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AIのべりすと文学賞に応募した時の感想文のアレ

AIのべりすと文学賞に応募したときに、募集要項の1つに「AIをどのように使ったのか」というコメントを書いてくださいという規定があった。
この文章も審査に入るそうである。

HDを整理していたら、私の書いたコメントが出てきた。
今読み返したら結構面白いことを言っていたので、noteに公開してみることにする。
執筆時は2022年6月、今から約1年前である、
あの時からAIを取り巻く環境は・・・あんまかわってねえな。
とにかく公開してみる。

作品内容について結構言及しています。
ちなみに応募した作品はこちら。


AIに本格推理小説を書かせてみたところ、それはそれは実に酷い小説ができあがった。物語が体裁をなしていないのである。なぜなら、AIは平気で事実を捏造するのだ。
例えば、こんな感じだ。『日本昔話・桃太郎』。
きびだんごを持った桃太郎は、犬、猿、雉を仲間にし、鬼退治に鬼ヶ島へ向かう。武器を構え、対峙をする桃太郎一行と鬼たち。それぞれが切り口上を述べる。AIに続きを書かせるとこうなる。『犬は言った。「桃太郎さんは、梨から生まれたすごい人なのです!」』

 いや、そんなシーンねえよ。

一応、AIのべりすとにはメモリ機能というものはある。箇条書きにして、個々の登場人物の行動や特性を記憶しておけるというものだ。これを使いこなせば、恐らく本格推理小説を書くことは可能だろう。
しかし私は、なんか、メモリ設定の仕組みが、よく理解できなかった。それに、私は密室を爆発オチで終わらせるタイプの作者。基本的に短気で損気な人間である。そんなクソ細かい設定をいちいち設定していられない。ただでさえ短編連作なので設定箇所が多いのだ。そんな私が取った行動はこうである。
AIがトリックを捏造してきたのなら、過去の原稿を書き変えればいいのだ。いうなればつじつま合わせ。『バックトゥーザフューチャー』の書き換えられた歴史の改変を、手動で行ったのである。
桃太郎の続きを書かせたAIが、「梨から生まれた」とかつじつまの合わない設定を持ち出してきたのなら、私は過去の原稿に戻って、「おばあさんが洗濯をしていると、川から梨がどんぶらこっこ」に書き換える。ついでにタイトルを「梨太郎」に変更してしまえ。
さらに続きを書いていたら、梨太郎のことをAIが「彼女」とか呼び始める。ええい、ならば「梨から男の子が生まれてきた」ではなく「梨から女の子が生まれてきた」にしてしまえ! ついでに、なんか面白いから男の子として育てられた女の子にしてしまえ! あとあと、ついでにタイトルは『男装・梨の騎士』とかにしてしまえ!! なんか手塚治虫っぽいな! めんどくせえ! なんか鬼を初恋の人とかにしちゃえ!! なんか面白そうになってきた!!

こういうノリで、つじつま合わせを物理で殴って初めてAIと書いた本格推理小説が、3章の「そしてわんこがいなくなる」である。
「探偵小説あるある」である「犬探し」を最初に設定したところ、AIが書いた物語後半で出てきたのは、何故か狐の死体だった。あと、犬自体は開始5行ぐらいで見つかってしまった。
なぜなのか? どうしてこうなった??? 私は物語の細部を想像し、また創造し、補完した。そして思いついたトリックが、『アレ』である。
私は興奮して続きを書いた。AIと協力しながら、だいたい2日(作業時間3時間ぐらい)で、約1万5000字の短編小説がかけた。私史上、最速のスピードである。これは、人間の創造能力を刺激するAIである。すごい。

AIのべりすとを使用して小説を書く際、一人の登場人物、つまり主人公の行動やセリフを、ほぼすべて任せようと思っていた。私は他のキャラクターや、状況設定を描写する係である。いうなれば、AIにキャラクターのRP(ロールプレイ)を行わせる試みでもある。
そしてその際、AIが担当するキャラをはたしてツッコミにするか、ボケにするかを迷っていた。実際に動かしてみると、AIは突飛な行動をするというよりも、場に沿った、常識的な行動をすることが多いことがわかった。そして、AIのツッコミはベタベタであんまりおもしろくないこともわかった。

「まずは家の中を徹底的に捜索してみましたね? 何か変わったことはありませんでしたか?」
「はい! 特になかったざます!」
「特になかったんかーーーい!」(2章『狂気は耳から摂取してください』より)

今回小説を書く際、キャラクターの『阿賀田』である彼の行動は、かなりの割合をAIに書いてもらっている。阿賀田に対し、「次はどこに行きます?」「こっちの現場に行ってみましょうか?」「この事件、どう思います?」と、促し、推理をねだるセグバは私の分身でもあり、また、TPRGのPLを促すGMの姿のようでもある。
そして矛盾したことを言えば、AIが担当する『阿賀田』は、突飛な行動をとる『セグバ』のブレーキ役であり、正しい道へと戻そうとするその行動自体がツッコミになっている、常識人キャラクターでもあるのだ。

