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ダウ90000という新しい世代の台頭

2022年7月10日に行われた第43回『ABCお笑いグランプリ』。
そこで僕は新しい世代の台頭を目にすることとなった。

『ABCお笑いグランプリ』とは若手の登竜門として知られるお笑いコンテストであり、関西ではそこそこ名の知れた大会である。
お笑い異種格闘技戦をコンセプトで、漫才、コント、ピン芸、モノマネ、歌ネタなどすべてのお笑いジャンルを網羅しており、芸歴10年以内の若手お笑い芸人がしのぎを削る。
登竜門といわれるだけあって過去の優勝者には「かまいたち」や「霜降り明星」、「オズワルド」など今を時めく芸人たちが名を連ねている。

大会の説明はこのくらいにして、そろそろダウ90000の話に入ろう。
この大会で出場者12組中7番目で彼らはネタを披露した。
ネタ披露前に紹介VTRが流されるのだが、
ファーストインプレッションは大学のお笑いサークルの連中が、大学生お得意のノリと内輪ネタを引っさげてやってきたという印象を受けた。審査員も目新しさと話題性のみで面白がって通したのかなーと思ったりして、全くもって期待できなかった。この期待が後に覆されることになるのは、言うまでもない。

彼らの披露したネタは『独白』。(ネタ名は視聴者には伏せられている)
このコントは女子大生が同じ大学に通う男の子とデートの待ち合わせをする場面からスタートする。この女子大生役の一人語りからコントは始まり、20秒程一人で喋るシーンが続いたため、高校生の頃文化祭で見た劇を思い出した。喋り方もどことなくコントというよりは劇に近い印象をまず受けた。

その後男の子との会話の掛け合い、その後女の子の一人語りと、
このラリーが何回か続く。一人語りを遮るような形で男の子が喋りかけてくるため、これが何らかの伏線になってくるのだろうなぁという考えが無意識下に植えつけられる。もちろん見ている最中は分析脳を使っていないため、伏線がどうとかフリだとかは何もよぎってはいない。
序盤で気になったのは一人語りの女の子がいうセリフの「独白明けの判定が厳しい」。このセリフがこのネタの肝となる部分なのだが、この「独白」という言葉が僕が無知なのか、ニュアンスでしか理解できなかった。文字で見れば秒で理解できるが、演技経験のない人や業界・舞台関係者以外でこの言葉を瞬時に理解できた人が果てしていたのだろうか。「どくしゅう」と音声だけで聞いて「独習」と理解するような、そんな感覚に近い。個人的にはあまり一般的ではないと思う。女の子の一人語りが「独白」というものなんだろうなということをここで何となく理解した。

最初の1分ぐらいはこの2人しか出てこなかった。ここで感じていたのはこの2人がこのコントにおけるメインの登場人物なんだろうなぁーということ。
まだ触れていなかったがダウ90000は裏方を除くと全部で8人である。この情報を紹介VTRで知っていたため、この後どうやって使っていくのか、全員は出てこないパターンもあるんじゃないかと気になっていた。

一番最初の笑いどころは男の子の元バイト先の先輩に出くわすシーン。3人目の登場である。ネタバレを避けるため詳しくは書かないが、ようやく笑いを取りにいっている箇所が見つかり、僕も普通に笑えた。僕の性格上、笑いを取りに行こうとしてるなという意図が見える部分で笑えなかったら急速に興味を失ってしまうため、ここで笑えたのは大きい。笑えてなかったらこの記事も書いていないだろう。今考えると、ここからダウ90000のコントの世界に引き込まれていった気がする。

