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モンブラン失言

ーしかし、営業としてはなんとしても黒谷社長を陥落して、今回の商談をものにせねばならない。くれぐれも、今回の接待でヘマするんじゃないぞ。
ーわかりました。
俺は答える。本人だけでなく、奥様も含めてご機嫌も取るのは得意なのだ。

料亭での接待は好評だった。帰り際、紙袋をお渡しする。そう、入手困難なあのパティスリー・タラハの洋菓子を手土産に選んだのだ。奥様が喜ぶことは確実である。

しかし、黒谷社長は態度を硬化し、商談は暗礁に乗り上げた。俺は上司に呼び出された。

ー黒谷社長のライバルが白山物産の白山社長だということは知っているな?
ーはい。
ーモンブランというのはどういう意味だ?
ーモンはフランス語で山、ブランというのはフランス語で白。あっ!
ーそうだ。黒谷社長は、モンブランがことのほかお嫌いだった。お前は口に出すことはしなかったが、手土産で失言したんだ。

 俺はボーナスを減らされ、この事件は営業三課の中で「モンブラン失言」として語り継がれている。

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