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最終日の夜、ラブホテルで

2020/3/23

「好きって言ってもいいかな」と光の入らない部屋で彼が言った。わたしは頷きながら、この人は思ってもない言葉を簡単に言ってしまえる人なんだ、と思った。まだみんな外で飲んでいるとlineが来て、わたしはそれに合流しようかなと考えて天井を見つめた。

もう外に出るね、というと彼は可愛くいやだーと言って引き止め、わたしに興味なんてないはずなのに、深く誰にも言えないような自分を形作った経験を聞きたがった。

わたしには、人間関係に線引きをしてしまう癖がある。心を開く人と開かない人を線引きしてしまう癖がある。心を開ける人かどうかはいつも大体直感で、心を開いてしまうと犬のように甘えてしまう。普段は大事に大事に奥にしまいこんである自分の核となる考えや過去の経験を話すのと引き換えに、弱くて脆い自分になってしまうのだ。

わたしは彼に心を許していなかった。だから、たとえ恋愛関係でも甘えは許さないという彼に、話した結果もろくなった自分を見せて拒否されるのがいやだった。「お互いだんだん甘えるようになってしまうから付き合うのはいやだ、戦友のような仲で居たい」と彼は言い、それって都合のいい関係じゃん、それならこんな話するべきじゃなかった、と色々話して弱くなったわたしはそれを悟られないように心の蓋をさらにきつく閉じた。

わたしの今までの恋愛では、甘え甘えられ、お互いの弱さを受け入れて、唯一無二の存在になっていくというスタイルだった。普段はまともなのに、わたしにだけすぐ暴力を振るう弱い人にもきちんと向き合った。彼がわたしに暴力できるのは心を許してくれる証拠だと思ったし、彼の弱さに向き合えるのはわたししか居ないと本気で思っていた。しかし、命の危険を感じた瞬間、わたしは向き合うのをすっぱり諦めてしまった。

そんなわたしと、甘えを許さないわたしにとっては冷たくも思える不思議な彼の人間関係が始まった。



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