ディズニー「ズートピア」に騙されるな!

産経ironnaのサイトが終了していることに気付いたんで、こっちに再掲。公開当時、「ズートピア」でグーグル検索するとディズニー公式サイト抜いてトップにこの映画評が出てきたw。産経ironnaのサイト開設以来2番目のビューを稼いだ!とかって喜んで頂いて、名古屋から東京に一泊新幹線旅行分の経費貰って編集部総出でパーティー開いてくれた。その分原稿料で貰いたかったw。何度も東京や大阪に遠征して繰り返し見たんで完全に赤字だったんでw。

 映画「ズートピア」の人気が止まらない。ツイッター等ネットでの反応を見ても、下手をすると十回も見まくった方もいるようで、二回三回繰り返し見るのが当たり前になっているという大人気ぶりだ。かく言う私も、名古屋から大阪東京に遠征してまで既に7回も見てしまった。

『ズートピア』V3達成 カメのごとくスローペースで60億円も視野に
http://www.oricon.co.jp/news/2072143/full/

『ズートピア』予告編(ユーチューブ)
https://www.youtube.com/watch?v=XFLtHhqjTuY

 人類が存在せず肉食獣と草食獣が仲良く暮らす超近代都市ズートピア。そこから300km以上離れた田舎町に住む主人公の少女うさぎのジュディはそんな理想郷での生活を夢見て努力し、見事うさぎ族初の警察官になる……と言うところから始まる物語だ。一見ありふれたお話に聞こえるので、ズートピアに「所詮子供向けアニメだ」という偏見をお持ちの方々からアナと雪の女王を遥かに上回る面白さの秘密は一体どのあたりにあるのかとよく聞かれる。その最大のポイントを簡単に言うとこうだ。

「差別や偏見を捨て去ることでどれだけ世界の見方が広がり、人生が豊かになり、日々が楽しくなるかを興奮とともに実体験させてくれる」

 サヨクやリベラルはよく、「差別は正義に反するからやめろ!」「偏見を持つのは良くない」などと偉そうに説教をしつつその実平気で差別するどころかテロ等の暴力さえ振るうが、ディズニーはそんな傲慢でつまらん連中とは大違いだ。なんと「差別や偏見を無くすことはこんなに楽しいことなんだよ、得をすることなんだよ、面白くて気持ちの良いことなんだよ」とたった約二時間の上映時間で体感させてくれるのである。
 しかしこの「差別をなくすことの楽しさ」は、最初に見終わった時すぐにはなかなか気付けない。数日経って「あれ?あそこで描かれていたのはどういうことだったのだろう」と振り返り家族や友人と話し合うことによって、徐々に見えてくることなのである。

 この映画の登場人物(登場動物?)である狐のニックは「詐欺師と呼んでくれ」と言って主人公のうさぎ警官ジュディを怒らせるが、各種インタビュー記事等を見ると、ディズニーもまるでニックのごとく、観客を騙す気まんまんでこの映画を作っていることがわかる。そこに気付かぬ観客は本作を「ディズニーのいつもの子供向けの楽しい冒険活劇」としか感じられず映画館をあとにすることになる。
 それよりも少しマシに深読みできる大人でも、ディズニーの罠に気付かなければ、せいぜいこう感じて感動し号泣するだけであろう。

「強い肉食獣の支配に対し弱い草食獣のうさぎが挑戦し、見事お互いに和解をする物語」であると。
めでたしめでたし。

それ、見事ディズニーに騙されてますから!

