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追憶の向日葵〜Close To You〜

貴君、恋をしたことはありますか。
そう、身を焦がすような恋───。

小生はいま或る女性に ” 恋 ” をしている。


どんなに言葉を連ねようと、貴君のような若者に小生の胸の内は伝わらないであろう。
ありきたりな日常は突如プリズムの如く輝き、
そして深煎り珈琲のようにほろ苦く───。
嗚呼、彼女が小生の心を掴んで離さないのである。


彼女(小生は"さゆり君″と呼んでいる)との出会いについて少々。

さゆり君が働く理髪店を偶然訪ねたのが事の始まりであった。
すらりとした長身、愛想が良く薄化粧で、
なかなか悪くない印象を持ったことを覚えている。

髪を切ってもらう最中、或ることに気付き小生は困惑した。
小生と話す彼女があまりにも嬉しそうなのだ
(その表情は満開の向日葵を連想させた)。

長年生きていると、どうしてもこういった勘が鋭くなってしまう。
小生は確信した。
さゆり君が放つ輝きは間違いなく、恋に落ちた女性のそれであった​───。


貴君、決してからかわないで欲しい。
女性から好意を向けられるのは実を云うと初めてではない。

どういう訳か、小生は夜の街で言い寄られることが非常に多いのだ。
先日付き合いで入ったスナックでのこと。
祖母からよく「郷ひろみに似ている」と云われた話を披露しメガネを外してやると、そっくり!と皆大喜びし大層沸いた。
帰り際になると、きっとまた来てねとしつこくせがまれ(複数の女性に)辟易としたものだ。

また先日、駅前通りを歩いている時など、
「祈らせて下さい」と突然見知らぬ女性に声を掛けられ…
おっと申し訳ない、話が逸れてしまった。


小生が決定的だと感じた出来事を、貴君だけに話そうか。

さゆり君は手際よく小生のモミアゲを刈り上げながら、こう問うたのである。

『お休みの日は何をされて居るんです?』

貴君、考えてもみて欲しい。
好きでも無い人間に、このような質問をする者が有るか。
いや、無いだろう。
理髪師と客の関係を軽々越えた問いかけに、
少々たじろいたのが実際のところである。
今時のお嬢さん方はこうも大胆なのであろうか。
この時小生の心臓が "ドクン" と音を立てるのを確かに感じたのだ
(不整脈ですか、なんて野暮な冗談は無しだゼ)。

向日葵の花言葉は「あなただけを見つめる」

帰り際、さゆり君が
「また来てくださいね」などと云うものだから
小生は仕方なく、翌週も、またその翌週も
彼女の理髪店に足を運ぶ羽目になる。

さゆり君は小生が来店するたび嬉しそうに白い歯を見せ、テキパキと鋏を動かす。
小生の頭髪は伸びるより早く短くなる。
終いに、もう切るところが無いですョなんて笑うものだからつられて小生も笑う。

とうとう五厘刈りになった小生は
青光りする頭を撫でながら翌週にヘッドスパなるものを予約した。
その次の週はシェイビングである。
帰り道、最寄りのスーパーで早く髪が伸びると云うワカメを買い求めた。


小生は日頃より知的な会話を心掛けており、さゆり君はその辺りを魅力に感じているのではないかと推察する。
いつも愛読誌(『dancyu』『サライ』等)で新しい情報を収集し、さゆり君にその話を聞かせてやるが、多少難しい話題にも「すごいですね」と興味を示し耳を傾ける地頭の良さには感服する。

先日はさゆり君が、最近繰り返し聴いていると云う楽曲
『友だちの好きな人』の話を聞かせてくれた。
小生もシーデイーを買い求め毎日聴いているが、
流石さゆり君は、音楽の趣味もなかなかのものである。
青春時代を思い出す瑞々しい歌詞と、初々しい歌唱が強く胸を打つ。

この楽曲は一体、どのような意図、背景を以て
作られたのか詳しく調べて来週さゆり君に話して聞かせてやろうと思い立った。

小生は老眼鏡を取り出し、スマアトフオンを開く。
何々『5点ラジオ』…?

(これを境に小生の人生は予期せぬ方向に転がり始めるのだが、その話はまた別の機会に​──。)


#小生おじさん選手権
#ゲイと女の5点ラジオ
#5点ラジオ
#小生おじさん

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