『シューズ・オン! 2 』2001年1月 博品館劇場(&『シューズ・オン!』2000年10月 博品館劇場)


 ★★★ 「100点満点のところに最初に120点満点なんて取っちゃうと、その後はたとえ100点を連発しても私は満足できない。」
 …私にとって、「シューズ・オン!」はそんな舞台になってしまったようです。
 出演者の技術がどーのこーのって話ではないんです。皆さんダンスも歌も素敵で、特に「タップのショー」としては現在の日本最強メンバーが揃っているのは間違い無いですし(特に男性陣)。これだけのメンバーに技術面でイチャモンつける気は毛頭ありません。
 そう、私が言いたいのは、ほとんど全てがメンタルなこと。

 「シューズ・オン!」は1998年10月俳優座劇場、2000年10月博品館劇場と、今回の2001年1月博品館と合計3回上演されてきました。
 (ただし今回のみ「シューズ・オン!2」とタイトルに数字が付く)
 最初の俳優座初演の時、私は鳥肌が立つほど興奮しました。5感をフルに活用し、今まで経験が無いほど全身全霊を傾けて舞台に集中しました。舞台上の出来事は勿論、チラシやプログラムや衣装に至るまで、「既存の日本のミュージカル界を変えてやる」というほどの強い意気込みが感じられ、色々な事を想像し、感動しました。

 それが「+20点」となり、それが私にとって『「シューズ・オン!」は特別な舞台だ』と思わせる大きな要因でした。

 でも、それらは私の勝手な思い違いだったのかもしれない…そう思わせるほど、構成や出演者の姿勢から、俳優座で私が感じた「心意気」が再演の舞台からは感じられないんです。
 博品館の2演・3演は共に、既存のものと何も変わらないチラシ、プログラム。キャスティング。商業面での実験的要素が少ない舞台。それらが提供してくれたのは、何の変哲もない「ただの舞台」でした。
 そしてそんな「ただの舞台」からは、再演で次の展開が読めるのでさほど驚けないという弱点を差し引いても、「+20点」となるような魅力が感じられませんでした。

 「+20点」の魅力について、初演の時の感想と比較しながら具体的に挙げてみます。

 [公演チラシには「あえて会場はストレートプレイを中心に上演している俳優座劇場」とあります。確かに俳優座劇場でミュージカルやショーの上演は珍しいです。でも広すぎず狭すぎず、6人のタップを堪能するには丁度良い広さでした。]

 初演を「あえて」俳優座で上演した意義はなんだったのか。何故再演から博品館に移ったのか。俳優座という選択に私は反骨精神を感じていたのに、それは結局「時期的・金銭的な問題」なだけだったのか。

 同じ事がチラシやプログラムにも言える。簡素なチラシ、小振りで手作り感が伝わり且つ価格を押さえた公演プログラム。これらは「既存の価値観を打破するもの」だと私は思っていたが、それも金銭的な理由だけだったのか。

 [そして、この玄人好みの出演者の中、一般的に知名度の高い慈英さんを「看板」にすえて宣伝してもおかしくないのに、スタッフサイドはあえて「看板」に頼りませんでした。6人は常に同列でした。]

 初演では確かに出演者は同列で看板を置かなかったけど、2演からは
公演ポスターやら写真やらが、慈英さんが(2演ゲストの大浦みずきさんを除いた)他のメンバーと比べて扱いが大きくなった。
派手なチラシや広告を打たなくても、通ならわかる「実力だけで客が呼べるメンバー」が揃っていたにもかかわらず、最終的には宣伝に頼るということは、自分達の力量を信じていないという事か。それとも…

 [東京には、ミュージカルファンに馴染みの、もっと広い劇場がたくさんあります。もっと広い劇場を借りて、もっと「看板」に頼って(あるいは看板スターを更に出演させて)、もっともっとお客を呼ぶ事も出来たと思います。] 

[でも、それをしなかったこの公演に、スタッフや出演者の自信や意気込みを感じました。]

