屋良建議書

屋良建議書の文字起こし。冒頭から熱い。この思いを50年も繰り返させてきた絶対多数の人々よ。(かつての自分も含む。)何を感じるんだろう。
*転載コピー自由にどうぞ。
*引用 https://www.archives.pref.okinawa.jp/wp-content/uploads/R00001217B-1-1.pdf

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昭和46年11月

復帰措置に関する建議書 琉球政府

琉球政府は、日本政府によって進められている沖縄の復帰措置について総合的に検討し、ここに次のとおり建議いたします。

これらの内容がすべて実現されるよう強く要請いたします。

昭和46年11月18日

琉球政府

行政主席 屋良朝苗

1.はじめに

沖縄の祖国復帰はいよいよ目前に迫りました。その復帰への過程も、具体的には佐藤・ニクソン共同声明に始まり、返還協定調印を経て、今やその承認と関係法案の制定のために開かれている第67臨時国会、いわゆる沖縄国会の山場を迎えております。この国会は沖縄県民の命運を決定し、ひいてはわが国の将来を方向づけようとする重大な意義をもち、すでに国会のおいてはこの問題についてはげしい論戦が展開されております。

あの日悲惨な戦争の結果、自らの意志に反し、本土から行政的に分離されながらも、一途に本土への復帰を求め続けてきた沖縄百万県民は、この国会の成り行きを重大な関心をもって見守っております。顧みますと沖縄はその長い歴史の上でさまざまな運命を辿ってきました。戦前の平和の島沖縄は、その地理的へき地性とそれに加うるに沖縄に対する国民的な正しい理解の欠如等が重なり、終始政治的にも経済的にも恵まれない不利不運な下での生活を余儀なくされてきました。その上に戦争による過酷の犠牲、十数万の尊い人命の喪失、貴重なる文化遺産の壊滅、続く26年の苦渋に充ちた試練、思えば長い苦しい茨の道程でありました。これはまさに国民的十字架を一身にになって、国の敗戦の悲劇を象徴する姿ともいえましょう。その間大小さまざまの被害、公害や数限りのない痛ましい悲劇や事故に見舞われつつそしてあれにもこれにも消え去ることのできない多くの禍根を残したまま復帰の歴史的転換期に突入しているのであります。

この重大な時機にあたり、私は復帰の主人公たる沖縄百万県民を代表し、本土政府ならびに国会に対し、県民の率直な意思をつたえ、県民の心底から志向する復帰の実現を期しての県民の訴えをいたします。もちろん私はここまでにいたる佐藤総理はじめ関係首脳の熱意とご努力はこれを多とし、深甚なる敬意を表するものであります。

さて、アメリカは戦後26年もの長い間沖縄に施政権を行使してきました。その間にアメリカは沖縄に極東の自由諸国の防衛という美名の下に、排他的かつ恣意的に膨大な基地を建設してきました。基地の中に沖縄があるという表現が実感であります。百万の県民は小さい島で、基地や核兵器や毒ガス兵器に囲まれて生活してきました。それのみでなく、異民族による軍事優先施策の下で、政治的諸権利がいちじるしく制限され、基本的人権すら侵害されてきたことは枚挙にいとまありません。県民が復帰を願った心情には、結局は国の平和憲法の下で基本的人権の保障を願望していたからに外なりません。経済面から見ても、平和経済の発展は大幅に立ちおくれ、沖縄の県民所得も本土の約6割であります。その他、このように基地あるがゆえに起るさまざまの被害公害や、とり返しのつかない多くの悲劇等を経験している県民は、復帰に当っては、やはり従来通りの基地の島としてではなく、基地のない平和の島としての復帰を強く望んでおります。

また、アメリカが施政権を行使したことによってつくり出した基地は、それを生み出した施政権が返還されるときには、完全でないまでもある程度の整理なり縮小なり処理をして返すべきではないかと思います。

そのような観点から復帰を考えたとき、このたびの返還協定は基地を固定化するものであり、県民の意志が十分に取り入れられていないとして、大半の県民は協定に不満を表明しております。まず基地の機能についてみるに、段階的に解消を求める声と全面撤去を主張する声は基地反対の世論と見てよく、これら二つを合わせるとおそらく80%以上の高率となります。

次に自衛隊の沖縄配備については、絶対多数が反対を表明しております。自衛隊の配備反対と言う世論は、やはり前述のように基地の街としての復帰を望まず、あくまでも基地のない平和の島としてお復帰を強く望んでいることを示すものであります。

去る大戦において悲惨な目にあった県民は、世界の絶対平和を希求し、戦争につながる一切のものを否定しております。そのような県民感情からすると、基地に対する強い反対があることは極めて当然であります。しかるに、沖縄の復帰は基地の現状を堅持し、さらに、自衛隊の配備が前提となっているとのことであります。これは県民意志と大きくくい違い、国益の名においてしわ寄せされる沖縄県基地の実態であります。

さて、極東の情勢は近来非常な変化を来たしつゝあります。世界の歴史の一大転換期を迎えていると言えましょう。近隣の超大国中華人民共和国が国連に加盟することになりました。アメリカと中国との接近も伝えられております。わが国も中国との国交樹立の声が高まりつつあります。好むと好まぬにかかわらず世界の歴史はその方向に大きく波打って動きつゝあります。

このような情勢の中で沖縄返還は実現されようとしているのであります。したがって、この返還は大きく胎動しつつあるアジア、否、世界中の潮流にブレーキになるような形のものであってはならないと思います。そのためには、沖縄基地の態様や自衛隊の配備については慎重再考の要があります。

次に、核抜き本土並み返還についてであります。この問題については度重なる国会の場で非常に頻繁に論議されておりますが、それにもかかわらず、県民の大半がこれを素直に納得せず、疑惑と不安をもっております。

核抜きについて最近米国首脳が復帰時には核兵器は撤去されていると証言しております。ところが、私どもはかつて毒ガスが撤去された経緯を知っております。

毒ガスでさえ、撤去されると公表されてから、二ヶ年以上も時日を要しております。毒ガスよりさらに難物と推定される未知の核兵器が現存するとすれば、果して後いくばくもない復帰時点までに撤去され得るでありましょうか。

疑惑と不安の解消は困難であるが、実際撤去されるとして、その事実はいかにして検証するか依然として不明のまま問題は残ります。

さらにまた、核基地が撤去されたとしても、返還後も沖縄における米軍基地の規模、機能、密度は本土とはとうてい比較にならないと言うことであります。

復帰後も現在の想定では沖縄における米軍基地密度は本土の基地密度の150倍以上になります。なるほど、日米安保条約とそれに伴う地位協定が沖縄にも適用されるとは言え、より重要なことは、そうした形式の問題より、実質的な基地の内容であります。そうすると基地の整理縮小かあるいはその今後の態様の展望がはっきり示されない限りは本土並基地と言っても説得力をもち得るものではありません。前述の通り県民の絶対多数は基地に反対していることによってもそのことは明らかであります。

次に安保と沖縄基地についての世論では安保が沖縄の安全にとって役立つと言うより、危険だとする評価が圧倒的に高いのであります。この点についても、安保の堅持を前提とする復帰構想と多数の県民意志とはかみ会っておりません。県民はもともと基地に反対しております。

ところで安保は沖縄基地を「要石」として必要とするということであります。反対している基地を必要とする安保には必然的に反対せざるを得ないのであります。

次に、基地維持のために行なわれんとする公用地の強制収用五ヶ年間の期間にいたっては、これは県民の立場からは承服できるものではありません。沖縄だけに本土と異る特別立法をして、県民の意志に反して五ヶ年という長期にわたる土地の収用を強行する姿勢は、県民とっては酷な措置であります。再考を促すものであります。

次に、復帰後のくらしについては、苦しくなるのではないかとの不安を訴えている者が世論では大半を占めております。さらにドルショックでその不安は急増しております。くらしに対する不安の解消なくしては復帰に伴って県民福祉の保障は不可能であります。生活不安の解消のためには基地経済から脱却し、この沖縄の地に今よりは安定し、今よりは豊かに、さらに希望のもてる新生沖縄を築きあげていかねばなりません。言うところの新生沖縄はその地域開発と言うも、経済開発と言うも、ただ単に経済次元の開発だけではなく、県民の真の福祉を至上の価値とし目的としてそれを創造し達成していく開発でなければなりません。従来の沖縄は余りにも国家権力や基地権力の犠牲となり手段となって利用され過ぎてきました。復帰という歴史の一大転換期にあたって、このような地位からも沖縄は脱却していかなければなりません。したがって政府におかれても、国会におかれてもそのような次元から沖縄問題をとらえて、返還協定や関連諸法案を慎重に検討していただくよう要請するものであります。

さて、沖縄県民は過去の苦悩に充ちた歴史と貴重な体験から復帰にあたっては、まず何よりも県民の福祉を最優先に考える基本原則に立って、(1)地方自治権の確立、(2)反戦平和の理念をつらぬく、(3)基本的人権の確立、(4)県民本位の経済開発等を骨組みとする新生沖縄の像を描いております。このようなことが結局は健全な国家をつくり出す原動力になると県民は固く信じているからであります。さらにまた復帰に当って返還軍用土地問題の取扱い、請求権の処理等は復帰処理事項の最も困難にしてかつ重要な課題であります。これらの解決についてもはっきりした責任態勢を確立しておく必要があります。

ところで、日米共同声明に基礎をおく沖縄の返還協定、そして沖縄の復帰準備として閣議決定されている復帰対策要綱の一部、国内関連法案等には前記のような県民の要求が十分反映されていない憾みがあります。そこで私は、沖縄問題の重大な段階において、将来の歴史に悔を残さないため、また歴史の証言者として、沖縄県民の要求や考え方等をここに集約し、県民を代表し、あえて建議するものであります。政府並びに国会はこの沖縄県民の最終的な建議に謙虚に耳を傾けて、県民の中にある不満、不安、疑惑、意見、要求等を十分にくみ取ってもらいたいと思います。そして県民の立場に立って慎重に審議をつくし、論議を重ね民意に答えて最大最善の努力を払っていただき、党派的立場をこえて、たがいに重大なる責任をもち会って、真に沖縄県民の心に思いをいたし、県民はじめ大方の国民が納得してもらえる結論を導き出して復帰を実現させてもらうよう、ここに強く要請いたします。


