観に行く予定の舞台が中止になったので

新しい「好き」を見つけたかった話をしようと思う。


チケットを購入していた舞台が中止になった人間がぼんやり思ったことを書くだけです。中止理由はお察しの通り今の社会情勢だけど、今回はそこについて言及したいわけではないので割愛する。


3月上旬、舞台を見に行く予定だった。
チケットを購入した理由はただ1つ、最近気になっている俳優が出るから。その彼を知ったのは昨年のことで、知人が誘ってくれたとある公演に出演していたことだった。そこでの姿に惹かれて、正直それまで名前どころか存在すら知らなかったが、帰りの電車ですぐに彼のSNSをフォローした。

そこから、数日に1度更新されるSNSの投稿や、YouTubeに上がっている動画を見て、もっと彼が気になった。次に舞台に出演することがあれば観に行こうと思った。

そして2月に入り、彼が舞台に出るとの告知があった。迷わずチケットを購入し、来たる公演日が毎日楽しみだった。昨年彼を観たのは演劇の公演ではなかったから、今回が私にとって初めて彼の演技を観る機会になる、はずだった。


彼はどんな演技をするんだろう、どこに重きを置くんだろう、役に入るとどのような表現をするんだろう、どんな表情で、声で、姿勢で。

また公演自体にも期待があった。元々観劇は好きな方だったが、今回の公演は私が今まで観に行ったことのある舞台とはテイストが異なるので、どんな形式で物語が進んでいくのかとか、どういう演出があるのかとか、期待でいっぱいだった。


観に行くことで、その期待が「好き」に変わるかもしれなかった。どんな演技をするのかな、どんな物語の進み方なのかな、という期待が実際観ることによって彼のこの演技が良かった、この演出が好み、と好きという感情に昇華するかもしれない。

でも、現実、その公演は中止になって私は観に行くことができない。彼の演技や、その公演の他シリーズはこの先観る機会があるかもしれないけれど、「彼を含める全出演者が演技をするその公演」は、もう一生来ない。2020年3月に、私の期待が好きに変化する可能性は無くなった。

変な話、観に行ってみて期待が好きに変わらないことだって無くはない。ただ、「観た上で期待が好きに変わらなかった」と「そもそも期待が好きに変わる機会がない」というのは全くの別物なわけで。


長々と書いてしまったが冒頭に戻ると、私は期待が好きに変わる可能性がある機会が欲しかった。彼のことを更に好きになるかもしれなかったし、今回の公演のような形式に興味を持つかもしれなかった。もっと言うと、そこに出演している別の出演者が気になることだってあったかもしれない。エンターテインメントを観ることには、そういう沢山の可能性があるんだと思う。

いち早くそれぞれに日常が戻って、「好き」という可能性を秘めた機会に対して期待を持つ人々が、何の不安も抱えずに行くことができるようになりますように。


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