 2演では大浦みずきさんがゲスト扱いで出演した。大浦さんは確かに凄いダンサーですが、過去の出演作や著書を見る限りタップを得意にしているとは思えない(し、実際にかなりステップを誤魔化していたと見受けられた)。彼女の出演に、「タップ・ショウ」としてどれだけの意義があったのか。彼女は元宝塚トップスターであり、と同じに観客動員数を見込める「看板」であることには間違いない。結局は「客寄せパンダ」になりうる彼女に頼ってまで集客したかったのか…

 「スタッフや出演者の自信や意気込み」と感じたものは、全て私の思い違いだったのか…

 それが、ただただ寂しい。

 そんな否定的な感情が渦巻く中で、今回一番嬉しかったのは本間さん。
 私が「フェイキング・フレッド・アンド・ジンジャー」で書いた希望…
 [私個人としては、完成に近い(と思われる)「アステアのダンススタイル」は本間さん自身の芸の一つとして「引き出し」にしまっておいて欲しいです。
 「憧れのアステア」からはしばらく離れ、「本間憲一」の色を出せるように更に一層努力して欲しいです。
 舞台人として、アステアとの「同化」ではなく、アステア「越え」を目指して欲しい。
 決して「アステアのそっくりさん」で終わってほしくないです。]
…に近づいているような気がして、また今までより柔らい表情(表現)も出るようになった気がして、ちょっと嬉しかったです。
 北村さんとのナンバーもさすがの出来映えで、私はこれが一番良かったです。
 本間さんと玉野さんのデュオも良かったぁ。
 けれど玉野さんのソロナンバーは前回までの方が好きですね。ご自身のサイトでしていた「自分のソロがなかなか出来上がらない」という発言を読んでいたからかもしれないけど、今回のソロからは「産みの苦しみ」を感じられなかった。新品の服を作らず、自身の引き出しから色々と古い服をあわてて出してコーディネイトしてみて何とか体裁を保った、という印象とでも言えましょうか。
 とか言いつつ、流石の足さばきにはため息しか出ないんですけどね。

 逆に、一番腹が立ったのは慈英さん。
 「悪い」ではなく、「腹が立った」。ココ、要注意です(笑)

 それについて触れる前に、俳優座の初演について、「Misoppa's Band Wagon for Musical Lovers」(閉鎖)の中で運営者のミソッパさんが書いていることを引用させていただきます。

 [その中心になっているのが、川平慈英。と書くと、この舞台を観た人は疑問に思うかもしれない。
 振付に全員がかかわったと言っても、中心になっているのは玉野和典と本間憲一の 2人だし、はっきり言って川平慈英のタップは細かい部分がやや怪しい。にもかかわらずだ。このショウの楽しさの源泉は、川平慈英のショウマンシップと視野の広さにあった。彼の、観客の気持ちと今という時代の空気をつかむ才能が、他のキャストを引っぱって、この舞台を広がりのあるものにした。]

 このご意見、私もその通りだと思います。と言うのも、
◎「シューズ・オン!」の3公演共に音楽監督を担当された崎久保吉啓氏は、慈英さんと本間さんのライブ・ユニット「トラブル・モンキーズ」にもキーボードとして参加されている。そのライブでの発言から、氏と慈英さんは10年近く前から親交があるらしい。
◎「シューズ・オン!」の制作が、川平さんがレギュラー出演している「ニュース・ステーション」の制作会社、オフィス・トゥー・ワン。川平さんの所属事務所でもある。
 ということから「主なスタッフに声をかけ集めたのは慈英さん」と想像でき、また最近の複数のインタビュー記事で「いいだしっぺは慈英さん」という主旨が書かれていることからも、この舞台を裏表で支えていた実質的なリーダーは慈英さんだと言いきっていいと思っています。

 その一番のキーパーソンである慈英さんが…

 ハッキリ言うと、ふざけすぎ。

 そしてこの慈英さんの姿勢が、この舞台の「持てる能力をフルに披露して観客を楽しませよう」とする方向性を微妙に狂わせてしまった…少なくとも、私の願っていた方向とはずれが生じてしまった、と感じました。