2.基本的要求
(1)返還協定について
終戦依頼、沖縄県民は、本土に復帰する日のあることを固く信じ、あらゆる困難の克服しながら本土復帰を要求し続けてまいりました。そして、26ヶ年にわたる異民族支配の下で身をもって体験した幾多の苦難と試練を通して県民が最終的に到達した復帰のあり方は、平和憲法の下で日本国民としての諸権利を完全に回復することのできる「即時無条件かつ全面的返還」であります。また、これまでたえず軍事的に利用され、悲惨な沖縄戦をも体験した県民は、再びこのような状態に自らを置くようなことがあってはならないと、日頃から心に固く決めているのであります。これらのことは、沖縄の歴史と県民の心情を素直に理解しようとする気持ちがあれば、何人にも容易に納得できるところであります。
一昨年11月22日の日米共同声明によって沖縄の復帰は、1972年中に実現することとなり、目下その具体的な準備が進められつつあります。そして、すでに返還協定の調印も終え、日米両国議会においてその批准のための審議がなされつつあります。
わたくしたちは、佐藤総理大臣をはじめ日米政府当局が沖縄県民の苦労と心情を理解され、強い決意でこれまで米国との外交交渉を進めてこられたことについては、県民を代表して率直にこれを多とし、敬意を表するものであります。しかしながら、沖縄県民は、日米共同声明ならびに沖縄返還協定の内容には、けっして満足しているのではありません。これらの取りきめは、県民の要求を十分に満たすものではなく、現在県民の間には次の諸点について強い疑惑、不安、不満が抱かれているのであります。
その第一は、1969年11月の日米共同声明と沖縄返還協定によって、日本が極東における米国側の戦略体制下に組み込まれるのではないかという懸念であります。返還後沖縄は、日米安保条約の適用地域に含められることになっておりますが、共同声明では、「現在のような極東情勢の下において、沖縄にある米軍が重要な役割を果たしている」ことが認められ、また、「沖縄の返還は、日本を含む極東の諸国の防衛のために米国が負っている条約上の義務の効果的遂行の妨げとなるようなものではない」とも謳われております。さらに韓国の防衛について日本は、事前協議にたいし「前向きにかつすみやかに態度を決定する」ことを米国に確約しており、「台湾地域における平和と安全の維持も日本の安全にとってきわめて重要な要求である」と述べられています。
政府は、復帰後沖縄の基地は、日本本土にある米軍の施設区域と同じように、日米安保条約の目的に従って米軍に提供され、その枠内において使用されるのであるから、沖縄基地の役割も大きく変化する旨述べられておられますが、事前協議制度が弾力的に運用され、エースもノーもあり得るという政府の度重なる発言と、ジョンソン国務次官をはじめ米国政府高官の発言や証言内容とを考え合わせると、日米安全条約が本質的に変化したのではないかという強い疑惑の念を抱かざるを得ません。たとえばジョンソン次官は、日米首脳会談にたいする背景説明のなかで「朝鮮と台湾等に関する事前協議において日本政府が前向きにかつすみやかに態度を決定するということはたんに沖縄に関して適用されるだけではなく、日本本土南部の米軍基地に関しても同様に適用されるのであって、この点でなにがしかの変化があります。」と説明しております。さらに同次官は、日本はこれまで日本本土の安全だけを考えてきたが、今度の場合に周辺地域にも関連があることを認めるようになった旨の証言を行なっています。こういうことから、日米安全条約が質的に変化するのではないか、あるいは本土が「沖縄化」するのではないか、という強い疑惑が生じてくるのであります。もしこの疑念があたっているとしますと、沖縄県民の求めた復帰とは全く相反することになり、沖縄県民としても容認しえないものであります。
第二の疑惑不安は、「核」の問題であります。政府は、共同声明の第8項でニクソン米大統領が、日本側の説明に「深い理解を示し、日米安保条約の事前協議制度に関する米国政府の立場を害することなく、沖縄返還を、右の日本政府の政策に背馳しないよう実施する」ことを確約していること、さらに返還協定(第7条)で核撤去の費用を日本が負担することを定めたことを挙げて、核は沖縄から確実に撤去されることを説明されております。しかし、核の撤去の時期及びその確認方法はまだ明示されておりません。さらに重要なことは、核の有事持ち込みがあり得るのではないか、ということであります。ジョンソン国務次官は前述の背景説明で、「第8項は、特別の事態にさいし米国がもし必要と認めれば日本と協議を行なうという米国権利をきわめて慎重に留保しており、しかもこのことが核兵器に適用されることは明確であります。」と説明しております。ジョンソン次官の説明をまつまでもなく、ごく単純に考えても、もし事前協議においてエースもノーもありうるというのであれば、当然に核の有事持ち込みもありうるということにならざるを得ないでありましょう。しかし「核ぬき」というのは決して一時的なものであってはならず、ぜひとも永久に撤去すべきでものであり、できうる限り基地そのものもなくしてもらいたいというのが、沖縄県民の真の要求であることをご理解いただきたいのであります。
第3は、沖縄基地の態様についてであります。政府は、日米安保条約とその関連取りきめが沖縄にも本土におけると同様に適用されるのであるから、それは「本土並み」返還であると説明しております。しかしこれは「形式的な」本土並み返還であって、沖縄県民の要求する、いわば「実質的な」本土並み返還ではありません。沖縄返還協定の「了解覚書」によると、返還されるのは与儀ガソリン貯蔵地、本部飛行場その他一部だけであり、嘉手納空軍基地、海兵隊基地、瑞慶覧陸軍施設、第二兵站部、那覇軍港、宜野湾、読谷飛行場などの主要基地はほとんどそのまま存置されることになっております。現在、沖縄全土に米軍使用地の占める割合は12.5%でありますが、復帰後も米軍が使用する面積は10.0%であり、返還によって減少するのはわずか2.5%であります。しかも返還される基地の中には自衛隊が代って使用することを予定しているのもあります。政府は将来、国際情勢の変化に応じて米軍基地の整理を要求する旨述べていますが、積極的に整理縮小しようという意欲やそのための具体的計画はまだ提示されておりません。
基地の様態に関する問題はこれだけではありません。第1特殊部隊、第7心理部隊、SR71戦略偵察機などはそのまま残されることになっています。政府は、これらの特殊部隊の活動の存続を認め、ただその内容については、実態によってこれを改めたり、活動を制限する旨を明らかにしております。
さらに、V・O・Aの取扱いについて返還協定(第8条)は、復帰後5年間これを存続させることとし、その後の処置については復帰の2年後に日米両国政府の間で協議する旨規定し、これをうけて特別措置法(第131条)は、電波法の特例措置を定めております。しかしながら、このV・O・Aの取扱いに関する取りきめは、県民の間で、
(1)このように外国政府の直接運営する放送施設を沖縄にかぎって存続させることは、外国放送施設の設置を禁止している電波法の原則に反するばかりでなく、それでは本土政府がかねてから県民に約束してきた「本土並み返還」の趣旨にも反するのではないか。
(2)V・O・Aは、現在中波1、短波52、超短波17の計70波の周波数を占有しているが、これをそのまま存続させることになると、今後周波数の確保の面で国益に反するばかりでなく、近年とみに高まりつつある国内電波需要に対応する電波割当計画の策定にも耐えがたい障害にはならないか。
(3)V・O・Aを使って大統領直属の対外宣伝機関である海外広報局(U・S・I・A)が中国語、朝鮮語、ロシヤ語及び英語で中国や北朝鮮などの共産圏諸国に対して反共宣伝放送活動を行なっているが、外国のこのような活動を継続させることは、今後の国連総会において中国の国連加盟を実現させた国際情勢の動向や日中間の国交回復を要求する国内世論に反するばかりでなく、これから実際に中国との国交を回復するうえでも障害とはならないか。
などの点で問題視されております。そして、このV・O・Aは、沖縄本島北部の国頭村から1,000キロワットの超大電力をもって放送を行っているため、その周辺地域はテレビ、ラジオの受診に混信妨害を与え、また有線電気通信設備にも誘導妨害を与え、そのためにその隣接地域では電話架設もできない状態であります。しかも、返還協定第8条の運用について合意議事録では「V・O・Aを日本国外へ移転する場合に、予見されない事情によって代替施設が返還協定第8条所定の5年内に完成されないときは、日本政府はこの代替施設が完成するまで沖縄においてV・O・Aの運営を継続する必要性に対し十分な認識を払う用意がある」とされているため、このような状態が一体いつになれば解消するのかその見通しすらつかず、V・O・Aの性格とこれを背負いこんでいく沖縄の将来を考え、これに深刻な不安を覚えずにはいられないのであります。去る5月17日に行われた立法院のV・O・Aの撤去に関する決議も県民のそのような気持ちを端的に表明したものであります。
第4はいわゆる資産買取りの問題であります。その対象とされているものは、琉球電力公社、琉球水道公社、琉球開発金融公社はじめ、琉球政府庁舎、裁判所庁舎、英語センター、文化センター、さらに道路などとかなり広範囲に及んでおります。
しかし、日本政府が引き継ぐことになっているこれらの資産は、形式はともあれ、その実質においては元来純然たる米国の所有に属するものというより、沖縄県民に属するとみられるべき要素が少なくありません。たとえば、前記三公社はいずれも一般資金並びにガリオア資金の見返り等でつくられたものであり、沖縄において営業を行なって現状のような資産となったものであります。琉球政府庁舎にいたっては、明確に「琉球住民に献呈さる」との銅板の表示が同庁舎入り口にかかげられているのであって、すでに住民のものになっていると信じられてきたものであります。
したがって、これらの資産は、日本政府がわざわざ米国政府から買取らなくても、本来沖縄県民に属するものとして、沖縄県民の福祉増進と復興のために使用されるべき性質のものであったといえましょう。
第5に、対米請求権処理の問題があります。これは、アメリカが沖縄を支配してきた26年間において、県民がこうむった損害をどのように処理するかという問題であり、奪われた人権の回復が図られるか否かという県民にとってはかりしれないほど大きな影響を及ぼす重要問題であります。
しかるに、返還協定では、ごく一部を除き、この請求権は放棄され、県民がこうむった損害の賠償、犯された人権の回復には考慮が払われておりません。26年に及ぶ米軍支配下で沖縄県民のこうむった損害は筆舌につくしがたいものであり、しかも「補償」または「賠償」の名に値いするほどの救済措置は、ほとんど講じられていないのであります。
政府が返還協定において沖縄県民の同意をうることなく、対米請求権を放棄した以上、米施設下において沖縄県民のこうむったこれらの損害については、国がその責任において処理すべきであり、そのために沖縄県民に不利益を与えるようなことがあってはなりません。そのような観点から、今回の国会においては、沖縄県民の請求権処理に関する特別立法を制定していただくよう要請するものであります。因に、これらについては、すでに本土政府当局に文書をもって同様な要請をしております。
わたくしは、さきに、新生沖縄県の基本理念の一つは、沖縄が二度と再び軍事的手段に利用されるようなことがあってはならないこと、したがって沖縄県民の要求する復帰対策の基本もすべての戦争及びこれにつながる一切の政策に反対し、沖縄を含むアジア全域の平和を維持することにあることを挙げてきました。そして、沖縄県民の要求する最終的な復帰のあり方は、県民が日本国憲法の下において日本国民としての権利を完全に享受することのできるような「無条件且つ全面的返還」でなければならないことも繰り返えし述べてきました。しかるに、右に挙げた返還協定の内容は、明らかに沖縄県民のこれらの理念や要求に反するものであります。そこで、わたくしは、日本政府当局及び国会議員各位がこれらの諸点に対する沖縄県民の心情を率直に理解され、単に問題を党派的立場で議論するのではなく、沖縄県民の将来の運命がこれらの論議の成り行きいかんにかかっていることに留意され慎重の上にも慎重を重ねてご検討いただき、沖縄県民の疑惑、不安、不満を完全に解消させて下さるよう強く要請するものであります。
(2)沖縄基地と自衛隊配備問題について
