ニガバナ前夜

一年ほど前のこと

友達のキャバ嬢S氏とミックスバーに行った。

僕はそういう場所がやや苦手でとっとと酔っ払うことに決めてしまっている。

でも僕が酔っ払うと、基本いい方に転ぶことはなくて。

僕はS氏とキャストに
「僕と演劇をやってくれないか」とそうしきりに頼み込んだそうだ。

僕が相当しつこかったらしく「つまんないから他の話しして」と言われたのだけは覚えてる。

つまんないって言われると悲しくて反応しちゃうよね。そこだけはくっきり覚えてるよね。

まあ、酔っ払った時が本性だとか、よく言うけれど

結局、それで暴かれた僕の腹の中はなんてことはない

「演劇がやりたい、おのぼりさん」ってわけで

その時はちょうど、回黙天も思うように活動できなくなった時だったから、自分でもなにがしたいのかわからなくなってた時期でもあった。

まあ、ミックスバーで酔っ払って「演劇やりたい」なんて言ってるうちは実現するわけないのだけれど。

『僕は本当に演劇がやりたいのか??』

その後も自分がどうしたいのかがわからなくて

キャバ嬢S氏にお題をもらって、脚本を当て書きしては持っていったりしていた。

でも反応は芳しくなくて。

首を捻って「おもしろいかもしんないけど、できる気がしない」と一蹴された。

今、冷静になって振り返れば

S氏に固執していた理由もなんとなくわかる。

僕はとにかくビビっていたんだと思う。

「友達」と演劇やるなら、自分の欠損した部分も許してもらえるんじゃないかって

でも、それはめちゃくちゃ甘い考えで

結局、関係に甘えて僕が許されすぎたり、逆に友達だから、演劇をやってた人じゃないから、これくらいのクオリティでも仕方ないかなとか、そういう妥協を繰り返してしまいそうだし、結果あんま面白くない方向に行っちゃう可能性が大いにある。

そして

演劇の好みが近くないと後々つらい。

これに尽きる。

そんな当たり前なことにやっと立ち返ったそんな折。

ほこてんさんがオルギアに誘ってくれた。

ほこてんさんは地蔵中毒の名女優でオルギア視聴覚室のオーガナイザーだ。

オルギアは今をときめく劇団や芸人さんが目白押しの最高にイルなイベント

そんな素敵なイベントに誘ってくれて、僕なんかをまだ目をかけて連絡をくれて、本当に泣きそうだった。

ほこてんさんには回黙天でオファーをいただいたけれど、当然相方も不在、なんとか新しい相方を探していくさなか、やはり気づいてしまった。

『やっぱり、もう一回ちゃんと演劇やりたい』



東野さんにお願いしてみよう。

東野さんは地蔵中毒の俳優さんで、大好きな人だ、僕が病気して少し離れてしまっていたけどきっと拒絶しないでくれるはず。

オルギアに行けば、また東野さんに会える。

とりあえず、東野さんにコントを見てもらおう。

つまんないって言われたらそれはそれでいいや

一緒にできたら嬉しいけど、断られてもぐずらないようにしようとだけ決めて行った。

コントを2本書いて当日お互い出番が終わった後に、東野さんが時間を作って下さって、コントを読んでいただけた。

緊張していて覚えてないけれど

「俺はいいと思う、やってみようか」的なニュアンスのことを言ってくれたような気がする。

あのオルギアの蒲田温泉の会場で

劇団とか、ユニットにも満たない

なんか、やってみようかっていう最初の二人がとりあえず、湯上がりのホカホカの人達が集まるロビーで額を突き合わせてコントを読んでいた。

最高にワクワクしたしドキドキもした。

後日すぐに100個ほどチーム名を考えて、僕が最も尊敬する先輩に見てもらった。

チーム名に目を通した先輩は

「どれがいいかはわかんないけど、この『荒廃稲妻』っていうのだけはダサすぎるからやめた方がいいと思う。」

とアドバイスをくれた。

荒廃稲妻というチーム名になる可能性は消えた。

荒廃稲妻という団体名になる可能性が消えただけの僕と東野さんの二人がいた。

まだニガバナなんて名前がつく前の話。

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