特に高みは目指さないけど読みは覚えたいと思っているあなたへ②テンポの取り方

第1回では、実際に声に出してみた上で、どんな音程を出して読んだかについて考えてみました。今回は読みのテンポの取り方について説明していきたいと思います。

競技かるたの読手は、とりあえず適当に声を出して読んでるというわけじゃなくて、一定のルールに沿って読んでいます。それは「5-3-1-6方式」というルール(※2020年4月改定)です。競技者の人であれば一度は聞いたことがある数字だと思いますが、これはどういう意味かというと

5:下の句を5秒程度で読む
3:下の句の最後の一文字を3秒間伸ばす(余韻という)
1:余韻の後に間を1秒置く
6:次の出札の上の句を6秒程度で読む

ということを示しているものなんです。私たち読手は、この方式に合わせて読めるよう、日々練習を重ねています。

「え・・・それに合わせるとか無理無理無理、5秒?とか6秒?とかで数えて読めない」「3秒が分からない」「1秒がどのくらいかっていう自信がない」とビビりが入ってしまう人もいると思いますが、大丈夫です。いきなり「1秒の間隔が分かる」なんて人はいません。

ここで書いている「下の句を5秒?」「上の句を6秒?」はとりあえず置いておきましょう。読む上で最低限大事にするポイントは3つ。

・余韻を3秒伸ばす
・1秒の間を置く
・決まり字までは止まらずハッキリ読む

選手の方であればよく分かると思いますが、ここのテンポがある程度一定であれば、割と取れるものです。これがある程度出来れば練習会でも大体何とかなります。なので、ここを重点的にやって行きましょう。

さて、第1回で口に出して読んで頂いたテキストを再掲載します。

なにわづにーさくやこのはなーふゆごもーり‐
いまをーはるべとーさくやこのーはな―――――――――――

(少し間を置く)

いまをーはるべとーさくやこのーはな―――――――――――
(1秒)

あきのたのーかりおのいおのーとまをあらーみ‐

これを、今度はテンポを気にしながら読んでみましょうというワケです。
「5-3-1-6方式」が分かりやすくなるように、難波津の下の句~あきのたの上の句までに絞っていきましょう。

いまをーはるべとーさくやこのーはな―――――――――――
(1秒)
あきのたのーかりおのいおのーとまをあらーみ‐

この部分ですね。
まずは、これをどんな秒数で読んでいるのかの内訳から。

5:いまをーはるべとーさくやこのーは
3:な―――――――――――
1:(間)
6:あきのたのーかりおのいおのーとまをあらーみ‐

こんな感じになります。多分一番最初に思ったであろうことは「下の句の最後の『な』長くねっ!!?!?!?」だと思います(笑)そうです、こうやって見てみると結構長く伸ばしているんですね。下の句を5秒くらいで読み上げているのに、最後の文字だけは3秒も伸ばすんですから。下の句だけで8秒以上費やすことになりますね。

よく「3秒ってどこから3秒なのか分からない」と質問される方がいるのですが、見ての通り最後の文字の瞬間からカウントされます。下の句の最後が「~かな」だったら「な」の瞬間から、「~けり」だったら「り」の瞬間からです(余談ですが「かな」で終わる歌は12首と断トツ1位、2位は「けり」の8首。100首のうち2割が「かな」と「けり」で占められているという事になります)

さて、一番悩ましいのは「最後の1文字を3秒~間を1秒」のテンポをどう覚えたらいいの?という点です。ストップウォッチ片手に頑張ってみるのも一つの手ですが、私が一番練習した余韻~間のテンポの覚え方は、メトロノームを使う事でした。
メトロノームなんて普通のご家庭には無いと思いますが、今時はスマホで色々なアプリがありますから、メトロノームのアプリを入れれば良いのです。もちろん無料のものでOKです。
アプリを入れたら、テンポ(bps)を60に合わせます。そうすると、1拍を1秒でカウントしてくれるようになります。テンポを合わせたら、四拍子になるように設定し、それに合わせて最後の文字を伸ばす→1拍(1秒)休む→最後の文字を伸ばす→1拍(以下略)を繰り返して練習していました。具体的には

1・2・3→あ―――――――――――
4→息を吸う
1・2・3→あ―――――――――――
4→息を吸う
→こういう感じで「あ」だけで10セットくらいやって、以下「い・う・え・お・ん」で同じことを繰り返す

ホントにピンポイントのパーツ練習なので、やっててあまり面白い練習ではないかもしれませんが、10セットとは言わないので5セットずつくらいやってみてください。私はよく「あ・い・う・え・お・ん」の6音で練習しています。どの文字で終わっても最後はこれらの母音のどれかに必ずつながるので、あえてこれだけで練習してました。

余談(2回目)ですが、百人一首+序歌の最後の文字の母音がそれぞれいくつあるかというと

あ:28
い:27
う:16
え:12
お:7
ん:11

以上となっています。何と、「あ・い」の二つだけで半分以上占められているんですね。「お」の音で終わる歌が少ないのは意外でした。

話は戻りますが、メトロノームのテンポに合わせて「伸ばす+間を置く」ということをちょっとやってみるだけで、何となくの間隔はつかめると思います。たくさんやるのが面倒くさい人は、↑の通り一番活用する事が多そうな「あ・い」だけでも良いので、こっそり練習してみましょう!

3秒+1秒が出来たら、重要な点3つ目の「決まり字までは止まらずに読む」という部分。ほとんどの決まり字は短いものが多いですから、必要以上に意識しなくてもあまり問題は無いと思います。

気を付けるべきは「一音一番を丁寧に発音することを心がける」ことです。決まり字が聞き取れなかったら何にもなりませんから、急がず丁寧に読み上げること。例えば、慌てて「アキノタノー」なんて感じで読まれてしまうと選手も聞きづらいと思うので、丁寧さを忘れないことです。

問題は大山札です。大山札の決まり字は6文字目までありますが、競技での読みの基本は初句(5・7・5・7・7の最初の5の部分)まで読んで伸ばしています。

あきのたのー

でも、これと同じように大山札を読んでしまうと・・・例えば「あさぼらけあ」は読まれたとしても

あさぼらけー

と、決まり字の途中で伸ばしが入っちゃうことになり「どっち!?」とみんなで迷う事になってしまいます。それでは困るので、大山札・6字決まりのものに関しては伸ばしを入れず

あさぼらけありあけのつきとー

という風に、一気に読み進めることになります。大山札は3種類(あさぼらけ・わたのはら・きみがため)合計6首ありますので、これらについては伸ばしを入れる事の無いよう気を付けて読んでいきましょう。「決まり字までは止まらずに読む」ですよ!

少し長くなりましたが、読みのテンポの取り方について説明してきました。人知れずこっそり練習してみてくださいね。
次回は「読手から見る試合の流れと立ち振る舞い」について書いていきます。
ご覧頂き、ありがとうございます。

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