「沖縄の中に基地があるのではなく、基地の中に沖縄がある」と言われるように、沖縄における基地のもつ比重は絶大であります。
沖縄の総面積は、本土において小さい県にランクさえる神奈川県とほぼ同じ、2,388平方キロであります。しかるに、沖縄にある基地の総面積は、約300平方キロに及び、これは沖縄全面積の12.5%、沖縄本島においては、その22.5%にあたり、日本全土にある米軍基地総面積にほぼ相当するのであります。しかも、そのうち田畑が約29%、完地が3%となっていて、県民の日常生活に直接影響を及ぼすのが、全軍用地の約32%も占めております。特に基地の集中している中部地区の6市町村(嘉手納村、読谷村、北谷村、コザ市、宜野湾市、浦添市)はその面積130平方キロ中、基地面積は約70平方キロ、すなわち総面積の54%に達し、さらに市町村の例をあげると嘉手納村88%、読谷村79%、北谷村74%、コザ市は67%等であります。
本土の米軍基地面積は、全土の0.08%にすぎないとのことであり、沖縄本島の基地の密度は、実に本土の280倍にも及ぶことになります。また、基地(施設及び地域)数は沖縄が120ヶ所、本土148ヶ所あると言われていますが、本土の基地の数え方に順ずると、沖縄の基地はさらに多く、数百ヶ所にも達するようであります。さらに沖縄の米軍基地は、核兵器をはじめ、各種の近代兵器をもって装備され、いつでも広範なアジア各地に発進できる攻撃基地として世界に類例のないものであり、本土にある米軍基地の数百倍に及ぶ機能をもっていると言われております。
このようなぼう大な面積の土地が軍用地として接収され、また、その強大な機能の中に沖縄がおかれているために、沖縄県民の生活は、あらゆる面で極端な圧迫を受け、いびつな状態になっております。かつての費用くな田畑も基地になって農業は破戒され、市街地の中心部分に基地があるため、都市の計画的開発と経済発展を阻害しております。
そればかりでなく、いわゆる「基地公害」や米軍人軍属の犯罪、基地あるがゆえに発生する人権侵害の問題は、さらに深刻であります。空からトレーラーが落下したり、ジェット機が墜落したり、基地から流れ出た廃油によって井戸水が汚染されたいわゆる「燃える井戸」、米軍の演習等による流弾事故、米軍人軍属による頻発する交通事故による人身傷害、婦女子が殺傷、暴行されたり、また、原子力潜水艦による放射能汚染、ミサイル発射演習による漁業への影響等々、その数は枚挙にいとまがありません。
したがって、沖縄県民は、県民の人権を侵害し、生活を破壊するいわば悪の根源というべき基地に対して強く反対し、その撤去を要求し続け、本土へ復帰することによって、これまで県民の蒙った米軍基地によるあらゆる被害は解消されるものと期待し、それを要求してきました。
かりに直ちにこの県民の要求が全面的にかなえられないにしても、基地の態様が変わって、県民の不安を大幅に軽減することを強く求めてきました。
しかるに、この県民の当然の要求が、このたびの沖縄返還協定やこれを基本にして講じられようとしている国内措置において実現されていないことに対し、強い不満の意を表明するものであります。
一方、本土政府は、沖縄編自衛隊配備を具体的に進めているようであるが、米軍基地の存在に加えて,自衛隊が配備されることは、沖縄基地の強化をはかることにほかなりません。また、米軍基地の肩代わりに自衛隊が配備されるとなれば、自衛隊の沖縄配備は、海外諸国を刺激し、沖縄基地にまつわる不安は増大こそすれ軽減することはないでありましょう。さらに、県民はかっての戦争体験、戦後の米軍支配の中から、戦争につながる一切のものを否定しております。したがって、ここにあらためて自衛隊のお欣和配備に対し反対の意思を表明いたします。
そこで、この沖縄基地と自衛隊配備問題に関連する「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律案」と「沖縄の復帰に伴う防衛庁関係法律の適用の特別措置に関する法律案」の両法案については以下問題点を指摘いたします。
1.沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律案の問題点
(1)この法律は、沖縄における米軍基地の存続を前提とし、その確保を図ることを目的としています。この法案には、基地をなくするとか、あるいは縮小していくという方向を示すものを見出すことができません。
沖縄に存する米軍基地は、米軍が占領軍としての権力と、絶対的、排他的な「施政権」によって、民主主義の原理に違反して、県民の意思を抑圧ないし無視して構築、形成されたきたものであります。そして、その基地の存在が県民の人権を侵害し、生活を圧迫し、平和を脅かし、経済発展を阻害していることは、さきにも指摘したとおりであります。
平和を希求している沖縄県民は、軍事基地に反対し、その撤去を求めているのであります。したがって軍事基地の維持、強化を図ることを目的とするこの法案には基本的には反対せざるを得ません。
(2)この法案は、米軍基地の維持、存続に加えて、新たに自衛隊の配備を予定し、これを可能ならしめようとすることが目的となっています。
沖縄県民は米軍基地だけではなく、自衛隊の配備にも反対であります。自衛のための戦争といい、聖戦といわれたあの第二次世界大戦末期の沖縄戦において、沖縄県民は戦争の残酷さと悲惨さを身をもって体験し、戦後26年に及ぶ米軍支配の苦しい生活体験によっても、軍隊というもののもつ本質的性格をいやがうえにも知らされました。十数万の尊い生命を犠牲にした戦争体験と26年の長期に及ぶ米軍事支配下の生活体験を経た沖縄県民にとって、自衛隊の配備を許すことはできないのであります。
沖縄県民は、沖縄から一切の軍事基地を撤去して、沖縄の平和のメッカとすることを希求しているのであります。
(3)この法案の本質的問題点は、米軍基地の存続と自衛隊の配備であると考えますが、その他にも憲法や土地収用法など、現行法体系との関係において、重大な問題を内包しております。
その第1点は、暫定使用という名のもとに5年もの長期にわたって、土地所有者の意思如何にかかわらず、強制的に、米軍や自衛隊に、土地等の強制使用を認めていることであります。
私有に属する土地等を正当な手続きを得ずして5年の長期にわたり、一方的かつ強制的に使用することは、実質的に土地等の強制収用であり、如何なる理由を付したにせよ私権に対する重大な侵害であって、財産権の保障を規定している憲法29条に違反するものといわなければなりません。
法律上暫定使用を必要とするのは、使用の根拠となる法体系に変動がある場合に、新たな法体系による根拠を合法的に設定するまでの間に生ずる不可避的な空白期間を一時的にうめあわせる場合であるはずであります。講和発効の際の本土の米軍基地に関するこの暫定使用期間は6カ月であります。しかるに沖縄の土地等については、5年の長期にわたり、且つ、正当な法律上の手続きもとらず、一方的に強制しようすることは、沖縄県民に対して差別を強いるものであり、法の下の平等を規定した憲法第14条にも違反するものであります。
私有に属する土地等について、強制収用、使用等が許されるのは、憲法第29条に規定する公共の用に供する場合のみであり、公共の用に供する事業が何であるかは、土地収用法に規定されております。ところが、自衛隊の配備は、憲法第29条でいう公共の用に供する場合と、土地収用法で規定する公共の利益となる事業には該当しません。したがって自衛隊の配備のために土地等を強制使用することは、その点でも憲法第29条に違反し、また土地収用法の趣旨にも反するものであります。
自衛隊は、現在、沖縄の土地等を使用しているのではありません。復帰にによって法体系が変るからと言って、暫定措置を講ずる余地はありません。したがって、法的に暫定使用を認める根拠は全くないはずであります。現行法体系上自衛隊が強制的に他人の土地等を使用できるのは、防衛出勤という緊急の場合だけであります。暫定使用の法的根拠がないにもかかわらず、あえてこれを認めようとすることは、現行法体系上不可能なことを、暫定使用の名の下に可能ならしめる。つまり強制的に自衛隊の配備のために土地等を使用しようとするのが、この法案の意図だと思われるのであります。このことは、自衛隊配備のための特別措置であり、県民の意志を無視した違法な措置といわなければなりません。そして5年間の暫定使用を既得権とし、これを足場にして、さらに長期間にわたる強制使用、収用等を意図しているのではないかとの危惧も払拭しえないところであります。
第2点は、この法案は施行と同時に米軍や自衛隊等に使用権を生ぜしめ、所有者に対しては、単に遅滞なく使用する土地の区域等の通知をしさえすればよいとしている手続面の問題であります。国や公共団体等が他人の権利や財産に強制的に制限を加える場合には、その必要性が認められたとしても、「正当な手続き」を経なければならないことは、民主主義の原則であり、最少限度の要請であります。
しかるに、この法案では強制使用の対象物の特定も明確になされず、単に「土地の区域」という漠然とした事項の通知しか義務づけられていません。講和発行後米軍に基地使用を認めたときは、「使用しようとする土地等の所在、種類、数量、及び使用期間」を通知すべきこととされ、土地収用法でも「土地の細目(土地の所在、地番及び地目)」の公告をしなければならないことになっていることに対比してみた場合、これは正当な手続きを回避し、権利者の利益を害するものであるといわざるを得ません。
第3点は、使用者の原状回復義務に関する原状とは、いつの状態をさすのか不明確な点であります。
この法案維よると、土地等を使用することができなくなった場合、使用者は「土地又は工作物を原状に回復し、又は原状に回復しないことによって生ずる損失を補償しなければならない。」と規定しているが、この原状回復義務は、米軍が当該土地等を使用した時なのか、この法案により取得した時点なのか明らかになされておりません。後者だとした場合、この原状回復義務に関する規定は、ほとんど無意味になってしまい、権利者は図り知れない損失を蒙ることになります。
このように主要な問題点のみを指摘したかぎりにおいても、この法案が、いかに県民要求とも、憲法原理ともあいいれない不法、不当なものであるかが明らかにされたことと考えます。
かって、米軍は講和発行後の軍用地使用の法的根拠をつくりだすために、県民の意志を無視し、一方的に布令、布告を発布して形式のみを整えてきましたが、この法案の態度は、かっての米軍のやり型と何ら異るところはあいといわれてもいたしかたないでありましょう。
以上の理由から琉球政府としては、この法案の制定に反対し、本土政府の再考を要請するものであります。
2 沖縄の復帰に伴う防衛庁関係法律の適用の特別措置等に関する法律の問題について
「沖縄の復帰に伴う防衛庁関係法律の適用の特別措置等に関する法律」(案)についても、容認することのできない幾つかの問題点を含んでいます。
(1)琉球政府は、一切の軍事基地に反対する立場に立って、従前から一貫して基地の整理、縮小、撤去を求めてきました。これに対して、日本政府も基地は漸次縮小していきたいと言明してきました。仮に、日本政府に沖縄の基地を整理、縮小し、いずれは完全撤去しようとする意思があるとすれば、行政組織についても、その点の配慮が必要であります。そのような見地からも現在の米軍基地維持と自衛隊の配備を前提とする那覇防衛施設局の設置にはにわかに賛成するわけにはいきません。また那覇防衛施設局の設置と関連してこの法律の第2条では、現在の琉球政府職員で復帰の際に防衛庁の職員となる者があることを想定し、これに対する防衛庁職員給与法の適用に関する特別措置を規定しています。しかしながら琉球政府職員は防衛施設局への身分引継ぎに強く反発しています。したがって琉球政府は職員の意に反してその身分を防衛施設局に引き継ぐような措置を講ずることはできません。
