【台本】雨
初出:2021年3月
ナレーション:
僕は、雨の中、夜道のバス停に立っていた。雨で遅れているのか、バスはなかなかやってこない。
明転
(人、時計を見る。後ろを振り返ってバスが来ていないか確認する。)
雨:バス、来ないな
(人、辺りを見回すが誰もいない)
雨:こっちだよこっち
(人、体を動かして辺りを見回す)
雨:上だよ、上。傘の上!
(人、上を見る)
人:…………誰?
雨:雨粒だよ。お前の傘にのっかってる。
人:雨粒?
雨:そう。
人:雨粒って、喋れんの?
雨:そりゃそうだろ。今周りで聞こえてる雨音、全部の俺らの断末魔だから。
人:そうだったの?…ってことは……何かにぶつかると、死ぬんだ。
雨:そうそう。空高くから降ってきてるから、まあ当然のことだけどな
人:じゃあ、なんで君は生きてるの?
雨:ああ、たまたまうまく足から着地出来てな。
人:足?足なんてあるの?
雨:あるよ、「雨脚」っていうだろ。
人:まあ確かにそうだけど……なんか騙されてる気がする。
雨:そんなこと言うなって
人:ちなみに、今傘から落ちたらどうなる?
雨:地面には着地出来ても、すぐにしみこむから、まあ死ぬことになるな
人:つまり、僕が傘を傾けでもしたら、一発だね
雨:そういうことだ。
人:でも、それにしては気丈だね。死ぬのは、怖くないの?
雨:もともと、死ぬ覚悟があったところで運よく生き残ったんだ。今更怖くないさ.
人:なるほどね。
雨:つかぬことを聞くけど、お前は「雨」は好きか?
人:んーまあ……好き、かな
雨:なるほど……雨が好きなあなたは、絶賛片思い中だね!!好きな子がなかなか振り向いてくれなくて苦労してるのかな??勇気を出して、好きな子にプレゼントを贈ってみよう!!ラッキーカラーは青!!
人:………なに、今の?
雨:雨占い?どう、当たってる?
人:いや全ッ然、てかこんな2択で何が分かるの?もっとちゃんとした話してよ
雨:ええ……何か厳しいなお前。雨だぞこっちは。
人:なんか、話ないの?
雨:ああ……じゃあお前は、「死ぬ」ということについてどう思う?
人:「死ぬ」か……まあ、怖いよね。
雨:怖いと
人:うん。いつ来るかどうか分からないってのもあるし、自分がこの世界に存在しなくなっちゃうことへの、言葉にできない恐ろしさ、みたいなのは、あるかな。
雨:なるほど。じゃあこう考えてみるのはどうだろう。「死」があるからこそ、「生」が充実すると。
人:どういうこと?
雨:いつか死ぬからこそ、生きている今を楽しもう、自分が生きた証を残そうと頑張れるんじゃないかってこと。だから、俺は全然死は怖くないね。雨に生まれて、普通は地面に落ちて死ぬのが運命だったけど、幸運なことにこうして人間と会話まで出来ている。もし死を怖がってるだけじゃ、こんなことなんか出来なかったと思う。だからお前も、死を恐れる……
人:(傘を傾ける)
傘:ちょお前落ちる落ちる落ちる死ぬ死ぬ死ぬ
人:(元に戻す)めちゃくちゃ怖がってんじゃん
傘:お前そういうのやめてくれよマジで
人:何が「全然死は怖くないね」だよ。
傘:いやそれは心の準備が出来てなかったからで…
人:んーまあ、とにかく、「死」を怖がるんじゃなくて「生」の充実を考えなってことだろ。確かにな~
傘:だろ!じゃあ次はこんな話はどうだ。お前は「親」という存在について……
人:あ、ちょっとバス来たみたい。
傘:え?
人:じゃあね。また今度。
傘:え、ちょちょそんなあっさり!?また今度とかないんだけど……うわあ!
人:(傘をたたんで振り回す)あ…………(雨の降る空に向かって)アーメン
暗転
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