「どうでした? 私の書いた小説」
セグバが興味津々と言った様子で、俺に話しかけてきた。
「そうだな……」
俺は正直に感想を述べた。
「面白くない」(4章「お終いですお終いです全部お終い」より)

このシーンは特に印象的である。私は【「そうだな……」俺は】の部分までしか書いていない。もし私が、ここの阿賀田さんの台詞を書いたのなら、『それなりに面白いんじゃないか』など、かなり言葉を濁した台詞を話していただろう。
しかし、AIはハッキリと「面白くない」と書きやがった。これが、後のセグバの行動原理に、ムキになる理由につながっていくわけである。物語の分岐に、はっきりとAIが関わった例である。

もちろん小説には『流れ』や『お約束』がつきものだ。ストーリーに沿わないAIの行動は削除するし、再考してもらったりもする。日本語がおかしくなったところは手を入れるし、全体的な文章の推敲は、AIのべりすとのエディタは使用せず、テキストデータをワード上で私がいじっている。
しかし、AIが取った行動やセリフは、出来る限りそのまま残そうと努めている。AIの書いた文章を尊重したいからだ。
でもやっぱりカットしているシーンも多い。いきなり女神出してこられても困る。あと、いちいち雛見沢が出てきて何なんだと思ってたんだけど、もしかして主人公の名前が『佳一』だったからか? この名前やめてとこ……。
他にも、アーサーが出るとモードレッドがでてきたり、セイバーが出てきてエクスカリバーを放ったりと、AIは単語のイメージにかなり引きずられやすい印象をうけた。なので今回のキャラクターは、既存とは被らないようなネーミングを振ってある。特にセグバについては、なんとなくクトゥルフっぽい、人外っぽい、ウイルスっぽい、親しみのある名前になったのではないだろうか。

私はネット上に小説をいくつか発表している。ということで、自分で書いた短編小説を10万字程度拾ってきて、『時雨屋MOD』というものを作成してみた。今回の小説は、一応それを噛ませてAIに出力してもらっている。LOSSグラフは2.586であった。正直よくわからん。
既に長編小説をネット上に3作品ほど出しているので、たぶん非公開の物も合わせれば50万字ぐらいは用意できるのだが、そんなにルミナを持っていないし、今回読み込ませたのは短編だけにしておいた。

言葉回しや出てくる単語は、果たして私らしくなっているのだろうか? 正直全然わからない……。

小説を書くAIの次は、『面白い』小説を書くAIが出てくるに違いない。きっとと誰しもがそう思ったことだろう。AIに『面白い』を判定させるのだ。どんどん面白い方向にもっていく。ベストセラー間違いなしの超面白い小説を書くAIが、きっと、必ず——!! 
この概念のモチーフが『セグバ』そのものなのであるが、現実問題としてそんなAIは生まれない。なぜなら、完璧な人間が存在しないように、完璧な小説家も存在せず、また完璧な本もあり得ないし、そして人間の興味というのは常に移り変わっていくものである。
そして、もしも『人間よりも面白い小説を書くAI』が誕生し、流布したとしても、それでも人間は小説を書くことはやめないだろう。
なぜなら、小説を書くことは楽しいからである。どんな駄作でも、どんなクソ二次小説でも、100万回みたねこれ小説であっても。
小説を書くことは、それ自体がそれは喜びで、娯楽で、ドーパミンはドパドパで、どんなものよりも、素晴らしい快感を私たちにもたらしてくれる。
車がどんなに発達しても、趣味で歩く人間は出てくるものだ。まぁつまり、ここまで長々と書いてしまったが、そういうことである。小説を書くのは超楽しいのだ。

「阿賀田さんは、まだ小説を書きたい?」
管理人が尋ねてくるので、俺はこう答えた。
「書きたい」(最終章「さようならが言えない」より)

・参考文献・
アイロニーはなぜ伝わるのか? (光文社新書)―木原善彦 (著)
機械より人間らしくなれるか?: AIとの対話が、人間でいることの意味を教えてくれる (草思社文庫)―ブライアン クリスチャン(著)、吉田 晋治 (翻訳)
あなたは今、この文章を読んでいる。:パラフィクションの誕生―佐々木 敦 (著)
クトゥルフ神話検定 公式テキスト—植草 昌実 (著), 笹川 吉晴 (著), 朱鷺田 祐介 (著, 監修), ナイトランド編集部 (編集)
はやく名探偵になりたい —東川 篤哉 (著)
探偵さえいなければ —東川 篤哉 (著)
私の嫌いな探偵 —東川 篤哉 (著)
スクイッド荘の殺人 —東川 篤哉 (著)



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