雑感【2019-2020 年末年始の番組から】

 大晦日のBS日テレ『第3回ももいろ歌合戦』。過去2回はダイジェストか何かで見ており、きちんと通しで見たのは初めてだった。一部おふざけな演出もあったものの、殆どがフルコーラスで1曲を聴かせてくれる構成で好感が持てた。画面もシンプルで逆に往年の本家紅白歌合戦を彷彿とさせてくれた。
 個人的に白眉だったのは妃海風のディズニープリンセスメドレー。「これが恋かしら」も「夢はひそかに」も妃海が宝塚のトップ娘役時代の星組公演『Love&Dream』で歌った曲だ。妃海は『ももいろ歌合戦』でも娘役出身ならではのプリンセス芸を披露してくれた。

 妃海に花を添えた4人のダンサーが花柳糸之社中だったのには驚いた。ドレスでの洋舞だったので、和物ダンサーの代名詞のような存在の花柳糸之社中が担当するなんて私の子供時代には考えられないことだった。
 しかし、番組が進むと私はもう一度花柳糸之社中で驚かされる。水前寺清子の「いっぽんどっこの唄」での花柳糸之社中は、矢柄の着物と袴という所謂はいからさんスタイルなのにダンスは完全な洋舞だった。

 曲に踊りが全く合ってない。
 そもそも水前寺は身振りを入れながら歌う。そういう歌手の時は尚更バックが動きすぎると歌手の邪魔になる。それなのにこのダンサー達はクルクル回りピョンピョン跳ねる。見苦しい。
 「いっぽんどっこの唄」は威勢がいいがジャンルとしてはド演歌だ。曲としても古い。こういう曲だからこそ、往年の花柳糸之社中よろしく造花を持ってチントンシャンと舞っていたほうが良かったのではないか。なのに大きく足を上げてステップを踏み、グリコのように両手を真っ直ぐ伸し挙げて万歳ポーズを取ったりと、ちょっと元気すぎる。日舞ならばもっと腰を落としてゆっくり回るはずだし、万歳ポーズなんて有り得ない。せっかくの袴姿でも手足をピンと伸ばしているのは格好悪いし、ここまで洋舞だと袴である必然性さえわからない。
 クレジットが無かったが、こんな振付をつけたのはきっと花柳糸之本人ではなく(そう信じたい)弟子の誰かなのだと思う(思いたい)。

 この状況はもしかしたら職業としての日舞の踊り手や振付家が少なくなっているのではないのだろうか。日本でダンサーといえばバレエだったりジャズだったり。近年ではヒップホップダンサーも増えてきた。しかし日舞的な踊り手は活躍の場があるのだろうか。日本のショービズ界でダンサーが日舞を出来ないとなると、結構大きな文化的損失ではないのだろうか。日舞を習うのは金銭的にもハードルが高く、本式の日舞の経験をするのは大変だろう。また本式を習えば習うほど糸之社中のようなバックダンスを職業とするのは厳しいかもしれない。しかし日舞を知る振付家と、盆踊りレベルの真似事でもいいから少しでも日舞の雰囲気を出せるダンサーが増えたら……

 そんな事を考えながら元旦のテレビ埼玉『第29回埼玉政財界人チャリティ歌謡祭』を見た。『ももいろ歌合戦』で日舞のことが頭に引っかかっていたので、こちらでも日舞的な出し物、小鹿野町の森真太郎町長による「夢芝居」に目が行った。小鹿野町は歌舞伎の町ということで、森町長はフルメイクの石川五右衛門姿で熱唱。町役場職員の女性2人が男女に扮して花を添えた。ただ、やっぱり日舞がもどきレベルでも踊れていない。腰も入ってないし腕も伸びきっている。とは言えここは素人のど自慢大会。いくらなんでも借り出されただけの町役場職員のお嬢さんに文句を言っても仕方ない。

 数日後、録画しておいた『第70回NHK紅白歌合戦』を見ると、丘みどりの「紙の鶴」の後ろで花柳糸之社中がKis-My-Ft2と一緒に踊っていた。こちらには振付・花柳糸之のクレジットが出ていた。内容も、これぞ花柳糸之社中、と言っていい。白い着物姿に薄衣を持ち、歌のテーマである折鶴をイメージして両手をはためかせながら静かに舞う糸之社中。袴姿のKis-My-Ft2の面々も、普段の彼らからしたら簡単すぎる振付だが出しゃばりすぎずに彩りを添えバックダンスの責務を全うしていた。歌謡ショウとしても、MISIAの「アイノカタチメドレー」と双璧で素晴らしかった。

 そういえば。
 ご存じ『NHK紅白歌合戦』は大晦日の生放送。会場は勿論NHKホール。
 そして『ももいろ歌合戦』も、大晦日の横浜アリーナからの生放送。
 ということは、花柳糸之社中という団体としては同じ時間帯に2イベントの掛け持ちだったということになる。

 ここからは推測の話になる。現在の花柳糸之社中には2会場に分かれて出演出来るほどの座員がいないのでここは伝統あるNHKに全力を注ぎ、チータには悪いが横浜のイベントには糸之社中という名前だけ使ってジャズダンス系のダンスチームに外注したのではないのだろうか。そう考えると妃海の時のドレス姿の洋舞に違和感がないのが当然の結果だと言い切れる。そして着物の裾捌きは難しいのでその対策と妥協案としての袴姿だと考えれば納得がいく。
 しかしながら、仮にそうであったとしても「いっぽんどっこの唄」の踊りはいただけない。バックダンスは文字通り後ろで踊るもので、その曲の世界観を作り出し歌手を際立たせるものだ。しかし「いっぽんどっこの唄」のダンスは元気すぎていて、元来元気な水前寺を霞ませているきらいがある。構成面に限っていえば、まだ小鹿野町の町役場職員のお嬢さん達の方がマシだ。クレジットの無いこの振付家はもう少し歌謡ショウを勉強し反省してほしい。

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