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【大阪西成物語】沖縄タウンへの小旅行
私は新婚当初は、横浜の鶴見に住んでいた。
鶴見というと工業地帯という印象があるだろう。ま、確かにそうだ。「こっちって貧乏人が多くてさ」と古老が入っていた。ま、そう……かな。
私の住んでいたマンションは鶴見川沿い、対岸は「本町通」と言って、工場から帰る労働者の憩いの場として、飲み屋や映画館が当時は3軒あったらしい。
ちなみに私が住んでいた頃は駅近くに鶴見国際という映画館があって、石原裕次郎の映画などをよくやっていたが、ここもいつの間にか駐車場に変わって鶴見から映画館が消えてしまった。
本町通から北側にさらに入ると、沖縄人がたくさん住む「潮田地区」にはいる。夏ともなると「若人よきたれ! 沖縄相撲大会!」と大々的に告知されたり、沖縄物産ばかり売っている店には、「夏休みだ、非行はやめよう!」「不審火に火の用心!」など大きなポスターが貼られるのだが、問題は「神奈川県消防庁」でなく「沖縄県那覇市消防局」のことが多く、道行く人から「ここって治外法権じゃんよ」と呆れられるのが常だった。
昨年から大阪に住んでいるが、気になったのは「じゃ、大阪の沖縄ストリートってどうなの?」ということだった。大正区にそれなりのところがあることは知っていた。そして大阪で幾つか残っている市営の無料渡し舟を踏破した時に、近所を通りがかったことも知っている。
というわけでなんばの駅から大阪市営バスに乗って大正区の「鶴町4丁目」行きバスに乗る。大正駅、大正市役所などを通り過ぎて「大丈夫かな」と思い始めたところで目的の停留所に着く。
商店街はほとんどが閉まっていた。唯一空いていた沖縄料理店で聞くと「あらー、月曜日じゃけん、ほとんど閉まってるんだわ」。そっけなく答えると、半分聞き取れないような九州言葉で痩せた常連客を相手に、おしゃべりを続けるのだった。
唯一空いていたのが「仲宗根精肉店」という店。「皮付きの豚バラが売っているんだ、あ、スペアリブって骨つき肉っていうんか」と感心して眺めていると、女性店主が「すーちか、というのは豚の塩漬け。これは保存するためにしてきたので、老人世代はこれじゃないと食べないみたい」
「じゃこれって、酢豚とかにしてもいいんですか?」
「いやいや(笑)、味をつけるともっと塩辛くなるから、もし何か味を加えるならナマ肉にしたほうがいいよ」
自分で角煮のように甘辛く味付けしたかったので、結局下の段にあった、皮付き豚バラにする。
西成区に帰るフェリー乗り場に向かう途中は、住宅地。「仲宗根」といった沖縄風名前が目に入る。川沿いに着くと今度は石油やセメントなど工業地帯。昔の沖縄の人は、毒性のあるソテツを口にしないと飢えをしのげないほどで、大阪でも自分の家に使う木材もろくに手に入らない過酷な生活を送っていたという。
1分もかからないフェリーで帰ってきた我が西成区も同じように川沿いは工業地帯だ。慰められるのは通り抜けるのに30分はかかる「鶴見橋商店街」が迎えてくれること。高齢者や車椅子がひしめいて、通り抜けるものも大変だけど。
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