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ねこの声がする【私の小説の書き方】

いろんな小説の書き方って存在すると思うんだけど、ここはひとつ短文を書いてから遊びつつストーリーを展開してゆく手法を披露してみたいと思う。この手法、私は短編小説を書く際によく使っています。

さぁて題材は何でも良かったんだけど、ここはひとつ『ねこ』でいってみようか。まずはねこを使って作文する。

ねこの声がする。

よし、できた。句読点を含めたったの8文字。
お!いいんじゃないだろうか?
おそらくこれが私の考えうる最短の小説になるかもしれない。

べつに読者を馬鹿にしているわけではないよ。ねこという言葉を無限に展開させるための布石を打ったらこうなったのだ。もう一度書くね。

ねこの声がする。

読者であるあなたは何を想像するか?
ニャーンという鳴き声だろうか。だとするならここから数文字でそれを破壊しようと思う。

ねこの声がする。月明かりの陰からその黒いねこは私にしゃべりかけてきた。

どうだろう。これでこのお話は一気にファンタジー小説もしくは怪奇小説に展開される。『ねこが鳴いた。』ではこうは続かない。あくまで『ねこの声がする。』という一文だからこそなせる業である。私が最短の小説といった意味が分かるだろうか。

もうちょっと遊んでみようか。

ねこの声がする。月明かりの陰からその黒いねこは私にしゃべりかけてきた。それはそれは恥ずかしげに「こんばんにゃ、、」とねこが言う。ドギマギしながら私も挨拶を返す。「こんばん、、にゃ。」でいいのかな。正解は分からないが取り急ぎ語尾に『にゃ』を付けてみた。

ちょっとコメディタッチになってきたね。このまま続けてみようか。

するとねこは嬉しそうに私の足もとに擦り寄りノドをごろごろと鳴らした。どうやら敵意は無いようだ。恐怖心よりも好奇心がまさった私はそのままねこを抱き上げた。近くで見ると黒と思われたその毛色は綺麗な青みを帯びたものであることが分かった。

私とねこの距離を描写する。そして二文目で出てきた黒という色に鮮明さを加える。するとその瞬間このねこはよりくっきりとした表情をのぞかせ、結果として読者との距離をも縮めるのである。

さらに悪戯を施してみようか。その後ねこは一切の言葉をしゃべらないという設定を加えてみよう。

この不思議なねこをもう少し見ていたいと私は抱き上げたまま路地を抜け小さな公園のベンチに腰掛けた。月明かりよりもさらに明るい街灯の下、私はねこを撫でつつ話し掛ける。しかしねこは『ニャン』と鳴いたきりもう二度と人の言葉をしゃべることはなかった。しばらくするとねこは私の膝から飛び降りて、また月明かりの陰に隠れる様に消えていった。どうやら街灯の光は彼の住む世界ではなかったようだ。

以上、短いけれども一つのストーリーが出来上がった。これは極端な例だけれども私はこの短文から展開してゆく小説の書き方をよく使う。

ここのコメントを目にしてくれてるってことは最後まで読んでくれたってことですよね、きっと。 とっても嬉しいし ありがたいことだなー