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冷たくなった彼 fin

友達が大学に来ない。連絡もつかない。

一人暮らしだし、もしかしたら風邪で臥せっているのかもしれない。

心配だ。今日、家を訪ねてみようか。
急に行って迷惑じゃないだろうか。

彼は大学に入ってから初めて出来た友達だ。
親しい、とは思う。
急に訪ねても迷惑では無い間柄だ、とも。

けれど、人懐っこくて人気者の彼だから、わざわざ俺が家を訪ねなくとも、誰かが様子を見に行っているだろうとも思う…。けど…。

…まぁ、少しだけ顔を出してみて、心配なさそうならすぐに帰ればいいか。
家に呼んでくれた事もあるし、また遊びに行く約束もしていたし。

うだうだ考えてしまったが、連絡を入れて行ってみよう。


彼のマンションに着くと、スーツケースを引いた女性とすれ違った。

あ、お隣さんだ。
彼の家にお邪魔した時、バッタリ会って、俺も挨拶したことがある。
これから旅行だろうか。まぁ関係ないのだが。

さて、部屋の前に着いた。
チャイムを鳴らすが、返事はない。
人の気配も無い気がする。
実家にでも帰っているのだろうか?

…そうだとしたら、連絡をくれるように思うが、この拭えない違和感はなんだろう。
…まぁ介入しすぎるのは良くないよな。

帰ろうと踵を返すと、ガスメーターが目に入る。

そういえば、一度鍵を無くしてから、ここに鍵を入れておくことにしたと言っていたな。
不用心だ、と注意したことを思い返しながらメーターボックスを開いてみた。

中に鍵が入っている。
ゾッとした。

ここに鍵があるということは、彼は中に居るということだ。

…じゃぁ何で出てこないんだ?

心拍数が跳ね上がり、もう一度チャイムを鳴らした。
扉も何度も叩いた。

俺は痺れを切らせて、鍵を手に取り鍵穴へと差し込む。取り越し苦労である事を祈りながら、部屋の中へと進んでいった。

そして、リビングの扉を開くと、そこには

冷たくなった彼が居た。

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