上海夜鶯ミュージカル『熱烈桑港的唐人街~夜鶯大飯店』2003年11月 赤坂グラフィティ

 10月に観た「エノケン生誕100年祭」の第4部に出てきた上海夜鶯(シャンハイ・イエイン)は、チャン・チンホイ(MC、京劇)、ジュディ・フゥ(女性歌手)、アン・ポンチン(二胡、アコーディオン等の伴奏)の3人組。名前は中国読みだし経歴も中国出身っぽいことが書いてあるが、実は全部がフェイク。わざわざ上に書いたジョディの「女性」というのもフェイク。一昔前のあからさまなインチキ中国人という風貌やそのフェイクから来る胡散臭さと確かな実力とのギャップが面白かった。
 調べると直後に赤坂で単独ライブをやるというので足を運んでみた。

 結論から言うと、3人の舞台へのスタンスの違いが如実に現れ、最後には空中分解してしまった舞台だった。
「エノケン生誕100年祭」の時は、アン・ポンチンは伴奏に徹して台詞を一言も喋らなかった。それが、この時の好印象の理由だったようだ。

 赤坂グラフィティはテーブル席で飲食しながら楽しめるタイプのライブハウスで、ステージとの距離も近い。
 ライブのタイトルは「上海夜鶯ミュージカル」。「エノケンもあるよ」とポスターに謳っていたが、一応は歌がメインで、歌入りコントというか、寸劇入りライブというか。それを聴かせるために物語仕立てにしている、といった構成。なので話は緩い。

 確かに歌は悪くない。歌手を名乗るジュディ・フゥは当然のこと、チャン・チンホイも喜劇役者らしい役者歌でかなり聴かせてくれる。しかし最初の10数分はネタがすべりっぱなしで場が盛り上がらない。
 ただ、これは構成の問題ではない。

 チャン・チンホイとジュディ・フゥの2人は演劇的基盤をそれぞれ持っていて、舞台の上でもキャラクターを演じていた。それに対し、アン・ポンチンは演奏という受持ちパート故か、板の上から客席の知人に挨拶を送っていたりと、板の上では基本的に素。「ちまき屋台の店主」というキャラを演じていても、それ以外は全くの素。
 もっと積極的に芝居芝居すればいいものを、演劇的に流してしまった状態だから芝居が全く盛り上がらない。
 歌っても、アン・ポンチンの「コモエスタ赤坂」は、「あまりの色気」に盛り上がるのではなく、「素で迫ってくる迫力ない迫力」に、私はつい苦笑してうつむいてしまった。

 自分の席がステージに近かったこともあり、チャン・チンホイは我が道を行くアン・ポンチンに対して次第に苛立ち、ジュディ・フゥは2人の対立に我関せずというスタンスまでが伝わってきて、期待しての観劇だっただけにとても辛かった。

 このユニットがこのスタイルを貫いていくのならば、アン・ポンチンは演奏に徹して一歩引くか、或いはもっと舞台上での姿勢や演技の勉強をきっちりやって、2人に合わせて「演じること」に徹しないと。このままじゃせっかくの面白いスタイルが勿体無さすぎる。

 小ネタはそこそこ面白いのだし、演技力をつけたら、あとはストーリーが飛び飛びになるような印象を与えないように舞台構成を組めば文句ないのだが。

 それから「エノケンもあるよ」は誇大広告なのではないか。エノケンというか、先日の「エノケン生誕100年祭」で柳沢愼一が披露した「エノケン芸」のコピーだし。チャン・チンホイの引用した姿勢がパクリなのか指導して戴いたのかがよく判らないので、一概にそれが悪いとは言えないが。

CAST
張 清恵(チャン・チンホイ)
【本名】金川 諒(かながわ りょう)
胡 麗華(ジュディ・フゥ)
【本名】齋藤 裕(さいとう ひろし)
安 鵬琴(アン・ポンチン)
【本名】安西 創(あんざい はじめ)

2003.11.20

初出:2003年11月23日を大幅改訂

 その後上海夜鶯は2004年4月末を持って活動停止。現在3人は、チャン・チンホイはチャン・チンホイ名義のまま、他の2人は本名で、それぞれ活動を続けている。


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