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出勤初日、机にパソコンがない

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シンガポール出勤初日、私は母に息子を託してオフィスに向かいました。緊張のあまり、心臓がいつもより早く動悸しているのが自分で分かりました。

それは、シンガポール拠点における2泊3日の社員旅行の翌日でした。社員を2つのグループに分け、別々の日程でベトナムに行ったそうです。私の上司になる人は、後半グループに属していました。そして、そのグループで、大規模な食中毒が発生したのです。ベトナムの最終日にビュッフェで出たサラダが原因だろうということでした。

私がシンガポールで初めて出勤した日、上司は、食中毒のため診療を病院で受けていて、オフィスにいませんでした。

上司の秘書が、私の席を教えてくれました。その机には、パソコンも、電話も、筆記用具も置いてありませんでした。周りを見ると、幸い、隣の席に人が座っていました。私がその男性に笑いかけると、彼も笑い返してくれました。

オフィスに足を踏み入れて初めて、少しだけほっとした瞬間でした。

彼と相談し、必要と思われるものをリストにして秘書に渡しました。そのあとは、もう私にオフィスで出来ることはなく、隣の男性と秘書に断ってオフィスを出ました。銀行口座を作ったりビザをもらいに労働省に行ったり、オフィスの外にならやることがたくさんあったのです。

私がその日オフィスにいたのは結局、1時間足らずでした。

早々にオフィスを出ながら、私は頭をかしげていました。上司が食中毒でいないのは突発的な出来事だとしても、人事からのオリエンテーションが出社初日にないのはどうしてだろう?普通は少しぐらい事務的な説明があるものじゃないかな。それに、机にパソコンもないっていうのもすごいぞ。誰かが出社したら、普通、最初に必要なのがパソコンだと思うんだけど…。

徐々に分かってきたのは、シンガポールはそういう場所だということです。例えばエアコンが壊れたとします。電話で修理をお願いします。時間になっても修理の人は来ません。再度電話をします。あ、ごめん、ごめん、それって明日じゃなかったっけ?と言われます。そして最悪の場合、明日になっても来ません。

あるいは銀行で口座を作ります。パンフレットも説明書もなく、口座番号だけを何かの裏紙に書いてくれます。あとはインターネットで見ろと言い、そのURLさえ教えません。これでは分からないと言っても、窓口の担当者は簡単な説明さえしようとしませんでした。

実は、国際的に見て特異なのは、むしろ日本かも知れません。宅配で荷物の配達時間が指定できるのは、私の知る限り日本だけです。私たち日本人は全てが予定通りに進むことに慣れています。しかし、一歩日本の外に出れば、世界は日本とは違うリズムで動いているのです。私が当然だと思っていた日本式のきめ細やかなサービスは、決して世界標準ではないことを思い知らされました。

幸い、上司は翌日には出社してきました。3日後には、私の机にパソコンがやってきました。

心ひそかに「ぜんぶ嘘でした。このまま、日本に帰ってください。」と言われたらどうしようと心配していたので、徐々に机に備品が揃っていくのが私にはとても嬉しかったです。

ここで、今回の教訓です。

「日本の常識は世界の常識にあらず。不測の事態にもおおらかに構えたい。」

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