(2)次に、講和前損害の補償もれに対する見舞金の支給を定めた第3条と、これに関連する事務の所掌や権限について防衛庁設置法の一部に必要な改正を加えた第7条についてであります。戦後26年にわたるアメリカ軍事支配のもとに沖縄県民がこうむった損害は、広範囲、多岐かつ莫大なものであります。琉球政府は、これらの損害について憲法上の国民の請求権として国に補償要求を訴え続けてきました。この法案の第3条に規定された講和前損害の補償もれの問題も、琉球政府の要求してきた項目であり、これに対する見舞金の支給が定められること自体は、それだけについていえば、一応是とされなければならないものであります。しかしながら、この補償もれの問題は、請求権問題のごく一部にすぎません。請求権問題については、別に「沖縄の復帰に伴う沖縄県民の対米請求権処理の特別措置等に関する法律」(仮称)の立法要請の中で、琉球政府の立場を一括して詳述することといたします。要するに、請求権問題は復帰に伴う沖縄側の最重要な要請の一つであります。多岐にわたる請求項目のなかから、その一部にすぎない講和前の補償もれだけ、それも物的損害を除外して、人身損害だけについて規定することは到底容認できないことであります。しかも、右の措置では、これを「見舞金の交付」として規定していますが、琉球政府は、憲法上の国民の権利としての要請をしているのでありますので、到底是認できるものではありません。さらにこの措置でもっとも重大な問題は、これが防衛庁関係法との関連で定められている点であります。琉球政府としては、この事項は基本的には戦後処理の一環であると考えております。したがって、この問題は、沖縄の復帰に伴う特別措置法または単独の特別立法によって措置すべきものだと考えます。しかるに、この問題を防衛庁関係法で措置していることは、あえて問題の本質をそらすものであります。したがって、このような日本政府の態度を容認することは到底できないところであり、琉球政府としては強く不満の意を表明するものであります。
(3)次に、軍関係離職者等臨時措置法(沖縄立法)第2条に規定する軍関係離職者のうち、同条第1号にかゝる者を、本土の駐留軍関係離職者等臨時措置法第2条第1号にかかる駐留軍関係離職者であるものとみなして特別給付金の支給に関する同法第15条から第17条までの規定を適用することを定めている法案第5条についてであります。
これも、前項と同様に、沖縄に巨大な米軍基地が存在し、多数の軍雇用者が存在するという現実認識を前提とする限り、その離職者を救済するための措置は必要としなければならないのであり、その限りでこの措置はむしろ当然のことであります。
しかしここで指摘しなければならないことは、右の駐留軍関係離職者等臨時措置法が性質上、労働関係の法規として分類されるべきであり、したがって、むしろ沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律案のなかで取り扱われるべきものであるにもかかわらず、ことさらにこの法案に取り入れられる点であります。これについても琉球政府としては、講和前補償もれに関する第3条の措置について述べたと同様の立場を表明するものであります。この措置はすべからく沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律案のなかにとり入れられるべきであります。
(4)最後に、この法案中の最大の問題点は、第6条の政令への委任条項であります。この規定は、「この法律に定めるもののほか、防衛庁関係法律への適用については、当分の間、政令で必要な規定を設けることができる」と定めています。
沖縄返還協定は、その前文で沖縄の日本復帰が1969年11月の日米共同声明の基礎の上に行なわれていることを再確認したことに留意して、返還を協定する旨述べています。そして、その日米共同声明は、第6項で、復帰後は沖縄の直接防衛の責務を日本が徐々に肩替りしていくということと、沖縄の米軍基地の保持に合意することを述べています。この共同声明での約束をうけて、今回の返還協定締結後間もなく「沖縄の極地防衛責任の日本国による引受けに関する取り極め」が締結されています。この取極めで、沖縄への自衛隊配備の具体的計画が定められているのであります。これらの自衛隊配備や、米軍基地の保持、機能維持の約束を果たすための事柄が、要するにここでいう「防衛庁関係法律の沖縄への適用について…………沖縄の復帰に伴う必要とされる事項」に入れるものとみられるのであります。これらについては、自衛隊法その他防衛庁関係法律の沖縄への適用に政令で適宜変更を加えることが予定されているわけでありましょう。そうでなくてさえ、憲法違反といわれる自衛隊法をはじめとする防衛庁関係法律が沖縄への適用に関するかぎり、国会審議にもかけられることなく政令で定めることを認めようということであります。しかも、政令による措置の方向はすでに前記の日米共同声明路線に沿うものとなるであろうことは、容易に推測できることであります。
琉球政府は、このような措置を容認することはできません。
(3)沖縄開発と開発三法案について
1 沖縄開発の基本的理念
沖縄開発にあたっての第一の理念は、県民福祉の向上にあります。
従来ややともすると、所得水準の向上のみを目的とした経済開発がなされてきたのでありますが、沖縄開発にあたっては、人間尊重ないし人間性回復の精神を、その基底に置くものでなければなりません。本土においては、大企業中心の高度成長政策が推進されるにつれて、過密、過疎化、都市問題、公害問題などの進行、激化をみるにいたり、従来の開発の在り方に対し、再検討をせまられております。沖縄開発にあたっては、このような本土の轍を踏むことなく、あくまで人間主体の開発でなければなりません。
沖縄開発の第二の理念は、自治権尊重の立場に立った開発でなければなりません。沖縄県民は異民族の支配下にあって、苦難な道を余儀なくされながらも民主的諸権利をかちとり、常に自治の確立を希求してきました。幾多の苦難の中で、県民が獲得し学んできた尊い体験は、復帰後においても無にすることなく、地域の独自性、多様性をゆたかに開花させるために、役立てられなければなりません。
沖縄開発の第三の理念は、平和で豊かな県づくりを志向するものでなければなりません。
沖縄の軍事基地は、質量ともに、本土におけるそれをはるかにしのいでおり、そのため沖縄の経済社会に異常な影響を与え、第三次産業肥大化にみられるような産業構造の畸型化を招くとともに、他方、基地のもつ非人間的、頽廃的性格がいく多の社会的問題を惹起しております。
また、基地の存在は、総合的統一的土地利用計画にとっても大きな障害となっており、琉球政府の主体的開発計画の策定を阻害してきております。したがって、基地の撤去を前提としない限り、真の意味で恒久的な開発計画の策定は不可能であり、自由かつ平和な社会の建設などは到底認めません。
2:開発の方向
沖縄の開発にあたっては、住民福祉を中心とした社会開発に重点がおかれなければならないことは言うまでもありません。すでに沖縄においても、過疎、過密の問題をはじめ、都市問題、公害問題などの発生をみているところから、生活基盤的社会資本の整備をはかり、早急な対策が講じられなければなりません。
そのために、公共投資主導型の設備投資が必要であり、道路、港湾、空港、上下水道等の整備と住宅、教育施設、医療施設、福祉施設等の生活環境の整備を徹底的に図る必要があります。
沖縄経済は、基地依存度の高い消費経済偏重の構造を有し、第三次産業の肥大化と極度に高い輸入依存度を特徴としております。このようなゆがんだ基地経済から脱却するためには、一定の工業化が要求されますが、臨海型装置産業の場合、雇用吸収効果ならびに自治体財政への寄与も少ない半面、逆にその誘致には、産業基盤整備のための財政支出が大きく、しかも公害発生の危険なさけられないのであり、誘致企業の選定にあたっては、慎重な配慮が必要であります。
そこで、鉱工業は地場産業、既存企業の育成強化をはかることはもちろんであるが、県内に広く雇用の機会を造成するため、非公害型の電子工業、機械工業、縫製加工業等、労働集約型の企業の発展をはからなければなりません。臨海型工業については、土地利用計画にもとづいて、特定地域を指定して波及効果の高い業種を設定することが必要でありますが、その際とくに用水多用型、公害型については厳重なチェックをしなければなりません。なお、沖縄の工業は、中小および零細企業が多く、本土からの分離による経済規模の制約に加えて、企業振興のための財政措置や長期低利の政策金融のたち遅れのあることを考慮し、国は中小、零細企業に対する特段の保護育成措置を、すみやかに講ずるべきであります。
農業についてみると、戦災によって耕地は荒廃し、生産手段もほとんど皆無に帰したほか、その後は軍事基地によるぼう大な土地の接収という厳しい条件下におかれてきました。その間、本土において実施されてきた農地改革、食料管理制度、保護貿易制度など農民保護的な諸政策の恩恵をうけることもなく放置されてきました。復帰にあたって、国はこれらの制度によって、沖縄が当然にうけるべきであっただけの保護措置を保障するほか、沖縄の農業の独自性を育成しつつ、軍事基地の撤去などによって、農業基盤の整備をすみやかに推進しなければなりません。
そこで、従来からの甘蔗、パインアップルの保護育成を推進するとともに農業所得の向上をはかるために、今後土地改良等によって、農業基盤を整備し、沖縄の恵まれた太陽エネルギーを活用して、牧草の普及による肉牛の増殖、野菜類、果樹、熱帯花卉等の振興をはかって各地域の特性に適応した農業構造の改善をはかることが必要であります。
漁業についても、国は財政支出および投融資の遅れをすみやかに補完するとともに、本土から分離させられたことにより生じた漁業県や船数、漁獲量の枠などについても特別の措置を講じなければなりません。
そこで、漁業の整備に重点をおくとともに協業化による漁船の大型化、設備の近代化をはかり、亜熱帯の立地を生かして鰻、車エビ、ヒトエ草等「の沿岸栽培漁業を幅広く普及する必要があります。
次に第三次産業の柱である観光産業については、沖縄は自然景観に恵まれている関係から、将来相当の来客数があるものと推測されるので、自然の保全に留意した観光道路、観光施設宿泊施設等の開発をはからなければなりません。
以上の社会開発、経済開発をはかるためには、水資源、電力の開発を専攻させることがかんようでありますが、これには爆だな資金を必要としますので、これに対する全額国庫負担という特別な財政措置が講じられなければなりません。
一方、沖縄の開発を計画的に推進するためには、軍用地開邦後の跡地利用を含む土地利用計画の策定とこれを実施するための国の思い切った助成措置が必要であります。
さらに、地域開発に欠くことのできない軌道を含む交通機関の抜本的対策がすみやかに検討されなければなりません。
新生沖縄県の開発は、以上を述べたように、軍事基地の撤去を基本条件とし、住民福祉の向上および地方自治の尊重を最重要課題として推進されなければならないのであります。
3 開発三法案の問題について
地域開発の目的は、その地域社会の開発を進めることによって、地域住民の生活水準と副詞の向上をはかりことであります。したがって、具体的な計画の策定にあたっては、まず地域住民の要望が率直に反映され、計画実施に際しては、地域住民が主体的に参加でkりうようにしなければなりません。地域住民との密接な連携がなければ、地域開発本来の目的は実現できないからであります。
しかるに、「沖縄開発三法案」の内容を検討してみると、地域開発の原則、すなわち、開発計画の中に、地域住民の創意をもり込み、その計画実施にあたっては、地方公共団体が主体的にこれにあたり、国は地域自治体の計画策定ならびに実施を財政的にうらずけるための責務を負うとの原則が十分にとりいれられていないように思われます。
「沖縄振興開発特別措置法案」の第4条で、開発計画原案の作成については、県知事の権限とされているが、計画の決定は、「沖縄振興開発審議会」の議を経て、関係行政機関の長と協議の上内閣総理大臣が行なうことになっております
このように、計画の最終決定権は、総理大臣に委ねられております。しかも計画決定に重大な影響を与えるとみられる審議会の構成は、その過半数が「関係行政機関の職員」よりなっているのであるから、これでは、知事を通じて表明された県民の意見よりも中央の意向によって、すべてが決定されることになりかねません。したがって、この審議会の委員構成は、県民の意向がこれに十分反映させられるよう再考されるべきであります。
さらにこの開発計画を推進するための国財政負担について、同法案は個別事業ごとに補助率を定めるような仕組みとなっており、しかもその実質的な決定が政令にゆだねるようになっているが、沖縄が終戦以来国政のらち外におかれ、異民族支配のもとに放置されてきた結果各面に幾多の格差をしょうじていることにかんがみ、この開発計画全体について、国の特段の助成措置が必要であります。
次に「経済の振興および社会の開発に資することを目的」に「沖縄開発禁輸公庫法」が制定されることになっているが、その第4条によれば、資本金については、現に沖縄に存する琉球開発金融公社、大衆金融公庫、それに琉球政府特別会計を加えた正味資産を充てるとされています。これらの資産は本来お欣和県民に属するものであるから、国は新たな出資をおこない積極的規定を設け公庫を充実強化し、県民の期待に応える必要があります。
