洗濯くん その4 とても遠くから来たもの

夕方、もしくは朝日が登ったばかりの朝か。

これは、壊れているのか。
誰のものか。
どこからきたのか。
何をするためのものなのか。
道具なのか。
芸術品なのか。
体に装着するのか。
見るものなのか。
乗るものなのか。
これだけで完成品なのか。
これはどこからか欠けた一部なのか。
何か出てくるのか。
何かからでてきたのか。
美味そうではない。

その体裁をみて、洗濯くんは足を止めずにはいられなかった。

これが、ここに、落ちている。
ということに気がついたのは、僕が一番最初なのだろうか。
いつからここに落ちているのか。
少しだけ、何もない時間が流れた。風。
その後洗濯くんはしゃがみ込んでその物体を観察した。

洗濯くんにとってそれは、これまで見てきたどれと関連付けようとしても、到底紐づけられるものではなかったし、そこにあるものが今、正しく設置されているのか、ひっくり返っているのか、右を向いているのか左を向いているのかすらわからなかった。ただとても歪で、奇妙な魅力をこちらに発して想像を掻き立てることをやめなかった。
洗濯くんは道の真ん中で、さっきこれを見つけた時から胸がキュルキュルと締め付けられる、少し切ないような思いを感じていた。
訳もなく感情は体内に湧き上がってくる。何がそうさせるのかわからない。
その物体の奇妙な色使いだろうか。

触ってみようとする。
洗濯くんは手を伸ばす。
なんてことはない、いつもなら容易に拾い上げてしまう落とし物のひとつであるのに、今回は容易にそれに触れてはならない警戒心が募った。
もう二度と、この道を歩くことができなくなるかもしれない。
そんなことを洗濯くんは感じていた。それだったら、僕はまだ、この道もその先にある野菜の販売所にも行きたいのでこれを触るのはよしておこうかとするも、しかしここでこれと決別してしまったらきっとすぐに誰か別の人がここにやってきて、この物体を欲しいと思って容易に拾い上げることもさもありなん当然のことと思われなくもないので、その人がその後、この物体とともに朝に夕に日々の生活を送っていくというのなら、僕にだってそれくらいの能力はあるのだろうから、ここは僕が、その日々を送らせていただきたい。と洗濯くんは思う。

洗濯くんは尻餅をついた。
山から一斉に鳥の群れが飛び立った。
洗濯くんは目を見開いた。
その物体はゆっくりと背を伸ばして、やがて洗濯くんよりも少し背の高い、黄緑色の女の子になったのだ。
彼女の名はジュモンというらしい。

ジュモンは洗濯くんに優しく微笑みかけた。

洗濯くんは冷静を装った。

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