NSC42期リタイア記録簿 武田編①



NSCには毎年、大阪だけでも200人近くの入学生達がいる。

しかし、そんな中で卒業まで残る人数は半分程となる。

中には養成所の雰囲気に合わず辞めていく者、自信をなくし消えていく者など色々な奴が存在するのだ。



そんな中でも今回は、"武田"という1人の男を紹介しよう。



彼との初めての出会いは、僕にとってかなり特別なものだった。

その一番の理由としては、何を隠そう僕の相方、田邊の一番初めの相方なのである。

2人で"ブリンカー"というコンビを組み、同じクラスだったので存在自体は以前から知っていた。



ある日の授業終わり、僕が建物の階段を降りているときに武田側から声をかけてきてくれた。


「ナンジョウくんよね?」


この時僕はまだ彼の名前を知らなかった。

でも武田側は僕の名前を知ってくれていたみたいだ。

それはおそらく僕のピンネタを見て覚えてくれたのだろう。


当時僕は、ピンになりたてだった。

その後初めてのネタ見せにて、何かネタをしなくてはいけないと思い、

「ナンジョーコウタ〜ナンジョウコウタ〜」

と名前をリズムに乗せたブリッジを駆使して、一発ギャグや軽いモノマネをいくつかするというネタをやっていた。


少しでもみんなに名前を覚えてもらおうと思い作ったブリッジだったが、ある時全然仲良くもなく名前も知らないような同期から、

「あれ、霜降りせいやさんの、せ、せ、せいや〜とリズム同じよな」

と言われてから二度とやることは無くなった。


そんなこともあり当初から名前だけ知ってくれている人は多かったのだ。



武田に声をかけられた流れでそのままブリンカーの2人と歩きながら話をしていた。

厳密には田邊はまだほとんど口を開くことはなかった。
 
そのため必然と武田との話に花が咲いていったのだ。


ちなみに、先ほどから呼んでいるこの"武田"という名前。

実は彼の本名ではない。

実名は別のものがあるのだ。

その事実を知ったときに僕は、彼のクレイジーさを少し感じた。

こんなに普通の見た目をしているのに頭は完全にいかれてるのかもしれない。

だがその狂気性はすぐに本物だとわかる。

その場に一緒にいた田邊が少しずつ口を開き始める。


「コイツネタ合わせ中抜けて平気で風俗行きよんねん。」

うん、確かに僕の勘は間違っていなかった。

コイツ本気で頭おかしいんやわ。

さらに別の日には、風俗行ってきた足でネタ合わせをして、そのまままた風俗へと消えていったこともあったらしい。


「何で一回俺挟むねん。」

そう嘆く田邊。

そういった変人エピソードを僕は気に入り、この日の出来事がきっかけで武田とはそれなりに話をする仲になっていた。

彼と仲良くなることで必然と、当時の相方であった田邊とも少しながら親交が深まりつつあった。



そんな武田と田邊のコンビ ブリンカーだが、彼らはNSC当初、中々優秀なコンビでもあった。



ネタ見せの授業の時、講師がその日出来が良かったコンビを何組か挙げることがある。


その第一回目のネタ見せ授業の時、彼らの名前も挙げられていた。



そして、関西には今宮戎というお笑いコンクールがあり、大会に出場するコンビを決めるネタ見せ会があった。

これには全員参加できるわけではなく、講師からのネタの評価が高い者しか見てもらえない特別な会であった。

そのネタ見せにもブリンカーは選ばれており、周りから一つ頭が抜けた存在ではあった。


しかし‼︎



この今宮戎ネタ見せの際に、彼らブリンカーにとって最大の事故が起きてしまうのであった。




次回に続きます‼︎


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