一方、公庫法第3条は「主たる事務所」を那覇市に置き「従たる事務所」を東京に置くとしています。そこで、この「従たる事務所」を通じても貸付業務を行なうことができるものとすれば、形式はともかく、運用いかんによっては、東京の事務所が「主」となり、那覇の事業所が実質的にこれに従属させられるこtにもなりかねません。このような弊害をなくするためには、東京事務所の任務は、主として関係行政機関との連絡調整に重点をおき、実際の貸付業務棟は、那波事業所の窓口を中心にしておkなうようにすべきであります。
次に沖縄開発庁設置法案によれば、国の行政組織の上で類例のない総合事務局が沖縄に設置されるようになりますが、沖縄の総合事務局の所掌事務は、総務部門、開発工事を実施する部門、許認可行政部門及び本来ならば第三者機関として設置されるべき公取委事務所など開発庁の権限以外の各省庁の業務もふくまれることになっております。
沖縄県のような小さな地域にぼう大な国の機関が設置されると、お欣和の地方公共団体の自治、特に沖縄県の自治に重大な影響を与えるように思われます。したがってこのような事務局を設置する場合には、沖縄県がなお自治を最大限に尊重することを当然前提としなければなりません。
そのような見地から同事務局の権限及び内部組織については、沖縄の実情に即応するような必要最小限のものにとどめ、また適切な運用をなされなければならないのであります。
地方自治の侵害は、戦前戦後を通じて、自治権拡大を最重要課題として要求してきたおk縄県民の最も忌避するところであります。私たちは、これまで繰り返し強調してきたように地域開発はあくまでも地域自治の本旨に則って、地域住民本意の開発でなければならないと考え、これに対する国の配慮を強く要請するものであります。
(4)裁判の効力について
米国の施政権下において行なわれた栽培の効力を復帰後どのように取扱い、国内法上これをどのように処理するかは、それが国家権力の本質と県民の人権に重大な関係を持つものであるだけに、極めて重要な問題であります。そして、これは、本来国の司法権に関する問題であり、復帰後の国内措置としてこれをどのように首里するかという問題であるから、その処理の仕方については、当然日本国憲法およびその下における全国法秩序と適合するものでなければなりません。そうでなくして、もしそれが施政権者に対する配慮や国の外交政策上の都合によっていささかたりとも歪められるようなことがあるとすれば、国の司法権の基本理念は崩壊し、これに対する国民の信頼を維持することも困難となりましょう。
このような観点からこの問題を考察するとき、米国の施策権下においてその発動として設置された米国民政府裁判所及び琉球政府裁判所は、いかなる意味においてもこれを日本国憲法上の裁判所と同列におくことはできないのであります。
これについては、何人も異論のないところであり、米国の施政権下において行なわれた裁判の効力を判断するにあたっては、まずこの点に留意しておく必要があります。
民事裁判は、もともと裁判権そのものも私人間の紛争を処理するためのpものとして設定され、訴訟手続き全体が弁論主義によって支配され、裁判の結果についても法的安定性が最大限度に尊重されなければならないのであるから、米国の施政権下において行われたものであっても、それが内容的に日本国憲法およびこれを頂点とする全国法体系のうえで公序良俗に反するものでないかぎり、その効力を証人して差し支えないものであります。したがって、これについては、特に問題にすることはなく、ただしそれが適切な経過措置によって復帰後国内法体系の中に適当に組み込まれればそれで足りるわけであります。
しかしながら、刑事裁判については、そのような形で簡単に処理するわけにはまいりません。刑事裁判の場合は、裁判権が国家刑罰県の発動機能として設定され、しかもそれはもっぱら国の法秩序を維持する目的で発動されるのであるから、訴訟の全体を当事者の弁論だけに委ねることはできず、裁判の結果についても民事裁判のように法的安定性の法理をもってこれを論ずることはdけいないのであります。このように、刑事裁判は、国家主権の直接の発動であるから、外国の裁判の効力をそのまま総計するとか、あるいは自国の裁判の効力の承継を他国へ強制することは、事柄の性質上できるものではなりません。したがって、米国の施政権下において行われた刑事裁判の効力を復帰後もそのまま維持し、あるいは日本政府がこれを引継いで執行するということは、理論的に全く筋のとおっらないことであります。返還協定第5条1項及び2項が民事裁判については、復帰後も「その効力を求め、日本政府が引き続きこれを執行する」旨規定しているのに対して、刑事裁判については、日本政府において「その効力を認めることができ、また引続き執行することができる」というふうに規定し、(同条第3項)日本政府おいてその効力を認めるか否か、また引き続き執行するか否かを自由に選択できるようにしているのも、正にそのような見地からでありましょう。
一方、米国の施政権の下で設置された裁判所は、いずれも米国の大統領行政命令及び布告布令をもって設立されたものであり、また統治機構的にも米国の施政権の行使を分担し、またはこれに奉仕するものとしてその統治機構の中に組み入れられ、裁判権を行使するにあたっても法制度的には米国民政府の発する布告布令に従い、かつこれによって付与された権限の範囲内においてのみこれを行い、裁判の独立性も十分に保障されていなかったのであるから、これらの裁判所が米国の施政権下で行った刑事裁判の効力を復帰後もそのまま承認することは、到底できるものではありません。終戦依頼米国の施政権講師に反対し、本土への復帰を要求し続けてきた県民の心情としても、これを承認することはできないのであります。
(5)厚生・労働問題について
1.社会保障
沖縄における社会保障は、すべてが「無」からの出発でありました。米軍は占領政策として「島ぐるみ救済」活動を平和宣撫工作の一環として展開してきたのであります。そして社会経済がようやく安定するにつれて、劣悪ながらも経済的貧困層いわゆる社会的沈澱層といわれる人々に対する現物、現金の支給を制度化する「救済制度」を制度化してきたのが、沖縄における社会保障制度のはじまりであります。
このように沖縄における社会保障の成立過程は、本土の社会保障が憲法の保障する生存権理念の発露そてい展開されてきた過程と比べて、全くその質を異にするものであります。つまり、沖縄県民は、これまで憲法の保障する生存権理念の外におかれ、一方米軍の植民地機能維持のための恩恵的な住民感情を緩和するための一定の枠の中で、生活を与儀なくされてきたのがこれまでの実態であります。
このように戦後沖縄の社会保障は、日米両政府の谷間にあって、近代国家の社会保障制度から大きく立ち遅れてきたのであるが、1961年の池田・ケネディ声明以降、ようやく沖縄が日本の一部であることが確認され、さらに、1967年の佐藤、ジョンソン会談において復帰への道程として、本土との「格差是正」がとりあげられ、社会保障に対する財政援助と制度の整備がなされるようになったのであります。ところが沖縄の社会保障は医療保険にみられるように、沖縄の医療を保障する制度としては全く不十分で、県民の意に合致しないものであり、年金制度にしても、本土政府の強力な指導によって、一応制度体系は本土並みに整備されていますが、その水準ははるかに低く、社会保障制度としての機能を十分果しておりません。
そこで、私たち沖縄県民は復帰によってこれまでのゆがみや空白が一挙に解決されるものだと期待していたのでありますが、今国会に提案されている特別措置法案をみたとき、それが、県民の期待に十分応えていないことに失望するものであります。すわなち、制度の一体化は措置されていますが、その制度を支える所得向上や医療供給体制の整備、福利施設の拡充などの措置が明らかにされていないことなどであります。
「平和で豊かな沖縄県づくり」のためには、制度の本土並みだけでなく、26年間の空白と、県民の長い苦渋な生活に報いるに値する莫大な社会福祉基本施設整備の投資を優先することが何にもまして大切であると考えます。
2.年金制度
沖縄の年金制度は、厚生年金、国民年金とも、沖縄の本土復帰のメドがようやくついた1968
年に立法化さえ、1970年から保険料の徴収事務が開始されました。制度の内容も復帰のさいスムーズに本土制度に移行できるように、厚生省の指導を受け、制度の体系、給付水準をほぼ本土並みにしてきました。しかし、厚生年金については、制度の遅れに伴う高令者に対する4年から14年期間短縮の措置が講じられておりますが、本土並みの受給要件を満たされないため、同年齢、同年金額の給付措置が必要であります。
国民年金についても9年の遅れがあるため、沖縄法においては保険料納付の免除期間が措置され、さらに期間短縮についても1年から24年の特別措置がなされております。しかし、過去納付金の免除期間があるため、本土の同年齢者との間に支払額に相当の差異があり、これらの者が追納して同額給付が得られるような措置をとる必要があります。
厚生年金の保険料についても本土料率をそのまま適用すると沖縄においては莫大な負担増となりますので、その面の特別措置が必要であります。さらに船員の場合、船員保険法が適用されるため(沖縄の場合現在各種保険の適用を受けていて。)各種保険がまとめられ、現行の保険料よりも高くなります。このことは、勤労者の負担増だけでなく、労使折半の建前上、沖縄の中小船舶経営者に及ぼす影響を考えると、大きな問題であります。
次に年金の各種保険の余裕金及び積立金は現在、琉球政府の資金運用部資金に預託され、公共事業、特別会計などに貸し付けられ、その額は全資金量の70.6%(71年3月末現在)を占める沖縄の公共投資に大きな役割を果しております。これらの積立金はそれぞれの制度に引き継がれることになります。その他、年金制度の遅れに伴う過去期間の通算や追加費用の政府負担についても、国の責任において、もれなく保障すべきであると思います。
3社会福祉
戦後の沖縄における社会福祉は、米軍による生活必需物資無償配給制度による救済事業から出発し、1953年に、生活保護法が本土法の理念と形式を踏襲して制度化され、これが沖縄における社会保障の中軸をなしてきたのであります。
ところで、関連社会保障制度の皆無(とりわけ医療保険制度の欠陥)の中で、その扶助内容と適用基準はきびしく、理念だおれのような制度でありました。しかも、保護開始理由の大部分が疾病であり、貧困と疾病の悪循環がくり返され、防貧制度の欠落が、いかに扶助対象者を拡大再生産してきたかがうかがえるのであります。
1971年度現行基準(第11次改訂)では、生活扶助は、全県一律に本土4級地並みであります。復帰後は、憲法理念による生存権意識の高揚によってこれまで生活の苦しかった多くのボーダーライン層が扶助対象者として急激に増加する可能性がありますので、その保護を当然の権利として実施できるよう財政措置が必要であると考えます。
保護の実施機関については、暫定措置として市部に置く福祉事務所を段階的に設置することになっていますが、これは現在の市財政基盤の現状からしてやむをえないとしても、全体的な沖縄の地域開発を進める中で、市財政の強化を図り、住民自治の本旨に則って市行政の中で処理するようにもっていくべきであると考えます。
その外児童福祉、身体障害者、老人、特殊婦人等の福祉向上についても、行財政上の特別措置を講じ、国の責任による大幅な財政支出によって、これまでの空白を早急に埋めるよう特段の配慮を要請するものであります。
また、社会福祉施設の絶対数は著しく不足しており、その整備は緊急かつ重要であるので特別の措置が必要であります。さらに、特殊婦人の更生事業については、単なる法律的な防止政策や取締的な施策では不十分でありますので、生活保障を基軸とする強力な施策を講ずるよう要請いたします。
4.医療保障
特別措置法案の医療部分に、琉球政府の要請や措置要求はもちろん閣議決定の対策要綱の内容すら十分もり込まれていないことは残念であります。
沖縄の医療行政は、本土に比べてきわめて劣悪な状態にあることはここにあらためて指摘するまでもありません。そこでこの遅れた医療行政を一日も早く本土並みに引き上げるためには、まず第一に国の直接的な財政支出による格差是正の具体的プランが特別措置法案および開発法案にもり込まれなければならないと思います。
