嫌い
「俺はあいつが嫌いだ」
こう思うことをずっと禁止して生きてきた。
思っても、思ってないことにしてきた。
そうして嫌いな奴に気に入られようとして、自分自身でいることをやめた。
嫌いな奴への敵意、攻撃性も、無意識のうちに抑圧した。
それが俺の悩みや生きづらさの原因であった。
何故か俺だけ注意を受ける。
原因は分からない。
俺の態度が悪いのか、人相が悪いのか。
何かミスがあったからか、何か気に入らないことをしたのか。
分からない。分からないが、原因はどうでもいい。
ここで俺が、俺自身を責める。これが問題である。
俺の態度が悪いんだろう、俺が気に入られていないんだろう。
そう思って生きてきた。
そう思った俺が、自分を責めて自分自身でいることをやめた。
自責、他責ということではない。
自分自身でいることをやめた。ここが問題である。
俺は、自分の好みで評価を変える奴が嫌いだ。
俺は実績で判断する。結果で判断する。
そういう価値観がある。
だから、その価値観から外れることをされるのが嫌いだ。
理解が出来ない。腹立たしい。
そういうことをされると、はらわたが煮えくり返る。
明らかにおかしい。何故か俺だけが注意を受ける。
ここ気をつけて、と揚げ足取りのような苦言を呈される。
そんな折、以前俺が注意されたことを、そいつと仲の良い奴がやらかしていた。
どうなるんかな、と思った。
お咎めなしだった。
なんにも無し。
なんにも。
何もねえのか。
何もねえのかよ。
お前正気か?頭大丈夫かよ。俺はそう思っている。
思ってないと思っていたが、俺はそう思っている。
はらわたが煮えくり返る思いだった。
頭おかしいんじゃねえのかてめえは。そう思った。
あいつには何もなしなのか。何もなく進むんか。
笑ってんじゃねえよ、くだらねえことで笑うな。
俺にその笑い声を聞かすな。
視界にも入るな。イラつくんだよ。
俺は駄目だったのに、なんであいつはいいんだよ。
あいつは仕事も遅い、私語も多い。大事なとこを見落とす。
クソが、そこじゃないんだよ。そんなとこどうだっていい。
なんであいつはいいのか、奴はそういう、仕事の良し悪しで評価してないってことだ。
好き嫌いで評価してやがる。好きなら見逃す、嫌いなら叩く。
俺はそういうことをする奴が嫌いだ。
めちゃくちゃ嫌いだ。そこにいるだけで腹立たしい。
こうまで思っているのに、この怒りや攻撃性を抑圧して生きてきた。
俺の、こういう奴は嫌いとか、こういうことで判断する、という価値観を捨ててきた。
無かったことにした。無いことにした。
自分自身でいることをやめた。
仕方のないことだと思ってきた。
よくあることだと、こんなことで怒るのは馬鹿らしいと。
賢く生きていこう、そう思ってきた。
そして、そういう奴らのお気に入りになると決めた。
奴らと仲良くなれば注意されないのだと考えた。
そうなるために、自分を変形させていって、ついにグロテスクな俺が出来上がった。
奴のお気に入りになるのは無理である。
こういうのを無理な努力と言う。不純な動機と言うんだ。
気に入られたとしたって、それは俺じゃない。
奴のために作った俺である。俺自身ではない。
そんな俺を認められたとして、ますます自己不在感が募る。
俺の価値観や、俺の存在が駄目なものであるという考えが強化される。
奴のお気に入りのあいつはよく笑う。色んなことに興味を持つ。
色んな人に話しかけて、色んな情報を持っている。
色んな人と仲がいい。愛嬌がある。何をやっても許される。
俺もこうなろうとした。無理である。
気に入られようとする努力。見返そうとする努力。
これらは無理な努力である。
立派な人になる。年収1000万になる。
これを「そうなりたい」と思って努力するのであれば、無理ではない。
人は自己実現欲求に向かえば頑張れる。
自分自身の動機であれば努力は楽しい。いずれ実る。実るまでやる。
しかし努力の動機が「気に入られたい」「見返したい」では無理である。
自分自身ではなくなる。ただ燃え尽きる。
俺は好みで人の評価を変える奴が嫌いだ。
そして、奴のお気に入りであるあいつも、俺の劣等感を刺激するから嫌いだ。
嫌いだ。嫌いなんだ。許容出来ない。無理。
じゃあどうすればいいのかって話だ。
奴が嫌いだと思えればいい。俺がこの感情を吐ければいい。
それだけでいい。それだけで救われる。
俺は奴のことが嫌いで、とても腹が立った。
あいつも嫌いだ。俺はあいつにはなれない。
嫌いだ嫌いだ。俺を不快にする奴ら全員嫌いだ!
それを吐き出せれば、それで終わる。
お前正気か?頭大丈夫かよ。俺はそう思っている。
思ってないと思っていたが、俺はそう思っている。
はらわたが煮えくり返る思いだった。
頭おかしいんじゃねえのかてめえは。そう思った。
明らかにおかしいのである。
俺はちょっとした注意を受けただけである。
そして奴のお気に入りには注意がされなかっただけである。
ここまで腹立たしい思いを抱く必要がない。
状況に不釣り合いな激情を抱いている。
そこにいるだけで腹立たしい、とまで言っている。
「あいつ嫌いだわ、好き嫌いで評価変えるから」
ちょっと注意を受けたくらいでは、一般的にはこれくらいのものである。
だが今まで生きてきて、攻撃性や敵意をこれでもかと言わんばかりに抑圧してきた。
抑圧してきて、ちょっとしたことで"はらわたが煮えくり返る"ほどになっている。
小出し小出しに吐き出せていれば、こうまでなっていない。
だが、「あいつ頭おかしいんじゃねえのか」こう思うのが俺である。
「あいつ嫌いだわ」で済んでいれば俺ではない。
ここが大事である。
「あいつ頭おかしいんじゃねえのか」とまで思ったのが俺である。
一旦終わる。
またじっくり書きたくなったら書く。