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『おっちょこちょい』第一回


 親譲りのおっちょこちょいで、子どもの頃から損ばかりしている。
 

 小学生の頃は、よく曜日を間違えて教科書を持っていき、しょっちゅう隣の席の女子に教科書を見せてもらった。その女子は俺が彼女に気があるから、わざと忘れてくるのだろうと勘違いして、親や友達に言いふらした。
 
 
 ゴリラというあだ名を自分でも気に入っていた彼女は、クラスが変わっても毎年バレンタインにはチョコレートをくれ、誕生日にはクッキーを焼いてくれ、両家の親もいつのまにか仲良くなって、俺たちは将来一緒になるものと、一方的に堀を埋められた。一度も本心を言う勇気がなかった俺も俺で悪いのだが、結局、卒業までの間、俺はゴリラと相思相愛と周りからからかわれ続け、本当に好きだった娘には俺の気持ちに露程も気づいてはもらえなかった。

 中学は幸い別々の学校で、いつしか関係は自然消滅し、ゴリラ問題は解消した。それはよかったが、中学に行っても自分の粗忽は俺を苦しめつづけた。

 朝、登校して下足箱の蓋を開けると、一通の封書が入っていた。オッと思い、その場で中身を開いてみたら女の子の文字で書かれたラブレターだった。名前は、イニシャルだけで本名はわからない。昼休みどこそこで待っています、とだけあった。

 俺も満更じゃないなと思って、昼休みにいそいそ指定の場所に行くと、果たして女生徒が一人、木に寄り掛かって誰かを待っている。それは一年上の先輩で、しかも不良グループの仲間だったから、ちょっと驚いた。すると、向こうはもっと驚いた顔をして、こちらを見ている。

 何でかな、と思っていると物陰からワラワラと不良たちが現れて、口ぐちに何でお前が来たと凄まれた。わけが分からず下足箱で見つけた手紙を見せると、それは山内の下足箱に入れた物だと言う。山内の下足箱は俺の隣で、今日は風邪で休んでいた。ハッと気が付き、俺は履いていた上履きを脱いだら、踵の所にちゃんと山内と書いてある。俺が下足箱を間違えたのだ。

 俺は顔から下にいくつも痣をつけられ、それからしばらく彼らの使い走りをさせられた。山内とその女子が結局付き合って、公の関係になった後は解放されたが、その時のトラウマで俺は大人になった今でも不良が恐い。

つづく

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