不変
家の裏手の茫々とした公園を抜けるとき、東の紫の空の天井近くに五千光年の星が落ちていた。月が好きな自分は、同じ天体だというのにただ目立つからかそれだけに目を奪われて、距離が離れて現代の濁りに霞む星々を見ることをあまりしない。だけど今日はなんだかすうと吸い込まれるみたいに、わざわざ首を持ち上げて、歩き、追い越すと振り返り、後ずさりながら、夜露にしなしなとした名前の知らない草々を踏み、見ていた。
こんなにも星は綺麗なものだったけ、などと自分の心の方ではなくこの地の空気に原因を見ようとする厚かましいうわごとをポツンと生み出し公園の出口に背を向け歩く。今も昔もだらしなくこなしてきたせいで、星の名前を一切思い出せないでいると、背中に金属の感触がぶつかった。雲梯だった。そういえばこの公園にある唯一の遊具がこいつだった。確かもともと張り付けられたような青色だったのを、十数年も前に蛍光グリーンに塗りなおされたはずだった。この雲梯のどこにも緑がはがれて銀地があらわになっているところはなかった。老いももしかしたら必要なのかもしれないと思った。
公園を抜けると、細い入り組んだ住宅地が続く。その道を二歩進んでは見上げ、二歩進んでは見上げる。昔の人は星々に線を引きあれが羊だ、あれが川であれが魚だ、と平然と言えたのがとてもうらやましい。もうすっかりそういったものはやせ細って、生活によって恥辱であると錯覚させられたらしい。何一つ残っていない小さい頃の自分が見た星々は、きっと何一つ変わらずに光だけはなって、朝になるのを待っている。
角を曲がり大きな通りに出た。車の轟音、黄白の蛍光灯、人々の流れ。私は下を見てただ速足で歩いた。
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