 どういうことか。ズートピアを初めて見る観客のほとんどは、いくつかの偏見や差別心を持ってスクリーンの前に座る。その一つが「肉食獣は強いので、弱い草食獣を虐げている」という偏見だ。ディズニーはこの我々の差別心を極めて巧妙に利用しているのだ。
 映画を見た方は、よーく思い起こしてみて欲しい。ライオンの市長にこき使われていた羊の副市長は、「草食獣は肉食獣の約10倍の人口」と言っているではないか。しかもズートピアは民主政だ。さらに言えば、進化した結果今や肉食獣は草食獣を捕まえて食べているわけではない。暴力とは無縁なのだ。それどころか心優しくさえある。むしろ草食獣の方が凶暴でいじわるだったりする。ということは、ズートピアでモノを言うのは有権者の頭数、票数なのである。
 「肉食獣は強くて草食獣は弱い」という偏見に囚われているとそれに気付かないどころか、「肉食獣=恵まれたアメリカ白人、草食獣=不遇のアメリカ黒人」と思い込んでしまう。ところが実はズートピアにおいては逆に、肉食獣はアメリカにおける黒人同様少数派マイノリティであり、草食獣が圧倒的多数派の強者、つまり白人なのだ!
 ライオンが市長として登場ししかも傲慢な性格であると描かれていることもあり「暴力とは無縁な民主政治の世界でも肉食獣が強い」と勘違いしてしまうが、実は草食獣である羊族(白人)に媚を売って副市長に任命し票を取り込まないと肉食獣(黒人)は市長になれないのである。特にサヨク諸氏からは傲慢なライオン市長をブッシュ大統領に重ねてイメージする感想も聞かれるが、彼はむしろオバマ大統領なのだ。
 それだけではない。本作におけるテーマの一つは「差別問題」であるのだが、実は作中で差別をしているのは肉食獣ではない。草食動物こそが「肉食獣は大昔我々草食獣を食べていた」という恐怖心から来る偏見で、ライオンや狐、シロクマ等肉食獣を差別する側なのである。例えば狐のニックは幼い頃から草食獣に差別され続けた結果定職にも就けず詐欺師をやっている。街でアイスを買おうとしても、草食獣である象の店主に差別され販売拒否をされる。肉食獣は強者どころか、被差別弱者マイノリティなのである。
 作中の企業や店舗、警察からマフィア等各種組織のリーダーや長の顔もよく思い起こして欲しい。その殆どが草食獣であり、肉食獣のリーダーはせいぜい市長のライオンぐらいしかいない。銀行等金融を支配するのは小さなネズミのレミング達、iPhoneのアップル社ならぬキャロット社は恐らくうさぎ社長。背広を来て歩いているのも殆どが草食獣であり、肉食獣は差別されホワイトカラー等頭脳労働からは締め出されており、ブルーカラーやマフィアの下っ端に甘んじている世界がズートピアなのである。花屋さんになりたいと夢見ても、街中に堂々と華やかな店舗を持てる草食獣と異なり、肉食獣はマフィアと取引するしかない。
 そんな肉食獣不遇の世界の中でライオン市長は、草食獣への妥協や取引によってやっとその地位を獲得できた、恐らく初の肉食獣出身市長なのだ。オバマ大統領なのだ。
 だいたい、主人公のうさぎのジュディが働くこの世界唯一の暴力装置である警察のワッペンにはサイがシンボルとして描かれている。つまり我々の思い込みと異なり、治安を守ってきたのは肉食獣ではなく、大型草食獣であるという事実が示唆されている。ジュディの上司の署長も当然草食獣のバッファローである。
 後半に登場する「最終決戦」の舞台である博物館の展示にも注意すると、興味深い事実が色々と見えてくる。民主政以前の王政においては肉食獣ではなく草食獣の象が王であったらしいし、石器時代に槍を発明したのは草食獣であり、「素手」の肉食獣をうさぎ等が集団で武装し狩っていたのだ。まるで帝国主義の時代にイギリスの白人がアフリカの黒人を近代的な武器で打ち破り植民地を獲得し支配してきた歴史のように。
 実際ディズニーは制作当初は、肉食獣=被差別マイノリティであるという描写をもっとドギツくおこなっていたらしい。肉食獣はなんと、興奮すると電気ショックで懲罰される「テイム・カラー」という首輪をつけられているという設定だったというのだ。

‘Zootopia’ Directors Explain How The Movie Evolved From A ‘James Bond’ Parody [Exclusive Interview]
http://www.slashfilm.com/zootopia-directors-interview/

