっといまだ磔状態のウーバー社長の姿が後方に。
女レポータータラゾーの名刺見ながら「忘れてた。行政代行ってのはなんですか?」
ぼんっ!
タラゾーが足元に煙玉投げつける。
白煙に包まれる。白煙がはれるとスーツにネクタイ姿に変身している。
斜めに名前入りのタスキがけ。
タラゾー「申し遅れました。滋賀県知事を務めさせていただいております多羅尾多羅三でございます。」
タラゾーふつうに頭を下げながらクルーたちに名刺をくばる。
タラゾートラメガ片手に「まだやり残したことがございます。3期目も4期目もこのタラオタラゾーに滋賀県民のために汗を流させてください!」
クルー一同「あいにく選挙権がございませーーん」

地下の滝つぼを胸まで水につかり頭に機材乗せて歩いて渡るクルー一同。
クルーリーダー「30分番組にはもったいない取材だったな」
女レポーター「3時間ぐらいのニンジャ特番組みましょうよ。ロンドンのスタジオにニンジャの人たちに来てもらって」
クルー「でかいセット作ってリアル分身の術やってもらったらどうです?」
クルーリーダー「ジョンソン首相にハンマー持たせて叩かせたらぜったいウケるよな」
一同「ウケるウケるまじウケるーーっ!」

ラストひとこま。
去って行くワゴン車の後ろ姿にクルーたちのセリフがかぶさる。
「急がないとおくれるぞ」
「ブリティッシュエアウェイズとJALの共同運行便でしたね」
「関空まで2時間で行けるかな」
「車降りて走った方が早いんじゃないか」
「無理っすよニンジャじゃないんだから」

(ナレーション)
この物語は全力フィクションです。実在する組織団体個人と名前が似ているような気がしても気がするだけで気のせいです。

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