時系列④

4/23行きつけの飲食店に行く日である。
私は夫と出かける時はいつもちゃんと身支度する。夫が私のルックスを好きだと言ってくれているからである。
こんなに関係性が冷めてると自覚してても、私はそこに手を抜かないしいつだって夫の目を気にしている。ギリギリのところで繋ぎ止めようと必死なのかもしれない。
夫と飲みに行く日は仕事のことを聞くチャンスでもある。仕事の話は普段ほとんどしてくれないし、こちらから聞いても端折られたりするのでよくわからない。仕事の話をしたくないのかもしれないと気遣いのつもりであまり深く詮索しない様にしていた。
飲みの席では上機嫌に仕事の話も子育ての話もしてくれるので、家の中では考えられないほどお互いよくしゃべる。お酒で楽しくなるからだと思っていたが、そうではなく、彼が私に対して接待をしているのだと気づいたのは最近だ。
連日の取引先やら部下やらとの飲み会で鍛えられ、彼は盛り上げ上手な飲み会番長になり、どんな相手でも楽しませることができる術を身につけていた。
私はまんまとそれに乗り、いつでも楽しんでしまう。
しかしその日は少し違って、私は夫に対し多少の警戒心を持っていた。あんな大失態を犯した私に対して、心から楽しんで飲んでいるとは思えないからだ。
ここは腹を割って話すしかない、と思っていたが、夫もそう思っていたのか、私達はお互いがお互いをもう求めていない、というのを前提に話をしだした。
ここまで好きになって嫌いになってもう何も期待していないしこれ以上嫌いになれないのはお前だけ、と言われて、本当だね、私もだ。と返した。
だからこそお前には何でも見せられる。老後、お前の介護はできる。
もしお互い別々の道に行っても、老後また落ち合って介護し合ってもいいよね
それいいね!たしかに、ほんとだね
そんな会話をしていたらハラハラと涙が出てきた。
悲しいから流れた涙なのかわからないが、もうお別れの言葉を言われているようで、それでいて希望がある様な、そんな話をしながら目の前のこの人を大切に思う自分に気づいてしまい、寂しくて切なくて涙が出てきた。
夫は私の涙に動揺し、なんで?なんで?と聞いてきた。私は取り乱したりなどせず、いやーなんでかな?なんか泣けてきたアハハみたいな返事をした。
でも俺はお前を大切に思ってるよ、お前には本当に迷惑かけたと思ってる、お前はよくやったよ、
そんな感じのことを言ってきた気がする。
ここ数年、よく言うセリフだ。
散々思い通りにいかせようと要求したりキレたりしてたくせに、ここのところ急に悟ったように私のことを認め出した。仕事は好きなことをやってほしい、今まで一切行かせなかった夜のお出かけも子どもを置いて行ってもいい、縁を切らせた昔の友達とも会っていい、友達の〇〇は元気か?もっと飲みに行ったらいいじゃん、など。
本当に勝手だな、と思いながら、ここまで変化した夫を感慨深くも感じてしまう。結婚して15年。若かった夫もやっと中年と言っていい歳だ。グラデーションで変化していく夫を側で見て、私が側にいる理由を考えてしまう。
夫は筋トレをずっと続けているのでムキムキである。自分のルックスに相当自信があるのか、俺はモテる、ということを少し前から匂わせていた。
ちょっと鼻につくので、そんなわけない、といつもおちょくっていた。
なぜかというと、夫はどちらかと言うと私と結婚した当初は冴えなかったし、女の扱いは下手だし性格に難ありだしどちらかというとコミュ障だし、モテる要素がまるでなかった。グラデーション変化のうちに飲み会番長になり持ち前の明るい性格で女の子の扱いも上手くなったらしい。何より、上場を目指す企業の若手社長という肩書きが確かに魅力的ではあった。
生活のほとんどを東京で過ごす夫は、もはや東京の人である。友人関係は派手で、キャバクラ通いもナンパも常連の飲み屋で女の子と飲むのも日常茶飯事。私はそれをいつも文句一つ言わず聞き入れてきた。
こんな調子じゃいつ浮気してもわかんないなと思っていたが、私が心配しなかった根拠はちゃんとあった。
夫は潔癖症であり、社交的に見えてそれは仮の姿、テリトリーによく知らない女は入れないし、セックスに自信はない。私と出会う前はオーラルセックスも汚いからしたことないと言っていたくらいだ。
ワンナイトはあっても、浮気らしい浮気はないかなーと思っていたし、何よりずっと私が性欲処理をしていたので、さすがに性欲だけで行動するほどではないかなと思っていた。
私との性交渉がなくなった時が怪しいと常々思っていた。根が純粋な夫は、体の繋がり🟰心の繋がりという節があって、もし何度も関係を持つ女が現れたら私との繋がりは意味を持たなくなって性交渉は無くなるだろうと思っていた。
ただ、最近になってそれもグラデーションで、
昔より性欲がなくなっただの、タチが悪くなっただの言う様になった。無理やりにでも行為に及ぼうとしていた夫が私の体や気持ちを気遣い、今日はいいよ、だの、できるの? だの言う様になったのだ。
気遣えるようになった夫を見て、性欲が落ち着いたんだなーと思い気が楽になった。大人になるっていいなぁと。
そんな変化もあり、ここのところ夫に応える私の気持ちの負担もだいぶ減り、性生活に対しては割と前向きであった。

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