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エイリアンが描かれた服を着る彼女を愛せるか否か〜小説『天才少女は重力場で踊る(著:緒乃ワサビ)』雑感

僕が本を買うには幾つか条件がある。今回手にした『天才少女は重力場で踊る』(著:緒乃ワサビ)の場合、作品紹介(それと帯)の売り文句とカバーイラストの組み合わせがその条件に合致した。

「わたしとあなたが恋をしないと、世界は終わる」

「天才×美少女×タイムパラドックス×暴走する量子=世界を揺るがす青春小説!」

この二つのフレーズを読み、カバーイラストに描かれた美少女と見切れたモアイ像らしきもの?を見た瞬間、買わないという選択肢は僕の中から永遠に失われたのだった。

ということで、まずは作品紹介から。

卒業単位欲しさに訪れた研究室で俺を迎えたのは、異様に不機嫌な少女だった。彼女は17歳にして教授だという。もう一人の老教授に宥(なだ)められ、案内された先にあったのは、未来と交信するリングレーザー通信機。うっかり未来を観測した俺は、自分と世界の存在を不安定にしてしまう。助かる方法はただ一つ!天才×美少女×タイムパラドックス×暴走する量子=世界を揺るがす青春小説!

SF濃度が高そうな雰囲気は読むと一変。主人公とヒロインの関係を丁寧に描いた恋物語、いわゆるボーイミーツガールもので、かなり読みやすい。SF要素のさじ加減は、STEINS;GATEが楽しめる方なら問題ない程度の調整具合。

そんな本作で僕が気に入ったのは、「機密保持契約書は指切りげんまんの上位互換」「セレンディピティは人工知能の未踏の領域」といった気の利いた言葉の選択や、店で出されたコーヒーの不味さを語るような何気ない会話での台詞の使い方。物語の濃度を下げずに読みやすいのは、このあたりが要因かと。

それからヒロインがエイリアンの造形好き過ぎなところはポイント高い(笑)。しかも、リドリー・スコットへの愛もなしに。この点だけでもキャラが立ってる。ちなみに、僕ならそんなヒロインを好きになれるかどうかは自信ない。でも、恋をしないと世界が終わる。なんて理不尽な。

エイリアンといえば、トラウマ級の想い出が。確か小学生の頃、金曜ロードショーか何かが初見。

まず、襲われたら確定した死を覚悟しそうな不気味な造形、体内に幼体を産みつけ、成長すると腹を食い破るおぞましい設定。造形は確かに良いし、カッコよさも理解できる。でも、その存在の全てがトラウマに成りかねない恐怖感が上回る。

そんなエイリアンが、人の腹を食い破って出てくるシーンをもろに観てしまった。気持ち悪いし恐怖だし、もう夜に一人でトイレなんて行けるわけがない。完膚なきまでにトラウマを産みつけられた。おそらく僕のなかで、今でも過去一で怖い映画。

なので、そんなエイリアン好きでイラストが描かれたシャツまで着る女の子を好きになるには、なかなかハードルが高そうだと思わずにはいられない。まあ世界の終わりと天秤にかけるほどではないのだけど。

ちなみにエイリアンシャツが恋路のハードルになるのか否かといえば、エイリアンの残虐性とか、成体が人の腹を破って産まれる故の人間的な母性の否定とか、僕はそういったトラウマの元になったであろう要素は確かに気になる。

しかし一方、彼女はそんなキャラの背景なんて興味は無いし、そもそも映画自体を知らない。単純にデザインが好みというだけのこと。

つまりシャツを見て僕が感じたことは、彼女の本質には何ら関係がないわけで。視点のズレから生じた誤解。つまり、偏見ってやつ。

ということで、結論としてエイリアンシャツを着る彼女は"あり"。

さて。話を本作に戻して。作者様があとがきに書いていたように、「軽い気持ちで読めて、色んなものが丸く収まって、明るい作品」です。設定を深掘りしてあれこれ考えるというより、SF的な設定や仕掛けをスパイスにして気軽に楽しめる恋愛小説というのが僕の感想。そんなライトな小説としては、まじで良作。

なので作者様の次作は要チェック。
緒乃ワサビ様、名前憶えました。

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