次の印象的なシーンはメインの女の子とバイト先の先輩の「独白」が同時に起こるシーン。20年近くお笑いを見てきたが、初めて見るスタイルだった。同時に喋ること自体はそれほど珍しいことではないが、露骨なボケではなくストーリーの中に組み込ませ、二人のセリフがしっかり意味のある内容になっているという点が新しく感じた要因なのかもしれない。ここでの二人の被せセリフはどっちも聞いているようで、どっちもちゃんと聞いてないような感じだった。初見で両方の音声を処理するのは無理だわ。ただシチュエーションと二人のところどころに入ってくるセリフで不満や文句を言っているのは明らかだった。どちらのセリフもちゃんと聞き取れなくても問題なし。この辺りは計算ずくなのだろう。この辺りから脚本の腕とセンスが垣間見えてくる。(それを伝える演者の技量がすごいことも、今書いてて分かった)

次なるシーンはバイト先の先輩と別れ、大学の友達4人と出くわすシーン。
ここに関してはキャスト全員を使うために若干人員を盛り込んできたなという印象を見ている時には受けた。ここでは5人の独白が同時に発生する。その後バイト先の先輩が戻ってきて、6人の独白が同時発生。その後8人目の上京ガールが乱入してきたところで、初めて舞台上に8人全員が登場した。
バイト先の先輩を一回ハケさせてたので、サブの登場人物が流れていく構成なのかと思いきや、見事に裏切られた。見てる側の想定を裏切ろうとしたのか、バイト先の先輩のフリとして使おうとしてそういった流れになったのかは分からない。だがこの終盤の盛り上がっていく感じは理想の形だと思うし、何より「独白」が被ることがボケの一部となっている以上、被る人数が多ければ多いほど破壊力が出るのは間違いない。となるとやはり脚本はやはり意図的に8人全員を登場させたのだろう。何かいろいろ考えて書いていたら頭がこんがらがってきた。馬鹿が頭を使うとこうなる。考察はこの辺でやめておこう。とにかく8人の登場は上手くいった。結局素人が言いたいのはそれだけなのである。

ここまでウダウダ書いてきたが、ようやく最後のシーン。
サブの登場人物が全員退場し、メインの二人になったシーンである。
ここでも一応ネタバレは避けるため、具体的な内容は書かないことにする。一体誰に向けて書いているんだろうな、僕は。とりあえずこのシーンでも一ひねりがある。小説でいう叙述トリックに近いのかもしれない。前のシーンで8人全員が登場したが、8人全員の「独白」は起きていない。自分が脚本家なら起こしたくなるのだが、これはやはり素人の発想。起きない理由が最後には分かる。

ダウ90000のABCお笑いグランプリの結果は決勝一次ラウンド敗退。一次ラウンドは4組中最も面白かった1組が勝ち上がるので、たとえめちゃくちゃウケても相手次第では上がれないことはある。このブロックの他の決勝進出者もかなり面白かったので、この結果は妥当だと思う。何よりダウ90000のコントは面白いというより見ていて楽しいという部分の方が強かった。こう思わせるのがダウ90000のコントが演劇に近いと言われる所以なのではないか。個人的にはコントだろうが演劇だろうがどちらでもよく、見ている間いい時間を過ごせたと感じることができれば、それだけで満足なのである。確かに賞レースという枠組みにおいてダウ90000のコントスタイルは不利かもしれない。だがそれでも彼らの持つ才能は隠しきれない。平均年齢23歳の男女8人組という目新しさ。練りに練られた脚本。その脚本を再現可能にしている個々の演技力の高さ。話題性・実力・ネタのクオリティと3拍子揃っており、今後の活躍が楽しみというよりは必至だと言わざるえない。

最後にまとめると、ダウ90000は全く新しい道を進もうとしている。お笑いの世界では中堅の芸人の層が厚く、新しい芽が出ても一時的な露出で終わってしまうことが少なくない。だがダウ90000はその厚い層の横をするりとすり抜けて、全く違う場所から芽を出そうとしている。もちろん確かな実力を兼ね備えながらである。戦略としては非常に良い。きっと優れた軍師がいるのだろう。僕はこの大会で新しい世代が台頭してくるのを目の当たりにした。彼らに感化されたさらに若い世代が彼らの後に続いてくれれば、日本経済はともかく日本のお笑い界はまだまだ捨てたもんじゃないなと思う次第である。


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