次に医療機関については、現在本土水準に比べて、一般病床が4分の1、結核病床が6割弱、精神病賞も6割弱、伝染病床は5分の1、保健所は人口16万人に対し一ヶ所と本土との格差は大きいものがあります。これらを本土水準に引き上げるためには、単に既存の医療機関を国立にして引継ぐという措置だけでは不十分であり、新たに国立の各種医療機関を設立することをはじめ、県立の医療機関の設置拡充、公的医療機関の引き継ぎに対し、大幅な財政措置を講ずることが必要であります。また医療要員については、本土と比べると医療数は半数以下であり、看護婦数は3分の1程度、薬剤師数は6割弱という実情であります。このような状態を救済するために介輔制度の暫定存続および臨時准看護婦に関しては措置されておりますが、これだけでは焼石に水であります。
したがって、医療機関要員養成機関設置に関して、新たに特別措置を講ずる必要を痛感するのであります。すなわち、琉球大学医学部設立の目標を具体化させることをはじめ、看護学校の拡充、設立、臨床研修病院の存続に特別援助が必要であります。
無医地区対象に関しては、沖縄地域自体が本土におけるへき地的性格をもつことを十分に考慮しつつ、その中における無医地区対策には、一層の配慮が必要であります。とくに無医地区における診療に従事する医師、歯科医師、その他の医療従事者の確保に関しては、単に琉球政府の協力要請に応ずるという消極的態度ではなく、無医地区医療における悪循環が解消するまでの間、大幅な財政措置が必要であります。
社会疾病については、現在沖縄においては結核症の有病率は、本土と大体同様の1.52であるが、結核病床数は人口万対本土平均病床数の6割弱で、精神病有病率は、本土の約2倍であるのに対し、病床数は人口万対本土平均病床数の6割に満たない実情であります。これらの格差是正のためには、これまでも述べてきたような処置を講じ、本土水準に到達するまでの間、現在琉球政府がとっている社会疾病対策を尊重し、その継続維持のための措置が必要であります。すなわち結核医療については復帰の際現に全額公費負担を受けている者、ならびに復帰後新たに結核医療を受ける者については自己負担のないよう措置することとし、又精神障害の医療についても同様の措置をとること。以上のことを特別措置法の中に規定する必要があります。
次にハンセン氏病療養所については、国立移管する旨、一般的に規定しているが、整備拡充のための保障を具体的に示すべきであります。さらに、衛生関係業務が円滑に施行されるように基盤の整備に関しては特別配慮が必要であります。
5労働問題
復帰を目前にした沖縄では、現在、一般住民の間に法制度の変革その他によって、復帰のの時点からその生活基盤が奪われはしないかとの不安が高まっております。
このように住民の生活不安を解消するためには、沖縄の復帰に際して国の抜本的な福祉政策、経済政策の確立がなんとしても必要であります。沖縄の労働者は戦後米国の軍事支配の下で「無の状態から一歩一歩諸権利を獲得し、それを拡張してきたというのが実情であります。復帰に伴う本土法の沖縄のへの適用については、これらの事情を考慮し、沖縄の県民および労働者の要望が十分いれられた労働政策がうち立てられるような特別の配慮が必要であります。とくにこの点で留意しなければならないのは、本土地方公務員法の沖縄への適用と、軍関係労働者の間接雇用制度への移行措置に関する問題についてであります。
沖縄においても、過去に、本土の地方公務員法にほぼ相当する「市町村公務員法」と「地方教育区公務員法」を制定しようとする動きはありました。しかし、これらの法案はいずれも県民に受け容れられず、廃案になりました。本土においても公務員の争議行為を一律に禁止している国家公務員法や、地方公務員法については再検討すべきであるとの声が高まり、政府も公務員制度審議会を発足せしめて、公務員の労働基本権のあるべき姿を調査、研究させているのが実情であります。また最近の本土の裁判所の判例に照してみても、単に「公務」に従事しているちうことだけで、公務員の労働基本権を制限、あるいは剥奪している国家公務員法および地方公務員法については幾多の疑問が投げられていることは周知のとおりであります。したがって、本土においてこの問題が十分に調査、研究され、最終的な結論がでるまでは本土の地方公務員法の沖縄への適用については慎重に配慮されるよう強く要請するものであります。
沖縄の軍関係労働者の労働関係は米軍が一方的に公布したも布令116号「琉球人被用者に関する労働基準および労働関係法」によって規制されておりますが復帰により軍関係労働者が間接雇用制度に移行することになり、民間労働者と同様、労働三法の適用を受けることになります。したがってその限りにおいては大いに前進したことになりますが、なお一抹の不安を抱かずにはおられません。沖縄の米軍基地は本土のそれと違い強大な総合的戦略基地であり、極東の状勢いかんによって軍事目的遂行のために、その運用がゆがめられ、軍労働者の労働基本権が抑圧される懸念があるからであります。
なお、沖縄の労働関係法(布令116号を含む)には本土の労働関係法に比べて労働者にとって有利な面もある(解雇手当、産前産後の有給休暇、年休の取扱等個別的労働関係)ので、復帰に伴う本土法の沖縄への適用に際しては、その点を考慮し、少なくとも復帰によって労働者の既得権を失わしめることがないように措置すべきであります。
次に布告116号の適用化にある沖縄の軍関係労働者は、同法によって第1種「米国政府割当資金から支払いをうける直接被用者」第2種「米国政府非割当資金から支払いをうける直接被用者」、第3種「琉球列島米国軍要員の直接被用者」および第4種「契約履行中の米国政府請負業者の被用者」に分類されていますが、現在沖縄の「軍関係離職者等臨時措置法」の適用範囲にある軍関係労働者は、同法施行のために要する資金の都合により第1種、第2種被用者に限られ、第3種および第4種被用者は同じ布令116号の適用下にある軍関係労働者でありながら、原則として同法の適用を排除され、同法の恩恵を享受できない状態に放置されております。このことは、米軍による軍関係労働者の分類が全くその都合によってなされたもので、これらの被用者が第1種、第2種被用者と同様、軍関係労働者として布令116号の適用下におかれてきた事実並びにその従事している労働の実態に徴してみれば明らかに不合理であるといわねばなりません。したがって、復帰に際しての移行措置を実施する場合には、これらの第3種及び第4種被用者の実情も十分に組み入れられ、国の「駐留軍関係離職者等臨時措置法」の中に組み込む等特別の施策を要望するものであります。とくに、第4種被用者の中にはかつては第1種あるいは第2種被用者であったものが、米国のドル防衛策の強化によって第4種被用者に入れられた者が多く、その労働の実態は、第1種、第2種被用者とそれほど異なるものではないことに注目しなければならないと思います。
次に復帰によって転廃業を余儀なくされたたばこ製造業者、製塩業者、通関業者、自動車検査業者及びその被用者、葉たばこ生産者党についてはその生活基盤を確保せしめたるための特別の措置をするよう要望いたします。また、復帰を目前に控えてすでに経営不振におちいっているといわれる、基地関係業者およびその被用者についても妥当な政策が実施されるよう具体的な措置を要望いたします。
要するに、復帰に伴う移行措置の実施についてはあくまでも沖縄県民の立場に立って、その福祉増進のための施策が必要であります。労働政策においても積極的な施策が講じられ、復帰後の新生沖縄県民が明るく平和で豊かな希望にみちた生活が営めるよう特段の施策と配慮を切望するものであります。
(6)教育・文化について
1民主的教育委員制度の確立
沖縄の教育行政制度は、教育の自主、独立と民意の反映という民主教育の基本理念を基調とし、民立法によって県民がかちとったものであります。それは、教育区が市町村とは別の法人格を有し、区教育委員の選出方法も直接公選で、住民に直接責任を負う民主的教育委員制度であり、県民のあいだに長年なじまれ、定着し、この制度の沖縄教育行政における功績は高く評価されてきました。そのために県民は、沖縄の現行の教育委員会制度の存続を訴え、琉球政府もそれを強く要請してきました。
したがって、復帰によって、本土の地方教育行政法がそのまま適用されることになると、教育委員は任命制となり、この沖縄の民主的教育行政制度は否定され、県民がこれを守り育てるために長年にわたって苦労し努力してきたことが、すべて水泡に帰すことになります。制度の移行による混乱と不満は、県民の教育に対する熱意と信頼を低下せしめ、教育にその自主、創造性を失わせ、沖縄教育の将来のために、憂慮されることになります。
そのために、琉球政府中央教育委員会、教育委員協会、教育長協会、PTA連合会などをはじめ、すべての教育関係団体は、こぞって沖縄の民主的教育委員会制度の存続を訴えており、また、新聞論調や世論調査の結果もその圧倒的な支持を示し、今やその存続要請は沖縄の決定的な世論であります。
しかるに本土政府はこの県民の切実な要求をよそに、先に本土法の全面適用を閣議において決定し、復帰対策要綱にもそれをおり込んだのであります。これに対する県民の失望は大なるものがあります。
思うに、沖縄の教師や父兄は、過去26年間、戦争による壊滅の中から教育を生み育て、異民族支配という変則的政治形態の悪条件の中で、よくこれを克服し、正しい日本国民教育をめざして教育に精励し、教育を正しく守り育て、今日のような教育水準にまで引き上げてきたのであります。
米軍の圧力と干渉の中で、祖国を慕い、祖国の教育との一体化をはかってきた沖縄の教育関係者の労苦はなみなみならぬものがありました。このことを正しく理解していただきたいと思うのであります。
とくに、米軍の一方的教育布令を排除し、教育を県民の手にとりもどすための、教育基本法をはじめ、教育諸法規を民立法した県民の闘いは、日本の教育史に特筆されるべきものであり、その成果は高く評価されなければならないと思います。それだけに県民の教育行政制度に対する関心は高く、それを守れという要望も強いものがあるのであります。
このような経過と実績をもっているだけに、沖縄におい手教育は、他の分野に比べ、制度、内容ともいち早く本土に近づけ、米軍の干渉をはねのけ、自主創造の教育成果をあげることができたのであります。また異民族支配のもとでよく国民意識のそう失をくい止め、国語の純化をはかり、祖国復帰と平和教育の教育実践ができ、また、平和的日本国民の教育の理想をつらぬき通すことができたのも、これら民主教育制度に負うこと実に大なるものがありました。
本土においてもかっては、憲法や教育基本法の精神と理念に則り、現在沖縄にあるような民主的教育制度が嫉視されていたことは、ここで指摘するまでもありません。しかるにそれが昭和31年、多くの権威ある学者、教育委員、教職員をはじめとする教育関係者、革新政党や革新民主団体等、良識ある国民の多くの反対を押しきって、現行制度に改悪されたことは周知の通りであります。
私たち沖縄県民は、この際本土において、現行教育制度の非をあらため、沖縄の祖国復帰を契機として本土法も沖縄と同様な制度に改正されるよう要求するものであります。
教育こそは実に国家百年の大計の礎であります。その意味において沖縄の教育制度の移行については重大であります。本土政府においては、その取り扱いについていまいちど検討をし直していただき、国会においては慎重に審議を尽くされ、沖縄教育の将来をあやまらさぬよう強く要請するものであります。
2 教師の権利と教育内容保障
復帰に伴って地方公務員法、教育公務員特例法および教育の中立性確保臨時措置法が復帰時にそのまま沖縄に適用するようになっております。
これらの三法には、教育の公共性や教育の中立性を理由に、教職員の基本的人権を抑圧、禁止する規定があります。すなわち、争議権の禁止、団体協約の締結権の禁止をはじめ政治行為の制限、勤評の実施などの条項であります。
いま沖縄においては、公立学校職員の労働三権は保障されており、現に労働組合法によって、学校長、教頭等の管理職も加入して、沖縄県教職員組合が結成されております。
政治行為についても、教育基本法第8条によって、制限と選挙法の教育者の地位利用の禁止以外に別段規制を受ける立法がなく、教職員の政治的発言が保障されてきております。さらに勤評実施の法的根拠がなく、その必要性もないため、教育現場は自由な創造的な教育活動がなされてきました。
それが本土法の即時適用となると、教師の団体行動権が、刑事罰をもって強権で禁止され、政治行為も他の地方公務員以上に全国的な地域制限で厳しくされ、懲戒の事由として処罰されるしくみとなってしまうのであります。