 「(真剣な)遊び」や「アドリブ」と「おふざけ」は全く違うんです。観る方にとっても。
 特にこの手のショーでは、真剣に舞台と戦い、遊び楽しんでいる演者を観て、そこで初めて観客(私)は楽しむことが出来るし、パワーをもらう事が出来る…そう思うんですよね。
 だからこそ、おふざけを見せられても少なくても私は楽しめないし、それは楽しむべきではないと思う。

 念の為書いときますが、慈英さんが全体を通して担当した「道化役」が悪いと言っているのではないです。むしろこのメンバーでは一番の適任者です。
 私が言いたいのは、フォーメーションの移動時とかメドレーで後ろに下がっている時とか等の彼(だけ)がスポットを浴びてない時に、要らぬオチャラケをするなって事。あれじゃ学校の教室で大人しくできない子と一緒で、悪目立ちにしかならない。目障りです。
 そうやってふざけてばかりだと、自身のパートでせっかく真面目に「道化役」をしても面白くも何とも感じられないです。そんなおふざけを見れば見るほど私の心は凍りつき、結局私は慈英さんで1度も笑えませんでした。

 慈英さんには、「ドキュメンタリー系バラエティ番組のレギュラーを持つようになって、今時の『つまらなくくだらない』テレビの世界に染まって、舞台人としての感性が狂ってきたんじゃないの?」と声を大にして言いたいです。
 それほど慈英さんには腹が立ったし失望させられました。

 「『持てる能力をフルに披露して観客を楽しませよう』とする方向性を微妙に狂わせてしまった」と感じた、その顕著な例が「パペッツ」のナンバー。
 まだ公演途中なので、内容について詳しい事は書きませんが…

 山手線ゲーム? 青汁? 
 何よそれ。ふざけんじゃねーよ!
 私はテレビのバラエティを見に行ったんじゃない。一流の芸人による、一流の芸が見れるダンスのショーを見に、高いチケット代を払って時間を作って劇場まで行ったんだよ。
 ゲームなんかやるな。ハプニングなんかで笑わせるな。こんなの素人だって出来るじゃん。
 そりゃさぁ可笑しいよ。らっきょの匂いが私の席まで漂ってきたよ。でもその可笑しさは「舞台の出来不出来」とは無縁のものじゃん。なんでそんなのを観させられなきゃいけないのよ。メチャクチャ腹立ったよ。
 金取ってるんだからさ、そんな小手先な事を舞台でやるなよ。客を笑わせるのなら一流の芸人らしく「芸」で笑わせてみろ。それが出来ないんなら、学芸会ででも出来るようなコントもどきなんか最初からやるんじゃねーよ。

 …と、あまりの怒りの為に語尾が荒くなっちゃいました(笑)
 大道芸を取り入れたりして「趣向を凝らして楽しませよう」とする努力はわかるんですけどね。ちょっと「楽しませる」の方向性が違うんじゃないんでしょうかねぇ、出演者の皆様。

 そもそも俳優座の初演では、「パペッツ」は藤浦さんのソロと他3人のコーラスで、実質藤浦さんの持ち場面だった。けれど博品館に来てからは4人のコントになっちゃって、ショー全体から藤浦さんのソロナンバーが無くなった。出演者の中でソロを受け持ってないのは藤浦さんだけなんだけど、それって他の男性陣が場面を奪っちゃった事になるんじゃないの?
 「藤浦さん、それでも満足してる?」
 答えてくれるわけは無いだろうけど、そんな質問を投げかけてみたい。

 自分の願っていた方向に進んでいないからって文句ばっかり書いちゃいました。
 曲の選び方とか、ダンスとか、表面的に見える事はみんな素敵なんだけど…その辺に文句を言っているのではなく、もっと根本的な事なんですよね。でもそれすらも見当違いな意見なのかも…と思うと、ほとんど愚痴ですよね、ここに書いた事。
 でもいいや。たまには愚痴愚痴しちゃっても。