 ディズニーによる詐欺を見抜き、この「肉食獣こそが実は被差別弱者マイノリティ」であるという事実に気付くことができると、物語は180度全く違うものに見えてくる。そしてもう一度見直すべく映画館に足を運びたくなること必然だ。
 映画は少女時代のうさぎのジュディが主役を務める「人権啓発劇」から始まる。「大昔肉食獣は草食獣を捕まえ食べていた。しかし動物たちが進化した今、みんな仲良くズートピアで暮らし、うさぎでも警官になれる、誰でもなりたいものになれる」と。しかしそれを見ていた狐の少年ギデオンは、彼のいじめを止めようとしたジュディを「昔俺たち狐はお前たちうさぎを食っていたんだぞ!」と脅して襲い、「お前なんかが警官になれるわけがない」と言い捨てる。
 最初にこの場面を見た我々観客は、「強者である狐のギデオンが、弱者で草食獣である主人公のうさぎのジュディをいじめた!ひどいやつだ!」と感じてしまうに違いない。だが……

それ、見事ディズニーに騙されてますから!
自分は差別や偏見とは無縁だと思い込んでいたあなた、見事に肉食獣差別主義者ですから!

 この映画は差別について直接には多くのことを語らない。セリフの表面だけ聞いていたら「ズートピアが語る真実」について何もわからず終わる。逆にさりげないポスターや風景などの描写に実は極めて重要な意味が込められているので注意深く見る必要がある。
 例えば、冒頭にジュディが故郷の田舎町の駅で両親と275匹の兄弟!とさらに親類縁者に見送られズートピアに旅立つシーン。普段善良な父親が「肉食獣、特に狐に気をつけろ!」と差別心丸出しで娘の身を案じる。そして気付かない観客が多いと思うが、町の看板をよく見ると、うさぎの人口はなんと810万匹以上表示されている!(注:ミス。正しくは8100万匹w)。
我々は「田舎町」という言葉に対する偏見で騙されてしまっているが、これでは近代都市ズートピア以上の「州」いや「国家」だ。そもそも町名からして「バニーバロウ(うさぎの巣穴)」であり、うさぎこそが支配種族なのだである。
 実際人権啓発劇のシーンを思い起こすと、ジュディは両親兄弟一家総出で娘の観劇に来ているのに、狐のギデオンはひとりぼっちだ。客層もギデオンとその友人の計2匹以外は全て草食獣。この町において肉食獣は圧倒的マイノリティなのである。しかもうさぎたちは狐を差別し一緒に仕事をすることを嫌っているという描写もある。つまり、ギデオンの親は無職あるいは低所得非正規労働者である可能性が高い。そして息子と一緒に町のお祭りの観劇に来られないほど祝日も忙しいか、あるいはネグレクトされている可能性さえある。ギデオンが草食獣の子供たちから奪ったのも、彼らが来ていた「にんじん祭り」の屋台で使える金券らしい。ギデオンの親は、息子にお祭りで楽しむ小遣いさえ与えられぬ境遇なのである。
 ギデオンがジュディを脅した文句にも注意する必要がある。肉食獣が進化し草食獣を襲わなくなったこの映画の世界において、ギデオンがジュディに用いた「昔俺たち狐はお前たちうさぎを食っていたんだぞ!」という脅しが成立した理由は何か。決して狐の凶暴な本能とうさぎの臆病な本能が理由ではない。二人が反差別政策としての人権啓発劇を見せられたからだ。劇のせいでギデオンは「そうか、貧しく仲間も少ない弱者の自分でも、昔のご先祖は強かったのだから、豊かで数が多い強者のうさぎたちを脅せるのか」と学んでしまった。ジュディだって劇を見せられなければ、ギデオンに「食っちゃうぞ!」と脅されても「え?動物が動物を食べるなんてどこのホラー映画のお話?」とでも感じるだけで、怯える理由など何もないのである。つまり、日本やアメリカでもサヨクやリベラルが唱えている反差別という正義のお題目が、ズートピアにおける差別や偏見、いじめや対立を作り出していたのである。
 そうしたことを踏まえると、「強者である狐の乱暴者ギデオンが、主人公の弱者で草食獣であるうさぎのジュディをいじめた」という解釈がいかに偏見にもとづいた間違った思い込みであったかということに気付くだろう。詐欺師ディズニーが巧妙に隠していた正解は「強者のうさぎに差別され親にまともな職もなく家庭でネグレクトされてきたマイノリティの狐(黒人)が、差別的な草食獣(白人)による偏向教育で脅迫の方法を学びそれを武器にし抵抗した」というものなのだ!
 ズートピアのプロデューサーは、「主人公を含む全てのキャラクターに偏見を抱かせることが、とても重要だった」と語っている。しかしその「全てのキャラクター」には、実は我々観客までもが含まれているのである。

