The blood of Masai
本能が俺をそうさせる。
駄目だと分かっていても血がそれを許さない。
この血さえなければ。
血が憎い。
俺は佐藤研磨、16歳。
どこにでもいるただの男子高校生だ。
だけど人とは違うことが一つある。
それはマサイだ。
俺の親族にはマサイ族がいる。
誰がマサイだったのかは知らない、ていうか知りたくもない。
そのマサイの先祖のせいで俺にもマサイの血が流れている。
マサイの習性として膝を曲げずに高く跳躍するというものがある。
俺はマサイの血のせいでこの習性が度々発動してしまうのだ。
意味もわからないまま、ただ本能でいつでもどこでも跳んでしまう。
時には満員電車で、映画館の中で跳んだこともある。
1番最悪だったのは葬式で跳んだ時だ。
俺が跳んだのを皮切りに次々と親族が跳び始め、気づけば般若心経に合わせ住職以外全員跳んでいたのだ。
こんな葬式なら開かない方がマシだ、直で火葬場の方がよっぽどいい。
故人も相当悔しかっただろう。
その葬式の時に親族の跳躍を見て気づいたのだが、どうやら俺はマサイの才能があるみたいで跳躍力がハンパないのだ。
調子がいい日はブラジルのプロバレーボーラーが2段ジャンプした時と同じぐらい跳ぶ。
そんな俺は今鍾乳洞にいる。
ここでマサイを発動してしまうと幾多の鍾乳洞が俺の頭部に突き刺さり、この鍾乳洞は青の洞窟ならぬ赤の洞窟になってしまう。
お願いだからここでは発動しないでくれ。
しかし俺の気持ちとは裏腹に心の中のマサイが槍を持ちアップを始めている。
おさまれ、俺の中のマサイ!!
頼むから、どうか頼むからここではやめてくれ。
ドンッ!ガンッ!タンッ!
気づいた時にはもう跳んでいた。
跳躍、激突、着地を繰り返す俺の周りにはたちまち人だかりが出来ていた。
スマホで撮影している人もいる。
幸いヘルメットを被っていたため一命は取り留めたが、人だかりの1人が俺が跳んでいた姿をTikTokに投稿し「フルフェイスマサイ」として光の速度で爆発的にバズってしまった。
心も体もズタボロになりながら家に帰った。
「うちの親族のマサイって誰なの?」
ふと今まで知りたくなかったことを父さんに聞いてみた。
「あーお父さんのお婆ちゃんとお母さんのおばあちゃんがマサイだよ」
「だからお前はダブルひぃお婆ちゃんマサイクウォーターだな。」
その言葉を聞き、俺はその夜は飯も食わずに寝た。
「ダブルひぃお婆ちゃんマサイクウォーターってなんだよ、、、、」
うつ伏せで寝ている俺の頬を流れた水滴は強く握りしめた拳を伝い、やがて枕を濡らした。
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