望まれてない

なんとなく、望まれてねえなあ、と思うことが多かった。
最初はまあ、出来婚の件である。
その次、友だち。友だち未満。
そして小五、六年の担任。
俺はことごとく、俺にとって嫌な奴らに囲まれて生きてきてしまった。

小学生の頃は神童だった。
背が高い。足速い。運動出来る。勉強も出来る。
高校で成績最下位だった俺が、この頃は学年上位だった。

能力と、ポテンシャルが高かった。
だがそれを、誰からも望まれてねえな、と思っていた。
何でなんだろう。何故俺は潰されたんだろうか。

体育の授業で、なんかのスポーツ大会に向けた練習をしていて、俺が入るチームは必ず勝った。
何回かチーム替えをしても、俺がいるチームが勝った。
勝因が俺にあると突き止めた担任は、俺が負けるまでチーム編成を変え続けた。
お前それはさすがに、というところでやっと負けた。

ポジティブな雰囲気ではなかった。
「強いね~!どこまでいけるか試そうかな~?」という雰囲気であれば、俺も楽しめた。
そうじゃなく、お前それはさすがに、だ。
明らかに俺を潰そうとしているのが伺えた。
周りの子も、担任がムキになっている姿に引いているような、そういう雰囲気があった。

俺の能力や、俺自身、望まれてねえな、という確信がある。
お前がいて助かる、みたいなのがない。
だから俺は必死に「スーパーとか床屋とか、俺から対価を得る相手は助かってんだろ」と言い聞かせる。
でも「対応すんの面倒くせえだろ。相手は俺の金なんかいらねえよ」と論破されて負ける。

俺がいて助かる、そういうことで想定するのが、対価を払う相手だ。
あ、なんか寂し、と思う。
寂しいから、必死に違う相手を探すが、俺がいて助かる人、なんてのはいない。
マジでいない。俺は人を避け続けてきた。
俺も、この人がいて助かる、はない。

こんなのは、考えてはならないことだ。いや考えなくていいことだ。
俺がいて助かる人、のことなど普通考えない。
そういう人がいるから何だよ、という話でもある。俺はそこに価値を置いてない。
そこに価値を感じない人間が、人助けなどしようと思っても無駄だ。
寂しい人間関係しかできない。

あー、違う。人間関係ってのは、人助けや対価の支払いじゃねえよ。違う。
俺は、山本がいて助かった。
何故助かったのか、それはなんか、ほっとするから。
山本となら、俺でいていいから。
山本は俺に期待してくれるから。
山本も、俺が俺であることでなんか、ほっとする。
山本も、俺となら自分自身でいられる。
こういうのだ。対価や人助け、じゃない。
一緒にいてなんか落ち着く。自分自身でいられる。そういう人がいれば、助かる。
いるだけで救われる。

何故俺が潰されたのか。
お前はお前でいるな、というメッセージを受け取り続けたから。
ずっと俺として過ごせなかったから。
誰も俺に期待してなかったから。
そういう確信を、俺が築いてしまったから。
だから潰れた。そういうこった。

望まれてねえからなんだよ。
それでも生まれてきたんだ俺は。
俺を望まねえ奴など知るかよ。
クソ。寝る。山本を強めに抱きしめて寝る。