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台風①

8月の終わりから9月の初めにかけて、台風9号10号と立て続けに発生し、沖縄や九州に接近・通過していきました。

先日の台風10号は、過去最強クラス、「猛烈な」勢力で接近・上陸の恐れもあると予想されていましたが、「非常に強い」勢力までとなりました。

台風の大きさと強さ

とはいえ、各地で土砂災害や家屋の損壊などの被害がありました。
秋の台風シーズンを迎えるにあたり、今一度台風についてのお話をしたいと思います。

まず、台風10号はなぜ当初の予想と発達状況に違いがあったのでしょうか?
台風の発生・発達には海面水温が大きく関係します。
過去にも何度か述べていますが、台風は海面水温が26~27℃以上の海域で条件がそろったときに発生し、28℃以上の海域では発達していきます。

今年の夏の日本付近の海面水温はとても高い状態が続いています。
8月に入り近が高く強い日射が続いたこと、そして、8月に発生した3号~9号の台風はすべて九州よりも西の海域で発生し、南シナ海や東シナ海~大陸または日本海へ進んだのです。
台風が通った海域は、海水がかき混ぜられることによって一時的に海面水温が下がるのですが、そのようなこともなく、日本近海の太平洋は記録的な高温域が広がり、西~東日本沿岸では9月に入っても29~30℃で、台風が接近しても勢力を維持もしくは発達する、という条件がそろっていました。

20200901海面水温

そして、9/1に小笠原近海で発生した10号は、海面水温が高い海域で発達しながら、当初は四国や九州へ接近・上陸する可能性がありましたが、徐々に西へずれて、5日頃には9号がたどった進路へ近寄って行きました。
5日ほど前に9号が通過した沖縄付近の海面水温は、周囲より2℃ほど低くなっていたのです。

20200905海面水温


その海域へ進んだことで、猛烈な勢力とはならなかったのだと考えられます。

今回、台風10号は9/1夜に小笠原近海で発生し、ゆっくりと西へ進み、3日頃から徐々に徐々に北西へ、そして5日朝には九州の南で北上するコースをとりました。
太平洋側では、4日から台風の北から東側で吹く南東風によるウネリが反応し始め、5日は南東~南ウネリが続き、九州や沖縄に接近した6日には、台風本体からの南~南西ウネリが強まり、7日は東シナ海~朝鮮半島へ進み、南西ウネリは8~9日にかけて徐々に弱まっていきました。
日本海側は、8日から南西ウネリが反応し、10日の今日も残っています。

日本近海では海面水温が高い状況がこの後も続く見込みです。台風が発生した場合、発達した状態で日本へ上陸するという可能性も大いにあります。
最高の波をもたらしてくれる台風について、過去に「台風と波」https://namiaru.tv/news/?p=52283で、発生~発達~衰弱までの流れなどのお話をしました。
今回は、接近・上陸した場合に備えるためにも、波以外にもたらす事象を改めて深掘りしてみたいと思います。

では、台風とは!?
北半球の東経180度以西の太平洋と南シナ海に発生する熱帯低気圧のうち、最大風速が17.2m/s以上になったものをいいます。
熱帯低気圧とは、熱帯の海上で生まれるパワフルな低気圧のこと。前線は伴わず、たくさんの積乱雲(入道雲)が渦を巻くように集合しています。
日本の遥か南、熱帯の高温多湿な海上で上昇気流が強まり積乱雲の塊となり、それらが地球の自転や熱帯収束帯の風の流れによって、北半球では左回りの渦が形成され、熱帯低気圧が誕生します。
エネルギー源は海から供給されるふんだんな水蒸気のため、陸上では発生しません。
海上で発生した台風は、自転の影響で北へ進む性質がありますが、低緯度では北東貿易風に流されるため、冬~春先はフィリピンやベトナム方面を進むことが多いのですが、夏になると発生地点の緯度が高くなるとともに、太平洋高気圧の縁に沿って回り込むように北上するコースが増えていきます。
高気圧がしっかりと張り出しているときには、東シナ海~日本海へ進むというコース多く、9月に入り高気圧の張り出しが弱まってくると、本州へ突っ込んでくる可能性が上がってきます。
北上して海面水温の低い海域へ進んだり、上陸すると、ガソリンにあたる高温の水蒸気の供給がなくなり、衰退していきます。
寒気と暖気のぶつかり合いが始まり、温帯低気圧へ性質を変えて再発達することも多々ありますが。

台風の進路に関しては、「台風と波」https://namiaru.tv/news/?p=52283でも説明しているため、ご参照ください。

さて、台風によってもたらされるものはもちろん波だけではありません。

まず、台風予想図の見方からお話しします。

台風予想図

予想図には、現在の台風の位置、暴風域、強風域、予報円、暴風警戒域が表示されています。
「予報円」は今後70%の確率で中心が到達する範囲で、「暴風警戒域」は中心が予報円内に進んだ時に、暴風域に入る可能性がある範囲を表しています。

次に、台風の風について。
最も風が強いところは中心付近、目が存在するときには、その周辺です。
そして、進行方向に向かって右側を「危険半円」と呼び、
進行方向と台風自身の風の方向が重なるため、その分風が強まります。
そして、左側を「可航半円」と呼びますが、こちらは台風が進む方向と風の向きが逆方向となり相殺される分、右側よりも風が弱いのです。
台風は、上陸すると水蒸気の供給がなくなり、また摩擦により、次第に勢力を弱めていきますが、海から近いところに住んでいて、危険半円にあたる場合に、風に関して最も警戒が必要です。

昨年の台風15号は、非常に強い勢力で9/9未明に三浦半島を通過し、その後、東京湾を進み千葉市へ上陸しました。上陸した場合は、摩擦などにより勢力を徐々に弱めますが、暖かい海面から水蒸気の供給を受けたまま進んだことで、進行方向の右側にあたる千葉県では、高圧鉄塔の倒壊や6万戸を超える家屋の損壊など甚大な被害となり、左側にあたる神奈川県での家屋の損壊は、千葉県に比べ4~5%という数でした。

台風が発生し、台風ウネリの恩恵を受け楽しい時間を過ごしたのち、日本へ接近・上陸する可能性が高まった時には、まず、予想進路を確認すること。そして、自分がいる地方へ向かってくると分かった時には、台風の中心に対し、右側、左側にあたるのかを判断し、しっかりと備えを行ってください。
左側になりそうだ!と思っても、台風の実際の進路はその時にならなければわかりませんので、油断はなさいませんよう。

さて、今回の台風のお話ですが、長くなってしまいましたので、また次回 (来週予定)。

台風の雨、高潮、フェーン現象など、まだまだお話が続きます。

20200909lola海面水温


今日も日本近海の海面水温は高い状態が続いていますが、衛星画像を見てみると、南の海上に雲の塊があります。

202009101230可視

熱帯低気圧が発生した場合、発達した状態で日本へ突っ込んでくる可能性は充分ある、ということを頭の片隅に置いておいてくださいませ。

ちなみに、9/7気象庁の発表です。
https://www.jma.go.jp/jma/press/2009/07a/20200907_td5nitiyoho.html↓
台風接近時の防災行動計画(タイムライン)に沿った対応を効果的に支援するため、24時間以内に台風に発達する見込みの熱帯低気圧の予報を、9月9日からこれまでの1日先までから5日先までに延長されました!

【台風情報】
https://www.jma.go.jp/jp/typh/

これはとてもありがたいですね!
私たちスタッフはもちろん台風や熱帯低気圧の予想見解を随時発信してまいりますが、気象庁の台風情報もお時間があればチェックしてみてください。

それではまた来週。

気象予報士
塩田久実