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温帯低気圧と熱帯低気圧(台風)

9月も後半に差し掛かり、今週は秋雨前線が消滅。空気が乾燥し空も高く、秋の気配をぷんぷん感じる今日この頃です。
そして昨日は「中秋の名月」。中秋の名月とは太陰太陽暦(旧暦)の8月15日の夜に見える月のことです。今年は8年ぶりに満月と重なりました。おまけに一粒万倍日。
なんだか良いことがありそう!?などと勝手に思いながら十五夜のお月様を眺めていました。


さて、先週は台風14号が日本に上陸、西~東日本を横断していきました。
台風14号はフィリピンの東海上に発生し、東シナ海へ北上したのち数日停滞。
当初は、4日ほど停滞後、17日頃に朝鮮半島から日本海へ進み温帯低気圧に変わる予想となっていました。
しかし、16日になって予想進路が南へズレて、台風のまま九州へ上陸との予報に変わりました。
この16、17日に、家族や友人など周りの何人もが「温帯低気圧に変わると言っていたのに台風のまま上陸するからこわい」というようなことを話していたり、これについて聞かれたり、またSNSなどでも同じような文面を見たりしました。
天気予報などでは「台風が温帯低気圧に変わっても勢力が急に弱まるわけではないため、警戒を怠らないで」と繰り返し発信されているものの、世の中には「台風よりも温帯低気圧の方が安心」という認識の方が沢山いることを実感した次第です。
しかし!そんなことはないため、
今回は、「温帯低気圧と台風(熱帯低気圧)」の違いについて、改めてお話ししたいと思います。

温帯低気圧も熱帯低気圧(台風)も、低気圧なので反時計回りに風吹き込んでいます。
それぞれの低気圧について簡単にお話しします。

・温帯低気圧とは
中緯度の温帯や寒帯で、海上、陸上にかかわらず発生。
北側の冷たい空気と南側の暖かい空気が収束(風の流れが一点または線に沿って集まってくること)し、中心は渦を巻いています。前線を伴うことが多く、広い範囲で強い風が吹き荒れます。
寒気と暖気がぶつかり混ざり合おうとすることで発達していきます。

・熱帯低気圧とは
低緯度の熱帯や亜熱帯の海洋上で発生。
エネルギー減は水蒸気です。
水温が26~27℃以上の海上には豊富な水蒸気を含んだ暖かい空気があり、この水蒸気が雲粒(水)に変化するときに熱を放出することで、周りの空気を暖め上昇気流を作り、積乱雲が発生します。海面水温が高い海域では、多量の水蒸気の供給され、積乱雲が発達。空気が渦を巻いて強力な低気圧となっていきます。
熱帯低気圧の最大風速が17.2m/sを超えると「台風」と呼び名が変わります。
熱帯低気圧と台風の違いは「風速」のみ。上空まで暖かい空気でその構造は同じです。
また、北上して海面水温が低下したり上陸することで、エネルギーの供給がなくなると衰弱していきます。

【温帯低気圧】は寒気と暖気が衝突し、その境目に前線がある。
【熱帯低気圧(台風)】は暖かい空気の塊で上空まで周囲に比べ温度が高く、暖気のみなので前線はない。
と、その構造は全く異なるのです。

話は戻り「台風が温帯低気圧に変わっても勢力が急に弱まるわけではない」という件についてです。
「台風が日本海(または、北東の海上、など)へ進み温帯低気圧へ変わる見込みです。」
こんな台風情報を耳にすることはよくあると思います。

温帯低気圧に変わると、なんとなく勢力が弱まって安心だとイメージしてしまっていないでしょうか?
台風が温帯低気圧に変わる、ということは、その構造が変わる、ということ。
発達した温帯低気圧は最大風速17.2m/sを超えることも多々あります。例えば、春一番をもたらす日本海低気圧など爆弾低気圧となって各地で暴風や激しい雨など大荒れの波や天気となることもあります。

台風が北上し、徐々に北から寒気を引き込むことで、構造が温帯低気圧へと変わっていく。構造が変わったとて、勢力は弱まらず、温帯低気圧として発達し、大雨となり強風が吹き荒れる恐れは充分にあるのです。

また、台風だから低気圧よりもウネリが必ず強まるわけでもありません。
常日頃感じることは、「台風は低気圧よりウネリが強まる!」と思っている方が多い、ということです。
もちろん、南の海上で950hPa以下などに発達する台風から届く周期(波長)の長いパワフルな波は、日本付近を通る低気圧によって反応する波とは違います。
がしかし、オリンピックにウネリをもたらした台風8号は最も気圧が低い時でも990hPaでした。海上に入ったウネリの周期もさほど長くはありませんでした。
春や秋などに日本付近を通る発達した低気圧も、オリンピックと同じくらいの風やウネリをもたらすことはあります。

ただし、非常に強い(最大風速33~44m/s)や、猛烈な(最大風速54m/s以上)ともなると、また話は変わってきます。

2018年9月上旬に近畿地方を中心に甚大な被害をもたらした台風21号や、2019年同じく9月上旬に千葉県に甚大な東をもたらした台風15号は、どちらも最大風速45m/sの非常に強い勢力で上陸し、その後、まだ海面水温が高い大阪湾や東京湾を進み、過去最強クラスの勢力で再び上陸したことで被害が広がりました。

これから日本付近の海面水温が下がっていくことで、台風が発達した状態で日本へ近づく可能性は徐々に下がっていきますが、その可能性はゼロではありません。
また、日本から逸れて、波をもたらしてくれたとしても、台風の外側にかかるアウターバンドという雨雲により、激しい雨となることもあるため、これからまだ続く台風シーズンでは、台風の位置や進路だけでなく、大きさや勢力(気圧、hPa)などの細かいところまで、情報を確認してみてくださいね。

そして、この週末には新たな南の海上に新たな台風が発生する気配がしてきました。今後発生する台風は、発達しながら北上し、日本の南~南東~東の海上へ進む、秋のコースとなる可能性が高くなります。
今年のこれまでも台風では、吹き込みの風や、台風が近づいてからのウネリという、普段発達した低気圧から反応するウネリと同じようなタイプで、東向きのポイントでもサイズアップしたこともありましたが、周期(波長)の長い、いわゆる台風からのグランドスウェルは、東向きのポイントではまだ反応していません。
しかし、これからの季節は北緯20度を超えたあたりから徐々に東へ転向する可能性が高まります。

台風主な経路

台風が発生する場所にもよりますが、海面水温が高い南の海上で発生、発達しながら北上することで、まずは、南向きのポイントで反応し始め、徐々に進路が南東~東へ進むことで南東~東向きのポイントでもウネリが届く可能性があります。
そして、温帯低気圧へ形を変えながら東~北東の海上へ進み再発達すると、今度はバックスウェルの期待も出来ます。

週明けは発達しながら北緯20度を超えてくる可能性もあるため、今後の情報もチェックしてみてください。

気象予報士
塩田久実