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波ノオト(1)残すことについて

私のnoteのテーマの一つ、残すことについて少し書いておきたい
なぜか?
失われてしまうから。そして忘れるために。


1.残す

残す。残すとは何か。

「残す」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書

[動サ五(四)

あとにとどめておく。残るようにする。「放課後まで生徒を—・す」「メモを—・して帰る
もとのままにしておく。「昔の面影を—・す」「武蔵野の自然を—・す地区
全体のうちの一部などに手をつけないでおく。「食べきれずに—・す」「電車賃だけは—・す」
消さないそのままにしておく。「証拠を—・す」「誤解を—・す」
後世伝える。死後とどめる。「偉大な足跡を—・す」「名を—・す」
ためこむ。「小金(こがね)を—・す」
相撲で相手攻めに対して踏みこらえる。「土俵際で—・す」

デジタル大辞泉(小学館)

辞書によるといくつかの意味がある。
「後にとどめておくこと」や、「もとのままにしておく」「痕跡をのこす」など。
もう少し調べてみると
残すという言葉の語源は見つからなかったが、古語辞典ではこのような意味がある。

のこるの意味 - 古文辞書 - Weblio古語辞典

のこ・る 【残る】
自動詞ラ行四段活用

①残る。
出典万葉集 八四九
「のこりたる雪にまじれる梅の花」
[訳] 残っている雪にまざって(咲いて)いる梅の花よ。

②生き残る。死におくれる。
出典源氏物語 東屋
「我一人のこりて、知り語らはむもいとつつましく」
[訳] 私一人が生き残って、相談相手になったりしても、たいそう気がひけて。

③後世に伝わる。
出典源氏物語 若菜下
「古(いにし)への心ののこりてこそ」
[訳] かつて昔の(生前の)愛憎の心が今も消えずに残って。

④〔打消の語を伴って〕もれる。ぬける。
出典源氏物語 夕顔
「案内(あない)ものこる所なく」
[訳] (その家の)事情ももれる所なく。

学研全訳古語辞典

残すという言葉は古語では検索しても見つからない。
でてくるのは「残る」という自動詞。そのものが「残る」という使われ方しかなかったようで、残すは新しい言葉と考えられる。他動詞で残すというような意味合いで使われているのは「とどむ」という言葉があるようだ。

とどむの意味 - 古文辞書 - Weblio古語辞典

とど・む 【止む・留む・停む】
[二]他動詞マ行下二段活用

③あとに残す。
出典源氏物語 桐壺
「御子(みこ)をばとどめ奉りて、忍びてぞ出(い)で給(たま)ふ」
[訳] 御子を宮中にお残し申し上げて、こっそりお出掛けになる。

学研全訳古語辞典

現代でも「形をとどめて」というような言葉も使われることがある。

残るの使われ方からは、「のこりたる雪」「我一人のこりて」とあって消えると思っていたものが消えていなかった=残るという使われ方をしていると考えられる。現代語の用法、「面影を残す」「食べきれずに残す」も、そこに無いと思っていたものが有ったという意味で使われている。
証拠を残すや名を残すは少し発展的な使われ方で、もともと無かったものが有ったというニュアンスが感じられる。
0だと思っていたら1だったということ。0≠1

ちなみに無かったものが無いことは人には認識できないが、
「水が残ってた!」などは非常事態になって初めて気が付く。つまり意識を向けないと気が付かないものもある。

2.leave

さて、ここでちょっと英語で残すという言葉を調べてみる。そうするとleaveという単語が出てくる。

「残す」の英語・英語例文・英語表現 - Weblio和英辞書

のこす 残す

1〈(人・物を)後にらせる〉leave (behind)

放課後残される
be kept after school
後に残された家族
the bereaved family.

2〈しないでおく〉leave something undone

仕事を残しておく
leave one's work unfinished [half‐done]
leave the job over 《till the next week》.

3〈節約してsave予備に〉set aside; reserve

金を残す
〈貯蓄する〉 save money
産を成すmake [amass] a fortune; 《口語make one's [a] pile

1 残さず使ってしまった. I spent all the money I had.|I spent my last cent.

4〈遺産としてleave [【形式ばった表現】 bequeath] 《money to somebody》

金を残す
leave [【形式ばった表現】 bequeath] a fortuneto

彼は 1 億円残して死んだ. He died worth a hundred million yen.