映画『ズートピア』:クラーク・スペンサー(プロデューサー)&ジャレド・ブッシュ(脚本/共同監督)ロングインタビュー
http://top.tsite.jp/entertainment/cinema/i/28566791/

 ズートピアにはこれ以外にも、ディズニーが客の偏見や差別心を利用して「真の意味」をわざとわかりにくくしている所が山のようにある。我々観客は、「肉食獣は強く草食獣は弱い」「サバンナはアフリカの遅れた地域」「マフィアのボスは大男」等の偏見を持って生きており、そして映画館にズートピアを見に来る。そうした各種の偏見を捨てていくことによって本作の隠された「真の意味」を次々と発見して楽しみ興奮することができるのである。
 言い換えるとズートピアは、観客に「偏見を捨てて見ないとこの物語の真の面白さに気付けないよ」と強いる作りになっているのだ。そして我々がそれに気付き偏見を捨て面白さを知ったという快感を実際に体験させることで、「差別や偏見を捨てるとこんなに面白いし世界の見方が広がったでしょ?」と微笑みかけているのである。
 差別をやめた時の快感を実感できる映画などというものがこれまであったであろうか?ズートピアはそれほど凄い作品なのだ。

 ズートピアがサヨクやリベラルに対するアンチテーゼになっている点は他にも多いし、アメリカの実際の人種差別問題に重なる描写も溢れている。例えば物語のキーを握る羊族は実は、よーく見るとただの草食動物(白人)ではなく、同じ白人でもネズミやうさぎ等WASPに比べて恵まれぬプアホワイトを表しているらしい。つまり、一見単純な「肉食獣vs草食獣」の差別問題を描いているように見える本作であるが、実はそんな簡単な話ではないのである。本来の敵は豊かな草食獣(白人)なのに、より弱い被差別マイノリティの肉食獣(黒人)を敵視しKKKのような組織まで作ってしまうというやりきれぬ哀しさ。差別問題の深刻さを示すそんなプアホワイトの姿まで盛り込んでいるのだから徹底している。
 このように、ズートピアには現在進行形の社会問題にダイレクトに繋がる描写が満ち溢れている。今アメリカ大統領選にて吹き荒れているトランプ旋風を説明することさえ可能だ。そうした隠された真実を一つ一つ探り発見していく快楽の強烈さで満たされているのがズートピアなのだ。

 ここまで読んで頂き、あなたが詐欺師ディズニーの仕掛けた罠を見破る悦楽に浸りたくなったのならば、今すぐ映画館に足を運んで欲しい。
 そしてズートピアを見終わった方は、ネタバレゆえに本稿では書けなかった数多の真実を私のツイッターでつぶやいているので、是非訪れて、自分に偏見がまだ残っていないかどうかチェックしていただきたい。「やっぱり差別や偏見はいけないよね」と感動し泣きながら映画館を出てきたはずのあなたでさえ「え、自分はまだこんなに偏見にまみれていたのか!無意識の差別心は怖い!」とショックを受けるに違いない。

 無論以上の考察は「多様性」を重んじるディズニー作品についての私的な一仮説に過ぎない。十人十色、見る人によってまた違う解釈が出てくるに違いない。うさぎと狐が全く同じ考え方をする必要などない。ズートピアで暮らす動物たちのように、みんな違って良いじゃないか!

 いずれにせよディズニーはこう言ってあなたを待っているのだ。「差別と偏見を捨てないと、僕らが作った夢の国ズートピアに入れてあげないよ!」と。

ズートピアに関する興味深い考察。肉食獣は本当に強者なのか? - Togetterまとめ https://t.co/sf2omZdScK

中宮崇「ズートピア」ツイートまとめ
https://t.co/11L5QdOrTe

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