替え歌

夜、真っ暗な病棟ロビーで仕事していると、
看護婦Hさんがやってきました。

看「まだ仕事してるん?」
私「ちょっと忙しくて」
看「早く寝ないと」
私「うん」
看「ダメよ~」
私「・・・」
看「ダメ、ダメ」

一瞬、Hさんがオカッパ頭で顔が真っ白メイクの芸人に見えました。

看「あのさ」
私「うん」
看「夜勤で、ヒ・・・時間があったから」

今、『ヒマ』って言いそうになりましたね。

看「替え歌作ってみたんだ」

さっき、ナースステーションで、頭を抱えて考えてたのは、替え歌でしたか。

看「もちろん、聞きたいよね?」

何か、『Yes』しか答えが許されないような、抑圧的な質問です。

私「あ、いや、仕事あるし...」
看「じゃあ、歌ってあげる」

今、私、サラッとスルーされましたね。

問答無用で歌が始まります。

『あれから この僕は 何かを信じてこれたかな』

夜空ノ○コウの替え歌ですか。

というより・・・男性の皆様。

ナース服+歌

・・・

萌えます。萌えまくりです。

萌える私をよそに、歌は続きます。

『病院の不幸ごと ある患者の物語』

なんですか、それは。
しかし、無情にも歌は続きます。

『ナースの声に気づき すぐに パソコン消した』

あ、バレてましたか。

『病院の消灯あとに 外でタバコ吸った』

仕事の電話だと嘘ついて、外で吸ってたのまで知ってたんですね。

『ナースが何か伝えようと 握り返した その手は』

あの、私、看護婦さんから手を握ってもらったことないんですけど。

『僕の腕の 柔らかい場所に』

.・・・

『注射器つきたて~る~』

ああ、「握り返す」じゃなく「取り押さえる」なら毎日やってもらってます。

『あれから この僕は 何かを信じてこれたかな』

身体中に染み渡る歌詞ですね。

『窓をそっと開けてみる』

.・・・

『寒いからすぐに閉めた』

意味ないことしないで下さい。

歌は延々続きサビに近づきます。

『あの頃の未来に 僕は立っているかな』

病室は明らかに違う未来です。

『夜空の向こうには また明日が待っている』

来てほしくない気がします。

そこまで歌うと、Hさん満足気にこちらを見ます。

看「感動的やろ?」

私は絶望的です。

看「ってことで、早く寝てね」

あの、その前に、一時間前に頼んだ痛み止めの注射
打ってもらえませんか。

ナースステーションに戻るHさんの後ろ姿に、次の替え歌
をちょっと期待する夏の深夜でした。

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