 と言う事で、ここから先は愚痴街道まっしぐら!
 こういう構成にした理由とか経緯とかは十分に理解できるんだけど、それでもあえて愚痴らせて。

◎「タップ・ショウ」と銘打っている以上、チップを1度も鳴らさないナンバー、つまり歌だけのナンバーは極力減らして欲しい。もっとキツク言えば、タップ(最低でもダンス全般)で魅せることの出来ない人を出して欲しくない。
 何度も繰り返すけど、私は「一流の芸が見れるダンスのショー」を観に行ったんだから、強弱はあれど、最初から最後までタップで通して欲しかった。

◎女性陣揃ってのナンバーがコミカルなだけってのも物足りない。もっと色々な見せ方があったんじゃないの? それとも「コミカル」しか出来ない人がいたのか?
 いや、日本にはタップでソロを踊れるほど実力のある女性ダンサーが居ないって事の表れなんでしょうねぇ。と、ちょっとイヤミ。

◎私がインタビュー等を見掛けないだけかもしれないけど、本間さんにとってのアステアの如く、慈英さんにとってジーン・ケリーに強い思い入れがあったとは思えない。ただ、前々から慈英さんが「ケリー・タイプ」と言われているだけで。それだけでジーン・ケリーのナンバーを慈英さんがやったならば、それって安直な企画じゃない?
 「ファンが観たいと思っているものをやった」のか、「前回はアステアをやったんだから今回はケリーだ」なのか。そう言う考えはあって当然だし、そこら辺から来た流れなんでしょうけど、私的には安直過ぎてパスって感じ。
 それにケリーの特集で全編「雨に唄えば」なのも、メジャー過ぎちゃって、ちょっとねぇ。もう少し他の映画を絡める事は出来なかったのか。と言いつつ、ケリーには他の映画に舞台で出来るような有名なタップナンバーがあんまり無いんだから仕方ないか。

 え、2演の感想?
 3演とほぼ一緒ですよ。2演の時も「何か違うんじゃない?」って思うものが沢山ありました。ただ今回ほど、がっかりした「理由」が言語化できるほど自分の中で明確でなかったから感想を書かなかっただけで。
 3演を観て、やっと『「レ・ミゼラブル」のセルフコピーはパンダのみを目当てで来た客向けの、媚とも言えるようなファンサービスだったのね』と自信を持って言えるようになりました。

 気の合う仲間内で仕事をするのはさぞ楽しいでしょう。
 でも舞台を作るなら…原作物や翻訳物などの出来あがっているものではなく、一から自分達で企画し構成する「オリジナル」のものを作るのならば、自分達のやりたい事だけを優先させず、ネタの真贋を見極めてから板にのせて欲しい。そして、その目を養って欲しい。
 そうじゃなければ、いつまでたってもブロードウェイで通用するようなオリジナル作品なんて作れないし、「ブロードウェイ風」にもなれやしない。

 …そう願う事も、私の思い違いなのでしょうか?

DATA
CAST
 川平慈英、本間憲一、北村岳子、麻生かほ里、シルビア・グラブ、藤浦功一、玉野和紀
MUSICIANS
 COND/PIANO:大山泰輝  KEYBOARDS:大山泰輝  GUITAR:横田明紀男
 BASS:えがわとぶを  DRUMES:稲垣貴庸

STAFF
 構成・演出:福田陽一郎  音楽監督:崎久保吉啓
 振付:玉野和典、本間憲一  訳詞:福田美環子 
 美術:谷垣育子  照明:八木優和  音響:山中洋一 
 衣装:小峰リリー  ヘアメイク:角田和子  舞台監督:二瓶剛雄

 マジック指導:駒田はじめ

 協力:コスメティック・アイーダ
 制作:樋口正太、北村美代子/弓田宗孝、吉藤幸雄、神近公孝
 後援:TBSラジオ  製作:博品館劇場、(株)オフィス・トゥー・ワン

2001,1,20 ヒル13:00~15:00頃

初出:2001年1月25日


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