公認読手体験記~未公認の部第4話

3年ぶりの関東支部読手講習会。
久々の場所にちょっぴりドキドキしながら入ったら、専任読手の先生に声をかけられました。

「何だ、またここに来るのに、随分と時間かかったねぇ(笑)」

私が初めて担当して頂いた先生でした。確かに、3年も間を空けてしまったのですから、そう言われるのも仕方のない事。これには苦笑いするしかありませんでした。

この時の未公認の部は、過去2回受講した時とは違う先生が担当。
内容は、全員順番に読むことになっていて、一人ずつアドバイスを頂く形になっていたのですが、私は座る位置的に後ろから2番目の場所にいたので、人の読みを聞きながら、自分は何を言われるだろうかとドキドキしていました。
やがて順番が回ってきて、前に出て読みの準備をしていたら・・・

「あなたは、今この場でB級公認の合格を出します
「!?」

まだ読んでません。と、思わず言う所でした(笑)
突然告げられた「合格」という言葉に、ちょっと頭が追いついていきません。しかし、そんな風にパニくってるのはお構いなしの先生が、間髪入れずに言います。

「その代わり、今ここでの読みについては、A級公認を目指すため『美しく読む』ということについてチェックしていくので、あえて厳しくやります

合格したとか何とかよりもとりあえず耳の中にちゃんと入ってきた言葉は「厳しくやります」の一言。1年前の講習会の時に、序歌の5文字でダメだしされたことが思い出されます。嫌な予感しかしません。心の中で「い、痛クシナイデクダサーイ」と叫びつつ、読みに入りましたが・・・

「なにわずにーさくやこのはなーふゆごもーりー いまをーはるべとーさくやこのーはな――――――・・・・・・いまをーはるべとーさくやこのーはな―――――― なつのよはー」
「ストップ」

出ました、5文字目でストップ。

「一音目の『な』に力が入りすぎ。序歌の二回目の下の句からもう一回」
「いまをーはるべとーさくやこのーはな―――――― なつのよはー」
ダメ。今度は二音目の方が強くなりすぎた。もう一回」
「いまをーはるべとーさくやこのーはな―――――― なつのよはー」
ストップ。今『これは二字決まりだから』ってことを意識したでしょ。そこで終わっちゃダメ。全体が同じバランスになるように。はい、もう一回」

「なつのよは」から先に進まない事案が発生。この5文字全ての音にダメ出しが出たので、この部分だけで5回は繰り返しました。
そしてようやくの6回目。

「いまをーはるべとーさくやこのーはな―――――― なつのよはーまだよいながらー」
ストップ

とてもつらい、と思っていたら、先生から・・・
「今の、ここの部分ね、読み札見て。『まだ宵ながら』とありますね。この部分は『宵』という時間の事を言っているんですよ。でも今の読み方を聞いていると、ただ一音一音をひらがなにして口から出しただけ、という読みになっている。そうじゃない、我々読手はこの言葉を口にしているんですよ。読み札をキチンと見て、言葉の一つ一つをしっかり頭に入れて読んでいきましょう。これから公認読手になる上でプロ意識を持ってください。私たちは、音を口から出すだけの機械ではないんですよ」と。

決まり字はもう通り過ぎてるじゃん!?そこの部分、選手誰も聞いてないよね!?と一瞬思ったのですが、決まり字が選手に聞こえりゃそれでいいというわけじゃない、私たちは決まり字を含めて歌を読んでいるのだということ。これからはそういう事もキチンと意識していかなきゃいけないんだ、ということを指導されました。
そして「ここからはさらに厳しい世界になるのだ」という事を、この時に感じました。

ちなみにこの後、手に持っていた読み札5首分全ての読みに容赦のないダメ出しが入り、いい感じにフルボッコ。鬼指導でした(笑)

講習会が終わった後、「ホントに合格した!」という事に浮かれすぎたのか、駅までの道が分からなくなり、しばらく迷子になっていた・・・というオチが待っておりました。
私は乗り物酔いが激しい体質なのですが、帰りの電車も飛行機も全く酔わずに帰りました。相当に興奮していたのだと思います。


今になって思い返してみれば、読みがよく分からなくなったことで1から練習し直したのは正解だったと思います。
自分で上手いと思っている時は、悪い部分を直せません。これは良くない、こうやって読んじゃダメなんだ、という自覚をしていなければ、それをどうこうしようとはなかなか思えないものです。
そういう意味では、一回ぶっ壊れちゃったというのは多分良かった(ちょっとリスキーですけど)と思いますし、一番は「基本に忠実に読んでいこう」という事に徹したのが功を奏したのだと思います。

未公認からB級公認読手になる際に求められることは「正しく読む」です。
B級公認からA級公認を目指す時に「美しく読む」ということも求められますが、まず最初にやるべきは「正しく読む」こと。
ここが割と落とし穴で、読みをやってみようと思った時、いきなり最初から「美しく読みたい」の方に思考を飛ばしてしまいがちです(自分もそういう気持ちがありました)
しかし、何事もそうですが、まずは基本がきちんとできていることが大事で、その基礎があってはじめて応用が出来ます。土台がしっかりしてない建物はすぐに崩れてしまうんです。

私の場合は、そういう風に分かりやすい形で「ちょっと思い上がってた→崩れる→基礎に戻る」という過程を経てB級公認にたどり着くことができました。
公認読手を目指したいと思っていて、今、読みに行き詰っているという方がこれを読んで、何らかの参考になれば幸いです。


「未公認編」はここまで。
そのうちまた時間が空いた時に「B級公認読手編」でも書いていこうかなと思っています。

ご覧頂き、ありがとうございます。

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