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増刊|コミック無責任&文芸たぶん

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【増刊 文芸たぶん】は勢いで書いた「ひとふで小説」と定期連載化できない物語調の書き物を収録しています。仕事コラムなどのルポ系読み物は他のマガジンにまとまっています。 【増刊 コミ… もっと読む
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#大人百合

ひとふで小説|レンガイケッコン(9)

これまでのお話:(第1話)〜(収録マガジン) (9) カン!とした、乾いたチリトリの落ちた音を、エントランスが幾重かに響かせる。  蓮本は持ってきた書き置き用のメモをくしゃくしゃにポケットへ突っ込みながら東之に駆け寄って、チリトリを拾ったついでに重そうなゴミ袋もやや強引に引き取った。 「あ、いいですいいです!汚いですよ!ごめんなさい!」 「だ、大丈夫ですか?痛かったですよね、今のは。転ばなくて良かったけど…」 「大丈夫です、すみません!あはは、もう。躓いちゃいました、不注意

ひとふで小説|レンガイケッコン(8)

これまでのお話:(第1話)〜(収録マガジン) (8) 階段を下っただけだというのに、管理人室に戻った頃には結構息が上がっている。殺虫スプレーの入った戸棚に手を伸ばそうと屈んだ時には、ちょっと圧迫されて、はあはあと息が漏れてしまった。 (はあ、あったあった、良かった)  東之はスプレー缶をサッサッと上下に振って、中身の重さを確かめた。 (あるよね。良かった。ゴキブリ一匹やるぐらいなら充分かな。苦手じゃないって言ってたし)  掃除中は特にエレベーターは使わないようにしている。

ひとふで小説|レンガイケッコン(3)

これまでのお話:(1)(2) (3) 昨晩、翌日の打ち合わせに備えて早寝するつもりだった蓮本のスマートフォンが、寝る支度を始めた頃に通知を鳴らしたので、仕事の用件か、一度「おやすみ」のメッセージを交わして寝たはずの彼が起きたのかと思って開いたら、電子書店のアプリが放った「読書ポイントの有効期限があと半日で切れます」というアラートだった。  ポイントなんかすっかり忘れていたくらいだから知らぬ間に失効していればどうでもよかったのに、「消えて無くなります」と知らされれば、なんだか

ひとふで小説|レンガイケッコン(2)

これまでのお話:(1) (2) いつもどおりに会釈して通過すると思った相手が管理人室の小窓に近づいてきたのは、会釈だけの関係が四ヶ月ほど続いたある昼下がりだった。抹茶色の紙袋を持って近づいてきた蓮本は、 「あのー…、和菓子、お好きですか…。餡子なんですけど…」 と、紙袋を持った左手を心臓あたりの高さに擡げて苦味のある笑顔で軽く頭を下げた。あいにく餡子が苦手な東之は、あー…と言いながら少しの間、逡巡して、 「き、嫌い…なん…です…」 と、軽く頭を下げ返した。  餡子好きに生ま

ひとふで小説|レンガイケッコン(1)

(1)「恋愛を結婚と繋げよう、というのがそもそも無理があるんじゃないかと思ったんですよね」  壇上で話す女性は、気位の高そうな仕立てのいいジャケットを、しゃきっと着こなしている。羽織っている、でもないし、着ている、でもない。しゃきっと着こなしている。  柔らかな髪が肩にもたれながら胸元に落ち、鎖骨のところどころを隠していた。時折体勢を変えると、そのたび首元のネックレスが照明にキラキラと反射する。  前職は自動車整備士だったと著者プロフィールには書かれていた。自身の恋愛体験や婚