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Vol.009 【レポート】中之島プロモーション 宇川直宏ディレクション 「NAKANOSHIMA PERFORMING SCAPE」

配信日時:2021年2月14日(日)14:00〜
収録場所:大阪市中央公会堂、コンラッド大阪、堂島川と土佐堀川

ディレクション:宇川直宏(“現在美術家”/DOMMUNE主宰)
パフォーマンス:Salyu(ボーカリスト)
演奏:葛西友子(マリンバ奏者)、井上登紀(大阪フィルハーモニー交響楽団フルート奏者)

「創造的な実験島」を舞台にした9日間にわたるナイト&デイプログラム連続配信のラストを飾るは、宇川直宏さんディレクションとボーカリスト・Salyuさんの音楽パフォーマンスによる中之島プロモーション作品です。

宇川さん独自の中之島論と鋭い洞察、Salyuさんの唯一無二のパフォーマンス、そして中之島の都市風景との出会いの化学反応は、どのような情景を創出したのでしょうか。
それは、ぜひ配信アーカイブをご覧いただくとして、このレポートでは、宇川さんの制作意図や撮影の裏側を少しだけご紹介します。

宇川さんはまず初めに、パフォーマンスの構成として、中之島を象徴する3つの場所とともに、独自の観点で3曲を選び、3作品を創作しました。

作品概要

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一作目「Historical auditorium」の舞台は大阪市中央公会堂です。1918年(大正7年)に完成した公会堂は、現在、国の重要文化財にも指定された中之島のシンボルです。映像の冒頭は、公会堂の特別室に現れたSalyuさんが、鴨長明『方丈記』を朗読する場面から始まります。

「行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
淀みに浮かぶうたかたかは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。」
                       鴨長明『方丈記』より

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「この部屋の天井や壁面には日本創生にまつわる神話が西洋の様式で描かれています。世界観の融合というか、コラージュのような空間が中之島を象徴する重要な場所だと感じました」と宇川さん。

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この歴史的建築の内部空間を舞台に演奏された原曲は、1975年に『方丈記』のテキストを元に創作された柴田南雄氏による「ゆく河の流れは絶えずして」です。
大阪フィルハーモニー交響楽団の井上登紀さんによるフルートの調べと神々しいSalyuさんの歌唱によって、現代音楽の中でも特にアバンギャルドな交響曲、そして無常観と日々アップデートし続ける営みの根源をテーマにした古典『方丈記』の世界観が、現代に表出されました。

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二作目「Night Skyscraper」の舞台は、高層ビルの最上階にあるコンラッド大阪のロビーと、そこから望む夜景です。
2017年に建設されたフェスティバルタワーは、東西約3kmの中之島の中心部に位置し、歴史的建造物とは対称的なコンテンポラリーな空間と都市インフラを象徴する場所です。

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「このラグジュアリーでスペシャルなロビー空間にベストな川をテーマにした楽曲は、この曲以外考えられなかった」という宇川さん。「Moon River」は、1961年公開の映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンが歌い、世界中で数々にカバーされ、愛され続ける名曲です。

独自に解釈された名曲のイントロをマリンバで奏でる葛西友子さんに導かれ、わずか10節から成るシンプルながらも遠大なメロディーが、Salyuさんの圧倒的な歌声によって、夜の景色に響き渡りながら円環し、壮大な時空の存在を感じさせます。

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三作目「Water City」の舞台は、船で巡る川からの眺めによる中之島の風景そのものです。美しい冬の晴天の下、船上でパフォーマンスされた楽曲は、1888年にエリック・サティが作曲したピアノ独奏曲「Gymnopédies」です。

宇川さんによれば、延々と繰り返されるループトラックであるこの曲は、水が絶えず入れ替わりながらも淡々と流れ続けている川のイメージを表現したかったとのこと。
そして、本作の前奏・伴奏などの全てが、Salyuさんによるオリジナルの独奏によるものです。

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川面のフィールドレコーディングに続き、曲は歯を指で鳴らすパーカッションから始まります。このSalyuさん独自のパーカッションは、川を育む天と大地の恵みとしての「雨」のイメージを重ねているそうです。その後も、しなやかに身体を響かせるSalyuさんのクラシックから現代音楽までの幅広い表現性と声の多様性に圧倒される、素晴らしいクリエーションとなりました。

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さて、「創造的な実験島」における都市プロモーションの新たな提案の記念すべき第一弾は、各現場で撮影・録音しながら構成をつくっていく即興性とともに、現在の中之島の都市風景とアーティストの創造的叡智が混交するドキュメントムービーであるとも言えます。
今後も当プロジェクトでは、移ろいながらも綿々たる川の流れや空の雲と同じく、壮麗で独自性に富んだ創造的実験によって、中之島の魅力と可能性を発出できれば幸いです。



レポート執筆:木ノ下智恵子(大阪大学共創機構社学共創部門准教授)

写真:吉見峻


【アーカイブ公開中】
トーク全編の映像は、YouTube公式チャンネルにて公開中です。配信時よりも高画質(HD: 1080p)を設定いただける<高解像度版>を新たに公開しました。
(2021.2.23現在)
↓ 映像はこちら

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プロジェクトのウェブサイトはこちら:
クリエイティブアイランド中之島公式ウェブサイト
https://nakanoshimalab.jp/




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