勤評実施ともなれば、本土において、かってその実施の際大混乱がひきおこされたように、沖縄においてもその二の舞いをさせられることは必至であります。
沖縄の教職員が1953年に労働組合を結成しようとした際、米軍から教員の労組決定は思想の強要であるとされ、争議権だけでなく団結権すら認められなかった事実があります。政治行為については、布令165号(琉球教育法)によって全面禁止され、教職員の政治的発言が極度に抑圧されちたのであります。同じように、布令によって教員の契約制が実施され、渡航制限による思想調査やCICによる教員の監視がなされていた事実もあります。
これらの規制から解放されたのは、ようやく14年前からであり、県民の自由を求める幾多の犠牲によってつくり出されたのが現在の諸権利であります。ところが、1967年、教公2法(地方教育区公務員法および教育公務員特例法)が立法院で立法化されようとしました。教公二法は本土の地公法や教育公務員特例法に準じたもので、教職員をはじめ、多くの教育団体や県民から反対され、ついに廃案となったのであります。
県民がこの法律の立法に反対した主なる理由は、沖縄は長年米軍の支配下にあって、ただでさえ県民の権利が大きく抑圧されているにもかかわらず、自らつくる法律でさらに自らをしばることは愚であり、民主社会においてあるべきことではないと県民の多くが判断したからであります。したがって沖縄の教育復興をはかるためには、教職員に可能なかぎりの自由を保障することが必要であるとされたからであります。この自由は復帰後においても当然保障されるべきものであると考えますので、前述の三法の権利規制は不要であります。
教育公務員の争議権禁止は、憲法で保障される生存権の擁護と相容れないものであり、違憲性をもつ疑いのあることは、多くの学者が指摘している通りであります。そのことは本土において教育公務員の争議行為に対する無罪判決の事例でもわかるものであります。
政治行為については、教育の中立性という立場から教育基本法の第8条で制約を受けることは当然でありましょう。それ以上の制約は、教育の中立を犯し、教育を通じて特定政党を支持するような言動があってはじめて妥当でありましょう。しかし、沖縄においてこのような教育をゆがめ、社会に弊害を与えるような行きすぎた教職員の政治行動はありません。教育基本法第8条において政治教育を施す義務を教師は負っており、教師は「良識ある公民たるに必要な政治的教養」を児童生徒に体得させねばならないのであります。
そのためには、教育は自由な雰囲気の中で行われるようにすべきであると考えます。勤評のごときは校長をして教育現場の教職員を職制でしめつけ、権力支配を容易にし、職場を暗くするだけであることは、本土の例で明瞭であります。
勤評実施で本土の教育界は血の争いをおこしました。これを沖縄にもち込むことは、沖縄の教育に大混乱を招くことが予想され、憂慮するものであります。
本土における混乱や、沖縄の教公二法のいきさつからして地公法、教育公務員特例法の条文の中にある規制条項を削除し、特別措置をしていただくよう強く要請するものであります。
さらに「教育の中立性確保臨時措置法」の適用は不要であります。
次に「学校教育法」や「施行規則」および「改訂指導要領」がそのまま適用されると、学校現場における教育の自主性が奪われる恐れがありますので、特別な措置と配慮を要請いたします。
3 教育文化諸環境の整備と格差是正
教育の目的を達成するためには、人的、物的条件整備がまず優先されなければなりません。それに要する費用は、義務教育無償の原則に立って、公費でまかなわれるべきことは当然であります。そして、教育基本法でうたわれる教育の機会均等、教育上差別されてならないことをまた当然で、憲法でいう国民の教育を受ける権利が保障されるべきであります。
しかるに、沖縄の場合、同じ日本国民教育を施しながら、教育費に対する県民の負担はその率において極めて高いものでありました。したがって、本土の基準に達するには、なお相当の期間を要するものであります。
校舎や設備の保有状況は類似県の約70%であり、その格差を是正するには多額の資金が必要とされております。
このような不備な教育条件下では、教育効果は上がらず、教室不足からいまなお、数百の老朽、間仕切り教室でそれを補っている状態であります。とくに、特別教室や屋内体育館、学校図書館などは、ようやく手がつけられたにすぎず、その遅れは比較にならないほどであります。
本土においては、教育が国の責任において行われるようになって、教育のあらゆる条件は、一定の水準によって全国的にその均衡を維持しております。しかるに沖縄は、この水準にはるかに及ばず、大きな格差を生じているのであります。
その要因は施政権の分離という異状態勢下においてそれを理由に施政権者と本土政府が責任を回避してきたためであります。
沖縄に義務教育費国庫負担法に準じた財政措置がなされたのはつい5年前からであり、また国の財政支出を義務づけた教育財政関係法に準ずる財政措置もまだ十分になされておりません。
去る大戦において、沖縄の学校校舎は100%破壊されてしまいました。そのため校舎その他も戦後の困乱期において県民が力をあわせてゼロの状態からようやく現在の状態まで整備してきたのであります。それだけに、沖縄の学校校舎に対しては、当然戦災復旧の考え方に立って、国の責任いおいてその整備を図るべきであります。
しかるに沖縄振興開発特別措置法案によっても教育環境全般について特別措置が十分に講じられておりません。
そこで沖縄における教育現況に留意し、教育水準を一日も早く本土並に引き上げるよう国の特別の措置と配慮を重ねて要請するものであります。
なお、沖縄戦で国宝指定の11の文化財が失われ、かろうじていま163の指定文化財が沖縄に保存されております。これらの文化遺産を国の保護事業で守っていく必要があります。沖縄の文化が国民だけでなく広く世界文化へ貢献するよう積極的な国の保護行政を要請するものであります。
(7)税制、財政、金融について
1税制措置
沖縄県民は、異民族支配の窮乏を担い、本土と異なった環境の下で苦労しながらやっといまの生活を築いてまいりました。そのため県民の多くは、いま復帰を目前に控えて、日本国憲法の下で名実ともに日本国民または人間としての権利を回復することのできることに対する喜びや期待とこれまで営々として築きあびてきた生活の基盤がどのように変転していくかの不安と錯そうした気持ちで政府の復帰対策措置に大いに関心をもっておりましたが、税制措置につきましては、本土政府も沖縄の立場を充分に理解され、前向きの対策が講ぜられつつありますが、次の点で懸念されるものがありますので、本土政府のご理解を求めたいと思います。
その第一は、沖縄租税特別措置法の規定による重要物産の製造等についての所得税又は法人税の免除については、同法の適用期間の残存期間に限り、復帰後もその適用を認められることになっているが、沖縄の重要産業の一部を改正する立法が、1971年10月22日立法第145号で公布され、産業の発展若しくは雇用の増大に寄与し、県民の生活の安定に資することが著しいと認められる産業に対して、今後重要産業の指定が行われることとなりますので、その指定のあった産業についても、沖縄租税特別措置法の相当規定が適用されるよう配慮が必要であります。
その第2は、住民税についてでありますが、所得割の課税標準が、前年所得課税のたてまえから、昭和47年度分のその金額は、沖縄法令の規定による総所得金額の計算の例によって策定される。沖縄所得税法は、財産課税としての性質を有する相続・贈与による所得も一時所得としてその課税の対象となっており、本土の所得税法とは異なるので、当該相続・贈与に係る所得を除いた金額を所得割の課税標準とする経過措置を講ずる必要があります。さらに給与所得については、給与控除額が本土の場合と異なるところから不公平が生じないよう、本土法により算出する経過措置が必要であります。
その第3は、自動車重量税の適用に関する問題であります。本土においては、鉄道を含む道路整備5ヶ年計画の財源措置として自動車重量税が新設されておりますが、鉄道がなく道路交通施設の完備していない沖縄にこれを適用することは問題であります。従って当分の間その適用を延期し、その間に総合的な交通機関の整備をはかる必要があります。
2財政措置
沖縄は、終戦以来異民族支配の下で独立国並みの制度運営を余儀なくされ、本来国の責任において措置されるべき国政業務まで負担してまいりました。しかも米国政府が施政権者としての財政的責任を儒分に果してこなかったため、他府県との教育、社会福祉、産業基盤、その他公共施設等各面において格差を生ずると共に極度の硬直化現象をきたし、多額の職入金に依存せざるを得なかったのであります。琉球政府のこの借入金の処理については、それが沖縄を異民族支配に放置してきた結果であることに鑑み、国は自らの責任においてこれを処理し、また単に他府県並みの交付金方式にこだわることなく諸施策の格差並びに借入金の抜本的な対策を講ずることによって、新生沖縄県の発足にあたっては、それが障がいにならないよう万全を期していただきたいのであります。この点については、すでに本土政府当局は、事柄の本質と問題と重要性を認識され、それが解決について検討されておられますが、その処理のいかんによっては新生沖縄県に深刻な影響を与えることにもなりかねませんので、ここに強く指摘すると共に、琉球政府の借入金以外の債務の処理については併せて、要請する次第であります。
沖縄は、終戦以来国の国内復興対策のらち外におかれ、また施政権者としての米国政府の施策に弱い面も多かったため、いまだにその所得水準は、全国平均の約6割程度にしか達しておりません。一方、教育、社会福祉、産業基盤施設その他公共施設等各面においては全国の平均水準にはほど遠い状態であります。したがって、復帰後の新生沖縄県における財政措置を講ずるにあたっては、沖縄が長期間に亘って日本の施政権の外にあったこと及び沖縄がおかれている社会的条件等による特殊事情を十分に考慮し、同時に沖縄の振興開発を図るための巨額の財政需要が見込まれ、さらにそれに対応するため、他府県よりも多くの職員をかかえるなどの行財政の特殊性があり、また産業や風土の相違もあり、これらに基づく特別の財政需要があります。これらの財政需要に対しては、単に現行地方交付金制度の枠内だけで措置することなく、地方交付税の上乗せ、国の補助率の最高を下らない率の確保、県発足当初における財源の確保等国の思い切った特別措置が必要であります。
3 通貨不安の解消措置
去る8月16日のニクソン声明とこれに続く本土政府の外国為替変動相場制への移行措置によって、ドルを通貨として使用している沖縄では、貿易取引や県民生活の全般にわたってその影響をうけ、これによる県民の不安と損失ははかりしれないものがあります。本土政府は、その後この外国為替変動相場制への移行によって生ずる生活物資の価格高騰を抑制するための生活物資価格安定資金として10億円、本土在住学生の学資補助資金として1億円をそれぞれ支出する旨の措置を講じて戴きましたが、これだけの資金で十分に対処できるものではありません。沖縄県民は、自らの意思によって異民族の支配をうけているのではなく、また好んでドルを通貨として使用するようになったのでもないのであって、県民がこのような状態におかれるようになったのは、すべて日米両国政府の一方的な決定によるものであるから、国はこれらの点を考慮し、この通貨不安問題によっていきさかたりとも県民に不利益を与えることのないよう抜本的な措置を講ずる必要があります。
この通貨不安問題に対する抜本的かつ恒久的対策としては、現在のドル通貨も円通貨への切換えること以外にはないのであります。さきに琉球政府が本土政府と協議のうえ「通貨及び通貨性資産の確保に関する緊急措置」を講じたことは、通貨交換を実現するための過渡的措置としてとられたものであります。したがって通貨交換が遅れれば遅れるほど県民の不安や損失はそれだけ増大することになります。国はその点を考慮して早急に1ドル対360円による通貨交換、賃金の円換算措置(1ドル対360円の割合)、10月9日以降交換時までの資産増加分に対する補償措置等の措置を講じ、また通貨交換が実現されるまでの間の本土沖縄間の貿易取引上の為替差損、学生、長期療養者等に対する生活資金の送金為替差損等についても引き続き特別の救済措置を講じ、この通貨不安問題によって県民にいささかたりとも不利益を与えないようにしていただきたいのであります。


