ニガバナ/エピソード0 (うさぎの耳の女編)

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俺は並木チャーハン大学

いつも愚弟の並木ラーメン大学がお前たち地球人に世話になっているらしいな、礼を言っておこう。

そもそも俺と弟は腹違い、俺はポインセチアの魔女から、弟は水たまりの妖精から生まれた。

生い立ちが全く違うんでな。

ラーメンの奴は地球でのほほんと暮らしているかもしれんが俺はそうはいかない。

9歳で地球を離れた俺は宇宙闘技場でスペースグラディエーターとして常に戦っている。

闘技場では少しは知れた名だ。

実は先日妙な出会いがあってだな。

小惑星パピコニアに巡業に行った時の話だ。

その日の俺の対戦カードは巨大な宇宙イモムシだった。

宇宙イモムシは俺の得意な相手でね、いつものように突撃をひらりとかわし、背中にナイフを突き立てる、体液が溢れ、暴れ出すがもう遅い。

そこからは俺のペース、内臓を引きずりだし、最後は火薬を放ち爆発でフィナーレだ。

興行は大盛り上がりで成功、対戦後にバックヤードでイモムシの体液を拭いているところで

うさぎの耳を生やした女がやってきた。

「わたしのこと、殴って下さい!」

巡業中は稀にこういう訳のわからない事を言い出す輩がいる。

しかし、俺は長いことグラディエーターに身を投じてよくわかっている。

巡業をする惑星によっては、その星に娯楽が無さすぎて、闘技場の殴り合いを見て感化されちまうぶっ飛んだやつがいたりもすることを。

いつも通り、こう言い返してやった。

「向こうへ行くことだ、さっきのイモムシみたいになりたくなければな」

しかし、女は逃げずにこう続けた。

「なんか、ゾクゾクして…」

「ああ…」

「すっごいゾクゾクしたんです!!」

「それで…」

「それで?」

「…楽しかったのか?」

「楽しかったです!!」

「そうか…」

「次見れるのはいつですか?」

「さあな、興行は20年先まで決まってる。30年か、40年かそのくらい先じゃないか?」

「そ、そんなに待てません!!」

「じゃあ、諦めることだな」

「興行についていかせてください!」

「断る」

そんな時、なぜか弟のラーメン大学のことを思い出したんだ。

「俺の弟はな」

「え?」

「俺の弟は、もっぱら同じ星で興行を打っているみたいだかな。」

「それ、すっごい気になります!!」

「まあ、俺の殴り合いのショーとは違ってな、思いついたことをお客さんの前に出て発表するという娯楽らしい」

「それで?」

「それを見て笑ったり、泣いたり、考えたりするんだ。」

「そんなの、この星では観たことないよ…」

「確か、コントとか演劇とかいったかな」

「こんと、えんげき、不思議な響き!それ、やってみたい!!」

うさぎの耳の女は目が本気だった。

俺は信用に足るなと思った。

「じゃあ、やってみりゃあいい、どうせ人生は一度きりだ」

「はい!!!」



そういう訳だ、ラーメン大学。

とにかく、地球に向けてうさぎの耳の女を個人用宇宙船で射出した。

まあまあ、事後報告になったが許せ。

惑星パピコニアのうさぎの耳の女とこれから興行を行うといい。

きっと力になってくれるはずだ。

お前はぼんやりしているところがあるから興行の支度を急かすようにも伝えておいた。

なに?

俺はラーメン大学の興行行かないのかって?

現時点でラーメンの奴の興行は見に行くつもりはない。

理由は前に伝えたはずだ。

俺はお笑いが好きだ。

だが、お笑いの知識が小島よしおで止まっている。

だからお前たちのやっていること正確にジャッジできない可能性がある。

お前たちの興行を観るのは、全ての賞レースとネタ番組に目を通してからだ。

観に行くのが何十年後になるかわからんが、覚悟しておくことだな。

とりあえず、うさぎの耳を生やした女が今週中には地球に着く頃だ、まあ、よくしてやってくれ。

そうそう、最後にうさぎの耳を生やした少女は一つ不思議な能力があってな。

それは…



まあ、それはそっちで聞いてくれ。

それでは、我が弟と地球人諸君、幸運を祈る。

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