5〈後世に伝える

彼は後世残した. He left his name to posterity.

6〈相撲で〉hold on; stay in the ring

土俵際辛うじて残した. Wakanohana managed to hold on at the edge of the ring.

研究社 新和英中辞典

いくつか単語はあるがleaveを使われているケースが多い
ただleaveには「去る」とか「出発する」ような意味合いで使われることの方が多そうである。

leaveの意味・使い方・読み方・覚え方 | Weblio英和辞書

去る、出る、出発する、やめる、退学する、卒業する、暇を取る、脱退する、捨てる、見捨てる

Weblio辞典

覚え方として「持っていかないで(そのままの状態にして)去る」とあり、そういう言葉のイメージがあるということだろう。

3.leaveの語源

ここでleaveの語源を確認してみる

leave の意味、語源・英語語源辞典・etymonline

leave(v.)

古英語の læfan は、「同じ状態や条件で残すことを許可する;残す、生き残らせる;(亡くなった人について)遺族などに残されたものとして(子孫などに)残す;遺産を残す」という意味です。これは、プロトジャーマン語の *laibjanan から来ており(古フリジア語の leva「残す」、古サクソン語の farlebid「残されたもの」もここから来ています)、*liban「残る」という語から作られた(古英語の belifan、ドイツ語の bleiben、ゴート語の bileiban「残る」もこの語から来ています)。これはPIE(印欧語族)の根語 *leip-「くっつく、粘着する」からのものです。

etymonline

leave 意味と語源 – 語源英和辞典 (gogen-ejd.info)

古期英語 laefan(出発する)⇒ ゲルマン祖語 laibijana(残して出発する)⇒ ゲルマン祖語 libana(残っている)+-jana(~させる)⇒ 印欧祖語 leyp-(粘着する)が語源。「何かを残して(libana)出発すること」がこの単語のコアの語源。英語 alive(生きている)と同じ語源をもつ。

語源英和辞典

どちらも古英語laefan(出発する)が語源で、印欧祖語のleyp-もしくはleip-が語源とある。

Reconstruction:Proto-Indo-European/leyp- - Wiktionary, the free dictionary

Root[edit]

*leyp-[1]
to stick
fat or sticky substance

en.wiktionary.org

印欧祖語のleip-もしくはleyp-は「くっつく」や「粘着する」の意味となっている。

ここからゲルマン祖語libanaで「残っている」、ウィクショナリーのほうではlibjanaで「生きる」という意味になっている。

付録:ゲルマン祖語/libjaną - ウィクショナリー日本語版 (wiktionary.org)

連載 第5回 alive の歴史言語学 (kenkyusha.co.jp)

なお,動詞 live /lɪv/ に関しては,古英語では lifian /lɪvian/ という形態をもっており,当初から f は有声音に挟まれていたので /v/ と発音され,それがそのまま現代にも受け継がれたということです.

第5回 alive の歴史言語学 ―― 一波動けば万波生ず

さらにゲルマン語から古英語を通じてlife、liveへと変化していったようだ。

うまくまとめきれないが、残るleave生きるlive、生活lifeなどが同じ語源から来ているのは興味深いと思う。

4.なぜ「残す」がテーマなのか

最後に理由を書いておきたい。
端的に言えば「残す」からこそ次が生まれるからだと思っている。
食料を残しているから、誰かが生き残れる。(空いている)時間を残しているから、緊急の用事にも対応できる。逃げ道を残しておけば助かることができる。すき間を残しておけば移動できる。モノの見方を残しておけば新しい発見がある。
使い尽くしたり、食いつぶしてしまうことは次に何も生み出せないということだ。
しかし、途中にも書いたが意識を向けないと気が付けないものがある。無限だと思っていたが有限だったもの。
時間や夢、生きがい、水などの資源、健康。意識しないと気が付けない。そして気が付いたときには何も残っていない。私はさほど気が付くタイプでもないので失ってきた。
なので敢えて残すと書いた。そして忘れてでもまた意識する。そういう波が多分いいではないかと思う。うまくまとめられなかったので、どこかで続きを書きたい。

残りたる雪に交じれる梅の花
早くな散りそ雪は消ぬとも

大伴旅人 『万葉集』 巻5-849


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