3 具体的要求
(1)「沖縄の復帰に伴う沖縄県民の対米請求権処理の特別措置等に関する法律」(仮称)の制定要請
沖縄県は、去る第二次大戦において戦場となり、その結果、アメリカ合衆国軍隊の占領するところとなり、あまつさえ、県民の意思が問われることなく昭和27年4月28日に発行した日本国との平和条約第3条によって、沖縄県の領域および住民はアメリカ合衆国の施政下に置かれることを余儀なくされました。爾来今日に至るまで26年間、沖縄県民の人権はもとより、財産権等の諸権利は、本土では到底想像もできないほど軽視され、無視されてきました。
いま、ようやく本土復帰を目前に控え、県民は、その軽視され、無視されてきた人権及び財産権等の諸権利が、本土政府によって回復されることを心から願望し、且つ期待しております。
本土政府は「琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」いわゆる沖縄返還協定第4条第1項で「日本国は、この協定の効力発生の日前に琉球諸島及び大東諸島におけるアメリカ合衆国の軍隊もしくは当局の存在、職務遂行もしくは行動またはこれらの諸島に影響を及ぼしたアメリカ合衆国の軍隊もしくは当局の存在、職務遂行もしくは行動から生じたアメリカ合衆国及びその国民並びにこれらの諸島の現地当局に対する日本国およびその国民すべての請求権を放棄する。」ことを認めております。したがって、放棄された県民の対米請求権について、本土政府は、その責任において、これらの救済を保障する法律的措置を講じ、且つ現実に補償すべき責務があると思料いたします。
しかるに本土政府は、県民の期待に反し、いわゆる対米請求権の放棄に伴う救済措置について、今国会に提案された沖縄関係法律案の中には、法律的措置を講ずる規定はありません。このような本土政府の態度に対して、沖縄県民は強い不満と不安を抱いているのが実情であります。
ここに琉球政府は、沖縄県民が、施政権が分離されアメリカ合衆国の施政権行使を認めたことによりアメリカ合衆国の軍隊等の行為等によって蒙った損失、損害等については、本土政府がその責任と負担において補償すべきであると考え、「沖縄の復帰に伴う沖縄県民の対米請求権処理の特別措置に関する法律」(仮称)の制定を強く要請するものであります。
「沖縄の復帰に伴う沖縄県民の対米請求権処理の特別措置に関する法律」(仮称)要綱
1.目的
この法律は、対日平和条約の発効前及び同条約の発効後、施政権の返還までの間、アメリカ合衆国の施政権下において、日本国民の蒙ったすべての損害について、国の責任において補償するための必要な特別措置を講ずること。
2.対象
対日平和助役の発行前及び同条約の発効後、施政権の返還までの間に、アメリカ合衆国軍隊もしくはアメリカ合衆国当局の存在、職務遂行もしくは行動から生じた損害及び米軍人並びにその要員による作為及び不作為から日本国民が蒙った損害で次にかかげる事項
ア平和条約発効前の人身損害
イ平和条約発効後の人身損害(米国の外国人損害補償法により処理されたものを含む)
ウ平和条約発効前の財産損害
エ平和条約発効後の財産損害
オ軍用地の形質変更による損害
カ米軍による入会権制限に伴う通常損害
キ軍用地接収(契約を含む)に伴う通常損害(残地補償、隣接財産の補償、離作補償、水利権補償)
ク軍用地料の増額(土地裁判所の増額要求訴願で棄却されたものを含む。)
ケ滅失地損害
コ演習による漁業操業制限又は禁止による損害
サ原潜入港による漁業収益損害
シ解放地の境界設定費
ス沖縄返還協定第4条第2項、第3項及び海没地の問題の解決に関する交換公文によりなしたアメリカ合衆国の処理に不服なもの
3、時効
この法律で規定する請求権は復帰後10年間、時効は完成しないものとすること。
4、裁判権
原則として損害の生じた地を管轄する地方裁判所または沖縄県庁所在地を管轄する地方裁判所。
5、損害の疎明
損害額は疎明で足りるものとすること。
所掌機関
総理府を所掌機関とすること。
7、この法律の施行について必要な規定は政令で定めること。
8、この法律は施政権返還の日から施行すること。
(以下省略。引用先をご覧ください。)



引用
https://www.archives.pref.okinawa.jp/.../R00001217B-2-1.pdf
https://www.archives.pref.okinawa.jp/.../R00001217B-3-1.pdf

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