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電脳化ワクチンの実現可能性

オプトジェネティクス(光遺伝学)のブレインテック応用について可能性を検討してみました。個人的には行けそうという結論に至ったのですが、研究者ではないのでツッコミどころは満載だと思います。

まず方法論としてはウィルスベクターを用いた遺伝子治療法で中枢神経系の神経細胞にチャネルロドプシンをはじめとするオプシンタンパクを導入します。ウィルスに封入したDNA(光センサの設計図)が脳細胞に取り込まれるとそれを元にタンパク質が発現し(光センサが細胞内で製造され)、眼や耳などの感覚器官を介さずとも映像や音声を脳に直接送信できるようになります。その際主要な課題は①血液脳関門(BBB)の透過率②神経細胞への導入率③発現効率の3つくらいです。これ以外にも免疫反応抑制や長期安全性などの問題があります。ウィルスベクターの候補としては今のところアデノ随伴ウィルス(AAV)が最も有力視されているようです。

①のBBBに関してはAAV9の変異体でマウス全脳での発現が確認されています。ただ霊長類の場合血管内皮細胞に結合部位(LY6A)がなく脳の一部にしか導入されないようです。この問題はAAVの外殻タンパク(カプシド)の配列を適切に設計する事で解決する可能性があります。また2歳未満だとBBBが発達していないので静脈注射で全脳に導入出来ると言われています。その他には静脈カテーテルから大槽という脳室の一部に穿孔して入れる方法があるようです。この方法はヒツジを使って全脳での発現が確認されており、ヒトではTay-Sachs病への治験が4年前に実施されています。まだ公表はされていませんが長期観察結果が気になるところです。静脈カテーテルから微小穿孔(AAVのサイズは25 nm)する方法であれば健常者にも適用可能かも知れません。またウィルスベクターのサイズの制約がなくなるのでAAV以外のベクタにも拡張出来る可能性があります。勿論BBB透過性のAAVカプシドの配列が見つかれば注射一本で済んでしまいますが。
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758122474/10.html
https://www.cell.com/molecular-therapy-family/molecular-therapy/pdf/S1525-0016(19)30508-8.pdf
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/results/NCT03580083?view=results
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/results/NCT03566043

②の導入効率についてはDyno TherapeuticsというMITのお膝元にあるスタートアップがまさにこの問題に取り組んでいます。ウィルスとはDNAを含んだカプセルであり、このカプセルは複数のタンパク質の部品(カプシド)から構成されています。カプシドの表面には細胞を識別するタグが付いています。細胞はこのタグを読み込んで中に取り込むか排除するかを決めます。カプシドのDNA配列をうまく設計すれば神経細胞だけにウィルスを感染させたり導入効率を上げる事が出来ます。Dyno Therapeuticsは機械学習を使ってAAVのカプシド配列を設計しています。AIでDNA配列を設計→AAVを製造→培養神経細胞に感染させて導入効率を算出→そのデータを元にAIを再学習というサイクルを回す事で配列を最適化し導入効率を高めていく開発手法のようです。Dyno Therapeuticsは日本のアステラス製薬とパートナーシップを組んでおり、AAVのDNAとワクチン製造工程をDyno Therapeuticsが設計し、ワクチン製造・動物実験と臨床試験をアステラス製薬が担当する事で開発から臨床応用までがシームレスに繋がる取り組みになっています。
https://www.dynotx.com/careers/?gh_jid=4777443003

③の発現効率に関しては機能タンパクの発現(光センサの製造)を調整する発現カセットあるいはプロモータと呼ばれるDNA配列を最適化する必要があります。DNAはいわば全体設計の原本であり、その一部を参照して各部品の図面コピー(mRNA)がたくさんの部品職人に配られます。このコピーの数が多いほど生産されるタンパクも増え発現効率は上がります。発現カセットは原本の中で部品に関する情報が含まれている個所を示すマーカーのようなものです。このマーカーがはっきりと見える(転写酵素が強く結合する)方が部品図面が複製される確率が上がります。発現カセットの配列を深層学習にかけると82%の精度でmRNAへの転写効率を予測できるという研究もあり、このようなツールを駆使する事でAAVのカプシド配列と同様に発現カセットも設計出来ると考えられます。
https://www.nature.com/articles/s41467-020-19921-4
https://molecularbrain.biomedcentral.com/articles/10.1186/1756-6606-7-17

個人的にはウィルスに感染させるというワードが拒否反応の元になる気がするので、分子サイズの光センサとLEDのCADデータを脳にインストールし、細胞内部でそれらが3Dプリントされるくらいの表現にした方がいいと思います。パソコンでもウィルス感染とアプリのダウンロードは同じ現象ですし、腐敗と発酵のような表現の問題だと思います。全脳にAAVを導入した際の長期安全性に関してはまだ世の中にデータがないので何とも言えません。ひょっとすると本当に電脳硬化症を発症する人が出てくるかも知れないので、その時は全力で厚労省に抗議し、保険適用外でもセラノ・ゲノミクスのマイクロマシンではなく村井ワクチンを使いましょう(←ネタです)。

頭蓋骨の開頭や穿孔をせず非侵襲的に大脳皮質や脳深部にどうやって光を届けたり、そこの活動を測るのかというツッコミが来そうですが、その辺はホログラムを用いた波面造形法が利用出来そうです。
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aao5520#
https://www.nature.com/articles/srep13289#author-information



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